福島市の北部に位置し、「献上桃の郷」として知られる桑折町(こおりまち)。特産の桃を生かした商品開発を通し、地域振興の一翼を担っているのが桑折町振興公社である。資金収支の把握や職員の給与計算、さらには商品の販売管理にTKCシステムを活用し、日常業務を大幅に合理化した。渡邉美昭理事長と安齋りつ子経理担当、小野宏一顧問税理士を交え、経理事務や働き方に及ぼした効用を聞いた。
桃をぜいたくに用いたオリジナル商品が好評
渡邉美昭理事長
──地元で収穫された桃を用いた独自商品を扱われているそうですね。
渡邉 桑折町産の桃「あかつき」を原料にしたアイスクリーム「至福の桃ソルベ」や、「至福の桃グミ」といった〝6次化商品〟を開発、販売しています。
福島県は2019年まで26年連続で、天皇家をはじめとする皇族の方々に桑折町産の桃を献上してきました。町内で生産している桃はおよそ30種類にのぼりますが、なかでもあかつきは福島県を代表する人気品種で、高い糖度が特徴です。
──商品開発のいきさつを教えてください。
渡邉 県内の桃の収穫時期は6月下旬から10月初旬にかけてですが、あかつきの場合、7月下旬から収穫が始まり約2週間でピークを迎えます。あかつきを1年中おいしく味わってもらいたいという思いから食品加工会社と共同開発したのが至福の桃ソルベです。果汁を75%含んでいるため味が濃厚で、購入者から「凍らせた桃を食べているみたい」といった感想が寄せられています。
至福の桃グミも共同開発によるオリジナル商品。手ごろな価格からまとめ買いされる方が多く、お土産品として人気を博しています。東京と仙台市内の主要郵便局窓口での販売も提案されており、今年の出荷数は20万個を超える勢いです。
──施設の運営も手がけられていると聞きました。
地元の食材をふんだんに用いた「ピザヨーチエン」は人気メニューのひとつ。
ディナーではコース料理も提供する。
渡邉 桑折町にある食と農の交流拠点「レガーレこおり」の運営管理を受託しています。レガーレはイタリア語で「つなぐ」という意味。もともと幼稚園の園舎だった建物を改装し、農業振興拠点として18年にオープンしました。6~11月の最終日曜日には「伊達崎マルシェ」を屋外スペースで開催し、地元生産者が農産物を直販しているほか、イタリアンレストラン「PizzaSta(ピザスタ)」ではピザをはじめとする料理を提供しています。
──看板メニューは?
渡邉 いち押しは桑折町産のイチゴや桃、リンゴなど四季に応じた果物や野菜をトッピングした「ピザヨーチエン」ですね。ピザ職人が窯で焼き上げる本格的なピザを求めて、近県からクルマでやってくる方も少なくありません。
──どんな広告宣伝活動を行っていますか。
統一感あるパッケージデザインを採用。
福島県内の小売店やオンラインショップ、公社窓口で販売している。
渡邉 大々的な広告は出していません。おそらく口コミや、ソーシャルメディアで「おいしかった」という感想を目にして訪ねてこられた方が多いのではないでしょうか。フェイスブックとインスタグラムに公式アカウントを開設し、商品やイベント、求人募集に関する情報を随時発信しています。
──そのほか桑折町ならではの特徴としてアピールしている事柄はありますか。
渡邉 われわれはあくまで6次化商品の開発および販売をメインに行っていますが、同時に桑折町独自の安価な保育料や18歳までの医療費免除等、手厚い子育て支援策も機会をとらえアピールしています。
伺書から仕訳計上までシームレスに連動
──おととし『FX4クラウド』を導入されました。経緯は?
