レジ業務にタブレット端末を活用する店舗が目立つようになってきた。簡単に操作を行え、経営に役立つ豊富な分析資料も出力できるとあって、ユーザーの評価を着実に高めているのが「ユビレジ」だ。木戸啓太社長に実際の現場における反響と、TKCとの資本提携の意義などを聞いた。

プロフィール
きど・けいた●石川県加賀市生まれ。慶応義塾大学大学院理工学研究科データサイエンス研究科修了。大学時代のバーテンダーのアルバイト経験から、アナログな手法による情報管理に課題を抱く。2009年株式会社ユビレジを設立。10年iPad用クラウドPOSレジ「ユビレジ」を提供開始。

──飲食、小売りなど、サービス業におけるレジ業務の課題をどのように認識されていますか。

木戸啓太氏

木戸啓太 氏

木戸 近年は訪日外国人の増加にともない、クレジットカードやQRコード決済をはじめ、多様な決算手段に対応する店舗が増えています。ただ、地方都市で顕著ですが、現金に対する信頼感が依然根強いのも確か。会計金額のみを計算する、いわゆるレジスターを使用している中小店舗も少なくありません。
 昨年10月、消費税の軽減税率制度がスタートし、商品ごとの正確な税率管理と計算が求められます。さらに働き方改革関連法に基づき4月以降、中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されました。そうした現状を鑑みると、日々の経理業務の省力化は喫緊の課題であるといえます。

──iPadを活用したタブレットPOSレジサービスで草分けだとか。

木戸 iPadの初代モデルが発売されたのが2010年ですが、まもなく業界初のiPadによるPOSレジサービス「ユビレジ」の提供を開始しました。「指先から、レジから、人が人と対面する仕事を社会を変えていく」をスローガンに、店舗運営や経理業務を効率化するさまざまなサービスやアプリを提供しています。
 昨今は業務効率化を目的とした問い合わせはもちろん、足元では感染症対策としてキャッシュレス決済の導入を含む相談案件も散見されます。

──感染症対策ですか?

木戸 不特定多数の人々が触れるため、紙幣や硬貨には数多くの雑菌が付着しているといわれています。現金を受け渡しする機会を極力減らし、感染リスクをなくしていくことは事業継続を図るうえで重要なテーマです。

誰でも簡単操作

──「ユビレジ」の売りを教えてください。

木戸 中小店舗の現場スタッフはITツールを使いこなせる人ばかりとはかぎりません。一番の売りは「カンタンがいちばん」をコンセプトに置いた、誰でも使いこなせる操作のしやすさ。より少ない操作でレジ業務やオーダー業務を行ってもらえるよう、作り込んでいる点がこだわりです。
 加えて手厚いサポートも特長で、導入時の訪問や電話によるフォローなどの充実したアフターサービスを行っています。
 クラウド型のサービスのため、会計データはクラウド上に保存され、リアルタイムに確認できます。簡単な操作で、さまざまなデータを収集、分析して売り上げ向上や経理業務の効率化に役立てていただいてこそ、このシステムの価値が生まれると考えています。

──ユーザーの業種は多岐にわたるそうですね。

木戸 ユーザー数は右肩上がりで、飲食店、小売店、理美容店をはじめ約3万店舗で利用されています。規模は個人店から100店舗以上ある飲食チェーンまでさまざまです。iPadの言語設定を変更すれば、英語表記で利用することもできます。

──サービスのラインアップは?

木戸 ユビレジのほか、アイフォーンやiPod touchを端末にしたオーダーシステム「ユビレジハンディ」、POSレジと連携し、在庫管理と発注業務をサポートする「ユビレジ在庫管理」を提供しています。
 飲食店を例に利用方法を説明すると、オーダー時、接客スタッフはユビレジハンディでテーブル番号を選択し、人数、属性を入力します。注文メニュー、個数を入力して「注文」をタップすると、厨房にあるプリンターからオーダー伝票が印刷されます。そしてユビレジハンディで注文データをユビレジに送信し、決済方法を選びレジ会計を行うという流れです。
 クレジットカードやPayPay、LINEペイなどのQRコード決済等、多彩な決済方法に対応しています。

──どのようなデータ分析ができるのでしょう。

木戸 ユビレジの管理メニューでは、商品の売り上げを日別、月別、部門別(店舗別)等の観点から分析できます。これらのデータを切り出してグラフに加工し、視覚的に把握することも可能です。売れ筋商品を可視化し、商品構成の見直し等に活用できます。
 また、来店客のオーダー内容や購入金額、来店履歴などの情報を管理する顧客管理機能も備わっています。これらの機能を活用することで顧客満足度を高め、リピーター獲得に役立てられます。

