助成金を不正に受給した場合の罰則が厳しくなったと聞きました。厳罰化の内容と、不正受給とならないための留意点について教えてください。(機械部品製造業)
2019年4月1日から、雇用関係助成金の不正受給が厳罰化されました。
助成金の「不正受給」とは、書類の偽造行為等の不正行為により、助成金を受給することまたは受給しようとすることをいいます。助成金受給決定後に不正が発覚した場合のみならず、計画申請・審査過程段階で発覚した場合も不正受給に含まれ、その後取り下げをしたとしても不正受給として取り扱われることになります。
不正受給が発覚した場合、取り返しのつかないペナルティーが科されることがあります。
すでに助成金を受給している場合、支給した助成金のほか、違約金として20%相当額、年5%に相当する延滞金を追加で返還することになります。それだけでは済まされず、①代表者の氏名②事業所の名称、所在地、事業概要③不正受給した助成金の名称、支給取消日、不正の内容等が都道府県労働局のホームページに掲載され、5年間(従来は3年)は雇用関係助成金の支給申請ができなくなり、特に悪質な場合は刑事告発の対象となります。
悪質コンサルタントに注意
不正受給の典型的なパターンは、①書類の偽造・改ざん②虚偽の雇用実態③領収書による過大請求等によるものです。①の事例としては、雇用調整助成金の出勤簿の偽造・改ざんによるものがあります。雇用調整助成金は不景気(新型コロナショックも含む)による雇用維持のため従業員を休業させる休業手当等の一部を助成するものですが、実際出勤しているにもかかわらず、出勤していないとする出勤簿を作成して受給する場合等が該当します。その他の雇用関係助成金もほとんどの場合出勤簿・賃金台帳が添付書類となるので十分注意してください。
②の事例としては、キャリアアップ助成金正社員化コースの虚偽の雇用実態によるものがよく見受けられます。キャリアアップ助成金正社員化コースは有期契約労働者等の非正規労働者の賃金アップ等の処遇を改善して正社員等にした場合に受給できるものですが、すでにいる正社員を非正規労働者に偽装して受給する場合等が該当します。
③の事例としては、業務改善助成金、時間外労働等改善助成金、人材開発支援助成金等の設備投資・教育訓練の経費過大請求によるものがあります。経費助成に関する助成金は上限枠があり、より上限枠に近い助成金を受給するため、実際支払った経費以上の領収書を添付して受給する場合等が該当します。
また、悪質な一部の助成金コンサルタントや研修実施会社が着手金や多額の成功報酬を得るために書類作成代行者・書類提出代行者として書類の偽造・改ざん・提出を行う可能性があるので注意してください。助成金申請書の提出に際しては自ら確認して提出することをお勧めします。不正受給の認識がなくても不正受給の責任が問われ、社会的損失・制裁を受ける一番の被害者は助成金を受給する会社です。雇用関係助成金は雇用保険料を原資とする返済不要のお金で魅力的ですが、まず助成金を受給できる労働関係法令に準拠した雇用環境の整備に力を入れるべきでしょう。