資金調達手段として脚光を浴びているクラウドファンディング。最近では、マーケティングや広告宣伝のために活用する動きもあるようだ。中小企業の活用事例を取材し、その可能性を探ってみた。

プロフィール
さとう・きみのぶ●立教大学卒業後、クレディセゾンの企画業務職を経て、2000年にパブリックトラストを設立。経営理念の掘り下げと経営戦略の構築支援を通して、共感される経営を指導する傍ら、クラウドファンディングに関するセミナーを定期的に開催している。主な著書に『もしワンピースファンの女子大生が起業したら』(イーグルパブリッシング)、『クラウドファンディング2.0』(日本文芸社)など。
実践!クラウドファンディング

 クラウドファンディングとは、特定の目的を持った個人あるいは団体が、インターネット上の仲介者(プラットフォーマー)を通して一般の人から資金を募る活動のことであり、具体的には、プラットフォーマーが展開するウェブサイト(クラウドファンディングサイト)にプロジェクトの概要や目的を掲載し、他者から共感を得ることで資金を調達することを意味します。ちなみに、「クラウド」とは「雲(cloud)」ではなく「大衆(crowd)」です。大衆の共感を得ることで資金を調達し、プロジェクトを成功に導く。これがクラウドファンディングの本質です。

 広く資金を募るという考え方そのものは、古くから世界中の至るところで確認できます。例えば、鎌倉時代に焼き打ちで消失した東大寺の改修作業や、「自由の女神」像の台座の建造は、大衆からの寄付によって行われました。クラウドファンディングは、「寄付」の考え方がインターネットという新しい技術と融合したことによって、生まれたものです。日本では、2011年に発生した東日本大震災の被災地支援が、クラウドファンディングを通じて頻繁に行われたことで、世間から注目を浴びるようになりました。

プラットフォーマーを知る

 クラウドファンディングは、取引の性質によって「売り上げタイプ」と「金融タイプ」の2種類に、さらに細かく分類すると、「売り上げタイプ」は「寄付型」と「購入型」に、「金融タイプ」は「融資型」、「ファンド型」、「株式投資型」に分けることができます。

 それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

寄付型
 一般大衆から広く「寄付」を募るタイプです。1案件あたりの調達金額はだいたい5~60万円程度で、国際支援、食糧支援、自然保護など、さまざまなプロジェクトがあり、中には所得税、住民税、法人税などの税制の優遇措置を受けられるものもあります。内容自体は一般的な寄付行為と変わらないので、物品的なリターンは原則としてありません。ただ、出資者が「社会に貢献した」という満足感が得られるように、プロジェクトを練り上げることはもちろん、寄付を募る目的や理由をクラウドファンディングサイトにしっかりと明記する必要があるでしょう。

購入型
 製品の開発や製造目的で資金を調達するタイプで、「ネット通販(前払い)」をイメージすれば分かりやすいでしょう。1案件あたりの調達金額はだいたい100~300万円で、リターンは商品などの成果物。マーケットリサーチを目的として活用する利用者もいます。2018年に朝日新聞社が展開するクラウドファンディングサイト「A─Port」で行われた、「歌手の安室奈美恵さんに感謝の気持ちを伝える広告を掲載する」というプロジェクトでは、目標金額を大幅に超過する1500万円の支援が集まり、大きな話題を呼びました。成功のポイントは、プロジェクトや商品の魅力が出資者にはっきりと伝わるように意識することです。クラウドファンディングサイトには、明瞭な文章、写真、動画を用いて具体的にはっきりと紹介することが肝要です。ちなみに、プラットフォーマーの数で最も多いのが「購入型」です。

融資型
 プラットフォーマーが不特定多数から資金を募り、企業やプロジェクトに貸し付けるタイプです。日本では、保有する不動産などを担保として差し出し、資金を借り入れる方式が定着しています。融資を受ける人は、担保を差し出すことでプラットフォーマーが代わりに資金を集めてくれます。1案件あたりの調達金額はだいたい数百~1000万円程度で、出資者へのリターンは「利息」です。プラットフォーマーは、金融商品取引法、貸金業法の規制を受けるほか、第二種金融取引業の免許が必要です。

