緊急事態宣言が解除されるも、感染者数は再び上昇中。まさにウィズコロナ時代の到来が実感される今日この頃である。6回目を迎えた「資金繰り新時代」。中小加工業者の経営を金融機関と顧問税理士が支援するケーススタディをレポート形式で、そして、コロナ禍中の中小企業を必死で支える信用保証協会の奮闘ぶりをインタビューでお届けする。

創業は2000年。化学品・食品の2つの事業を展開する旭電化工業(現ADEKA)のグループ会社・旭友産業の加工部門がEBO(従業員による会社・事業の買収)方式で独立。社名を鹿島加工サービスとした。

日本でのEBO第一号

金融機関との信頼関係構築が最大のリスクヘッジ

 当時、旭電化が行った本体のスリム化、効率化のための構造改革はドラスチックなものであった。EBOやMBO(経営陣による会社・事業の買収)方式で10社ほどの新会社を誕生させたのだ。食品や化学製品の配合・充填・加工・梱包・検査分析・受注発注を請け負う鹿島加工サービスの設立もその流れのなかにあった。ちなみにEBOでの事業承継は、同社が日本でほぼ第一号だという。

 創業メンバーである矢島哲雄常務は言う。

「話が来た時には迷いましたが、当初2年間は母体の旭友産業から賃金補填があり、その後は自分たちの頑張り次第で経営を上向けていく楽しみもあると、同僚とお金を出し合い株を買い取りました」

 創業当時は年商7億円、170名の規模だったが、いまでは15億円、320名とほぼ倍増。丁寧な仕事ぶりが評価され、アウトソーシング化を進めるADEKAからの移管業務が年々増加してきたためだ。食品ではマーガリンやショートニング、チョコレート用油脂、ホイップクリームなど、化学品では半導体材料や電子・情報関連薬剤、金属石鹸など、さまざまな製品素材の製造を手掛ける。豊富なノウハウを駆使して、原料の投入から製造、出荷管理までワンストップで請け負うことができるのが強みだ。

 とはいえ、企業の好調・不調の度合いは、規模だけでは計れない。鹿島加工サービスの売り上げの90%はADEKAからの受注であり、当然ながら値上げ交渉に対する抵抗は厳しい。4年前にADEKAの関連会社から転籍し社長に就任した佐藤正氏が続ける。

「ADEKAさんでは、どうしても当社をコストセンター的に見ることになります。一方で、当社は完全な独立会社なのでできるだけ利益を上げ従業員に還元したい。そのあたりの考え方に齟齬が出てくる。難しいところですね」

 同社の業務は、ADEKAの敷地と設備等を借り受けて行われているので、主な経費は人件費のみ。つまり請負仕事である。身軽と言えば身軽だが、ADEKA本体の従業員との待遇の違いから、モチベーションの低下を招きかねないという。また、ADEKA以外からの仕事を増やそうにも、近年の人手不足からその余裕がない。無理をして人を増やすと負担が増えてリスクが拡大する懸念もある。

「製造部門を再編しすべて当社に移管するか、あるいは再度、ADEKAの傘下に収まるか。今後は、ADEKAさんへのより明確な意思表示と交渉力が必要になってくるかもしれません」と佐藤社長。

銀行と月に数回面談

 とはいえ、経営自体は創業以来、極めて堅調である。基本的には無借金経営。創業以来、同社の財務を見てきた八幡寛史税理士(税理士法人桜頼パートナーズ会計)は、経営になじみのなかった経営陣を一から指導してきた。

 八幡税理士は言う。

「当初から会計システム『FX2』を導入して自計化し、翌月巡回監査、月次決算、書面添付(※)を実践してきました。20年間ずっと、それらを途切らせたことはありませんし、加えて経営革新等支援機関(認定支援機関(※))として、経理業務の効率化もサポートしています」

 今年の3月、税務調査があった際、指摘事項がゼロ(申告是認)だったことに、佐藤社長は「一般的に税務調査では何らかの指摘が必ずあるはずだが、それが全く無かったのは八幡税理士と島田貴弘監査課長の的確な指導のおかげ」と言う。

 部門別管理も徹底していて、食品と化学品に分けた上で、加工1課から5課までの損益を計上。共通費はそれぞれに按分して製品別に正確な利益率が分かるようにしている。これら緻密な計数管理が同社の無借金経営を支えてきたといえるだろう。