顧客との関係を強化

──活用事例を教えてください。

木戸 サービス業の接客スタッフは日常業務に追われていると、たとえ常連客であっても、以前どんな商品を購入したのかを忘れてしまうものです。ある菓子販売店さまでは、常連客が来店した際、ユビレジの顧客管理メニューで前回の販売情報を確認し、商品の感想を聞くといった取り組みをされているそうです。
 またユーザーのネイルサロンさまでは、顧客のネイルにデザインを施した後、ネイルの写真を撮影。顧客の好みのデザインを把握し、サービスの向上に役立てられています。いずれのお店でもユビレジをコミュニケーションツールとして活用し、顧客との関係強化を図られています。

──ほかに変わり種の業種で利用されている例はありますか。

木戸 東京都内をはじめ各地にギター教室を20教室以上展開されている企業さまでは、従来、受講生から支払われたレッスン代を講師が各自ノートに手書きで記録していました。各教室にユビレジを配布して以降、レッスンを担当した講師が教室名、生徒名、入金日等を端末に入力し、本部が売り上げを一元的に管理できるようになったそうです。
 手書きの帳簿作成には1教室あたり月に10時間ほどを要しており、講師の時給を1200円とすると、毎月1万2000円コストが発生していました。ユビレジ導入により、月額利用料である7000円を差し引くと、毎月5000円を削減できたことになります。20教室以上あるため、トータルで月10万円以上のコスト削減につながったわけです。

──インパクトのある事例ですね。

木戸 導入当初、ユビレジは操作が簡単とはいえ、操作方法を覚える必要があるため、従来の運用方法の方が楽との声もあったようです。しかし、ユビレジの運用が軌道に乗っている現在「手書きで帳簿をつけるより、断然ラクになった」とうかがっています。

──昨年、会社設立10周年を迎えられましたが、創業のいきさつをお聞かせください。

木戸 もともと実家は米屋を営んでいて、商売が身近にある環境で育ちました。起業を考えたのは大学に通うかたわら、バーでアルバイトをしていたとき。レジ業務を行うたびに電卓で金額を計算し、閉店後は売り上げの集計に追われていました。
 やがてiPadが発売され、「ノートパソコンを使用できない人でも、これならデジタルツールとして手軽に活用できるのでは」と考えました。アナログなレジ業務に疑問を感じたのが起業の原点です。

システム連携で省力化

──昨年TKCと資本提携を締結された背景を教えてください。

木戸 われわれは「カスタマーサクセス」と呼んでいますが、ユーザーの皆さまのビジネスが成功してはじめて事業が成立すると考えています。TKCでは社是として「自利利他」を掲げており、目指す方向性が一致すると感じ今回の資本提携に至りました。

──資本提携により、どのような効果を期待されていますか。

木戸 TKCの会員税理士の方は関与先企業を毎月訪問し、現場できめ細かいサポートを行われていると聞いています。『FXシリーズ』とユビレジをあわせて利用いただくことで、経理業務の効率化や生産性向上を実現できるものと期待しています。

──ユビレジと『FXシリーズ』併用時の具体的なメリットは?

木戸 ユビレジに入力した売り上げに関わる取引データを『FXシリーズ』にそのまま取り込めるので、取引の入力もれや金額などの入力ミスの心配がありません。さらに、部門別(店舗別、商品カテゴリー別等)に仕訳を連携させることもできます。そのため、顧問税理士の方はコンサルティング業務や経営改善のサポートにより一層時間を割けるようになるでしょう。また、TKCの担当者との打ち合わせも綿密に行っており、法改正への対応もタイムリーに実施しています。

──システムデモを確認できる場はありますか。

木戸 東京と大阪にあるショールームではユビレジのデモ機を展示しており、システム操作を体験していただけます。フリーダイヤルの電話相談窓口を用意しているほか、昨今は外出の自粛要請がなされているため、オンラインによる商談も随時受け付けています。

──今後の機能強化の予定をお聞かせください。

木戸 ITツールの提供を通して経営の効率化や付加価値向上を図るのがわれわれの使命であり、レジシステムはその起点にすぎません。TKCとの資本提携を機に、中小企業の業務効率化に貢献するサービスをさらに拡充していきたいと考えています。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2020年5月号