渡邉 桑折町から受託している事業の種類が多く、事業別の詳細な実績数値の把握が長年の課題になっていました。顧問税理士の小野宏一先生に相談したところ、『FX4クラウド』というシステムがあるよと。早速システムのデモを行ってもらい、従来利用していた『公益法人会計データベース』から移行しました。
これによってレガーレこおりと、町営の宿泊施設「うぶかの郷」と本部の3カ所での分散入力が可能となりました。うぶかの郷の指定管理事業が19年3月末に終了したことで、現在は2カ所でシステムを運用しています。
──デモをご覧になった時の感想はいかがでしたか。
安齋 システムに入力した伺書は承認後、仕訳データに自動的に変換されると聞き、目からうろこが落ちる思いでした。伺書を入力するだけで本当に済むんですかと。
従来はスプレッドシートで独自の書式をつくり、担当者が伺書を入力し、上長が内容を確認後、仕訳を計上するという流れだったため、とても手間がかかっていたんです。また、数字をセルごとにひとケタずつ入力する必要があったり、伺書を印刷すると文字が切れて判読できなかったり。用紙を何枚無駄にしたかわかりません。『FX4クラウド』移行後は経理業務を合理化でき、月次決算に要する時間も減り、今ではほとんど残業しなくて済むようになりました。
小野宏一顧問税理士
小野 監査する側の視点で述べると、伺書の内容を仕訳として入力しなおすから、勘定科目や金額の入力ミスが起こるわけです。移行前と比べると仕訳の精度が格段に高まり、月次監査に1時間半ほどかかっていたのが、1時間で完了するようになりました。訂正をお願いする項目は、課税区分ぐらいです。
──システムにはどのような事業区分を登録しているのでしょう。
渡邉 地域振興事業として、至福の桃ソルベ等の販売を管理する「6次化商品開発事業」や、「半田山山開き事業」、「ホタル観賞事業」といったイベントを登録しています。さらにレガーレこおり関連の事業は、農業振興活動拠点管理運営事業に束ねています。イベントごとに発生した経費に関わる資料を作成し、町へ提出する必要がありますが、簡単に作成できるので助かっています。
──伺書入力はどのように?
安齋りつ子経理担当
安齋 レガーレこおりにあるパソコンからも入力できる体制になっていますが、担当者は接客などの日常業務に追われているため、私がメインに行っています。複数の拠点があるぶん、伺書はそれなりの件数にのぼります。『FX4クラウド』なら伺書入力から仕訳計上まで自動で行えるので、日常業務をだいぶ省力化できました。小野先生の月次監査の日を、気持ちに余裕をもって迎えられるようになったのはありがたいです。
──まもなく決算期の3月末を迎えますが……。
安齋 従来は小野先生の事務所で期末整理仕訳を入力してもらい、その仕訳データをシステムに読み込む必要がありました。追加の仕訳が発生したり、金額が間違っていたりするたびに小野先生にファクスしていたので、申し訳なく感じていました。『FX4クラウド』ではシステムで期末整理仕訳の訂正ができるので、負担が軽くなりましたね。
──昨年10月に消費税の軽減税率制度が導入されましたが、影響はありますか。
安齋 至福の桃シリーズはオンラインショップのほか、公社窓口でも販売しており、散策のついでに立ち寄って購入される方もいます。軽減税率により商品や送料等、品目に応じて消費税を計算しなければならず、業務が煩雑になると6次化商品販売担当の職員から相談を受けました。そこでTKCの『戦略販売・購買情報システム(SX2)』を導入し、商品販売にまつわる請求書、領収書発行業務のデジタル化を図りました。
システムには、オンラインショップのお客さまやイベントへの発送を依頼いただいた事業者さまも得意先として登録でき、手書きで書類を作成していたころと比べると劇的に変わりました。
──新商品の発売予定はありますか。
渡邉 至福の桃シリーズ第3弾商品となる「至福の桃飲むこんにゃくゼリー」を3月に発売しました。食物繊維やコラーゲン等を配合しており、昨今の健康志向の高まりを反映してか、すでに多くの引き合いをいただいています。町民の中にはソルベやグミをまだご存じでない方もいるので、さまざまな媒体での情報発信を通して商品の認知度を引き上げていきたいですね。
(北日本統括センター・種市比登志/本誌・小林淳一)
名称 | 一般財団法人 桑折町振興公社 |
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設立 | 1995年3月 |
所在地 | 福島県伊達郡桑折町大字下郡字下郡前5-2 |
職員数 | 10名 |
URL | https://www.koori-shinkokosya.jp/ |
顧問税理士 | 税理士 小野宏一 会計事務所OK 福島県福島市野田町4-10-48 URL:https://www.tkcok.com/ |