 金融機関との関係性を常に親密に保ってきたのも特徴だ。人件費率が高い性格上、年2回の賞与時につなぎ資金の必要性に迫られて借り入れを起こしていたこともあり、金融機関とのコミュニケーションは絶やさずに来た。

 メインバンクの一つである常陽銀行知手支店の目黒恵人氏は「月に1~2回はうかがい、社長さまはじめ経営陣の方々とさまざまなお話をさせていただいています。どちらかと言えばファイナンス以外の定性面のお話が多いかもしれません」という。

 たとえば、事業承継問題について。あるいは、高齢者や障がい者雇用の課題もそう。社員の高齢化への対応や障がい者雇用の法的義務をクリアするために「M&Aを行って雇用の場を創出したい」と言う佐藤社長は、金融機関のネットワークを利用してその課題を解決したいと考えている。

「当社では税理士と金融機関を経営のアドバイザーとして考えています。資金繰りだけでなく、さまざまな知見をいただき、3者で経営を上向けたいという思いが強いですね」

 さて、コロナ禍である。

 ADEKAからの安定した受注はあるものの、やはり全くの無傷というわけにはいかない。食品では壊滅的な観光産業のあおりを受けて土産物メーカーからの受注が大幅に減少。また、化学品では自動車関連の製品に影響が出た。いまのところ業績へのダイレクトな影響は認められないが、今後は不透明である。5月に予定していた創立20周年記念従業員感謝祭も中止となった。

 佐藤社長は言う。

「無借金の当社でも、コロナ禍が深刻化するなど外部要因によるリスクが全く無い訳ではありません。工場停止という万一の状況も考えておく必要があると思っていて、そういうときでも、運転資金をまかなえるような体制づくりが求められます」

※書面添付制度(税理士法第33条の2)
申告書作成のプロセスにおいて計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度

※認定経営革新等支援機関(認定支援機関)
中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等を受けることができるよう、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者として、国の認定を受けた支援機関等

ポイントはスピード

 そこで佐藤社長が導入を決断したのが、電子申告された決算情報が即座にオンラインで金融機関に届く「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」である。さっそく、この5月に取引銀行である常陽銀行に対してMISを申し込み、2020年3月期決算をオンラインで送付した。

 前出の常陽銀行・目黒氏はこう言う。

「通常、我々は企業を訪問し決算書をいただきます。その場合、行き違いになったり、経営者の方が面倒くさがったり、さまざまな事情からなかなかいただけないことも少なくありません。さらに、コロナ禍の状況のなかでは、お会いすることさえできない可能性もあるし、また、いざ緊急的な融資を行うといった場合にはスピードが求められるので、申告後2、3カ月たってから決算書をいただくようでは遅い。MISはそれらの課題をすべて解決してくれるので、とても助かっています」

 いまや金融機関もファイナンスだけを手がけていく時代ではない。企業と伴走しながら経営者のニーズや課題に対するソリューションを提供していく「総合的なサービス」が求められている。その「かすがい」となるのがわれわれだと八幡税理士は言う。

「企業と金融機関を結びつけるのは税理士の重要な役割の一つです。当事務所ではほぼすべての関与先にMISを導入しています」

 結果、「政府系金融機関によるコロナ関連融資にしても、伝え聞く事例に比べて、非常に早く融資が下りているというのが実感です」とも。

 いずれにせよ、企業と金融機関と税理士の3者が相思相愛の状態を維持することが理想形といえるだろう。

 佐藤社長も「財務の健全性はもちろん、経営の方向性を評価・指導していただけるのが税理士と金融機関だと考えています」と三位一体の支援体制に信頼を寄せる。

「今後はさらなる業務の効率化を行いつつ、従業員の待遇改善に取り組んでいきたいと考えています。そのためには八幡先生と目黒さんの協力が不可欠です」

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 鹿島加工サービス株式会社
設立 2000年4月
所在地 茨城県神栖市東和田29番地
売上高 15億円
社員数 320名
URL http://www.kashima-kakoh.co.jp/
取材協力
名称 税理士法人桜頼パートナーズ会計
代表社員 八幡寛史
所在地 千葉県香取郡東庄町笹川い4713-75
URL https://allright-tax.jp/

掲載:『戦略経営者』2020年8月号