ファンド型
 プロジェクトや商品開発の資金をファンド(基金)として募集する形態です。集まった資金は3~5年の期間限定で使うことができ、期限が到来したら一括で返済(償還)する必要があります。融資型同様、プラットフォーマーは金融商品取引法の規制を受けるほか、第二種金融取引業の免許が必要です。1案件あたりの調達金額は数百~2000万円程度と言われており、出資者へのリターンは「配当」です。

株式投資型
 金融商品取引法の改正に伴い、2017年からスタートした資金調達方法です。「株式投資」とあるように、株式会社のみ利用が認められています。公募増資で出資する方式で、新規株式公開(IPO)と同じ形態です。よって、出資者は「株主」になります。プラットフォーマーは、銀行や証券会社と同じように第一種金融取引業の免許を取得し、日本証券業協会から事業内容の審査を受けた信頼性の高い会社です。株式投資型のプラットフォーマーは2019年4月現在、5社(うち2社は開業準備中)しかありません。1案件あたりの調達金額は2000~5000万円程度です。ちなみに、株式投資型クラウドファンディングをIPOになぞらえて「IFO(Initial Fund Offering)」と呼ぶこともあり、新規事業の立ち上げなどまとまった資金調達に活用され始めています。合格率は2%とIPOほどではないにしろ狭き門ですが、その分会社の社会的信頼が増します。

 クラウドファンディングで資金調達する場合は、類型ごとの特徴をしっかりと理解し、自分の価値観やプロジェクト内容と照らし合わせて、最善の手段を選択することが成功のポイントです。同類型であってもプラットフォーマーによって考え方や出資者の性質が異なりますので、クラウドファンディングサイト選びも重要です。

 プロジェクトに出資する場合にも注意が必要です。クラウドファンディングは比較的新しい資金調達方法であるため、詐欺まがいのプロジェクトなどトラブルが散見されます。トラブルに遭うリスクを抑えるためには、出資者自身がプロジェクトの内容をしっかりと精査し、信頼性を見極める力が求められます。クラウドファンディングを通じて資金提供する場合は、プロジェクトの内容や展開している団体はもちろん、クラウドファンディングサイトやプラットフォーマーの実態を必ず確認してください。

 特に、金融タイプのクラウドファンディングは投資目的で安易に手を出してはいけません。あくまでも、企業やプロジェクトを〝応援する〟ために資金を提供するという本質を、肝に銘じておく必要があります。クラウドファンディングはハイリスクハイリターンの投資です。応援する気持ちを貨幣価値で表したものとも言えます。ハイリターンだけを期待して投資するのは誤りです。

必要なのは〝不断の努力〟

 クラウドファンディングサイトにプロジェクトを掲載すれば簡単に資金が集まると考えるのは大きな間違いで、失敗する可能性も決して小さくありません。資金調達に成功するためには、プロジェクト発信者自身の「学ぶ姿勢」や「不断の努力」が求められます。過去に成功を収めたプロジェクトをチェックしたり、文章表現などの構成を研究したり、「なぜ資金提供を受ける必要があるのか」、「プロジェクトを通して社会にどういう影響を与えたいのか」など、活動の意義や目的をサイトにしっかりと記載するなどの努力に比例して資金が集まると考えてください。プラットフォーマーによっては有効なアドバイスなどの支援も期待できますが、細部まで面倒を見てくれるわけではありません。商品やプロジェクトの魅力を出資者に伝えるにはどうすれば良いかを研究し、創意工夫を行うことが必要なのです。

 クラウドファンディングは、インターネットが普及した現代だからこそ使える新しい手法です。IFOをはじめ法整備も着々と進んでおり、プロジェクトの意義や目的をしっかりと説明し「応援したい」という「共感」を呼び起こすことができれば、中小企業にとって画期的な資金調達手法になり得ます。クラウドファンディングは今後の日本経済活性化の起爆剤になるかもしれません。

(インタビュー・構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2019年5月号