「平飼い」という鶏を放し飼いにする養鶏法で有精卵を生産している永光農園。札幌市の郊外に位置する同農園では、自社の卵を使用した洋菓子製造も手がける。その独特の経営手法でマスコミからも注目される永光洋明社長と、同社の財務をサポートする岩田圭史顧問税理士に話を聞いた。

──実家は有機野菜農家だとか。

永光洋明社長

永光洋明社長

永光 私が5代目になります。当初は野菜農家を継ぐ予定だったのですが、大学生の時に父から養鶏を勧められ、方向転換しました。

──なぜ先代は養鶏を勧めたのでしょうか。

永光 有機野菜は大変なんです。除草剤を使わないので草取りも手作業ですしね。とはいえ、養鶏は気が進みませんでした。しかし、父に手渡しされた『自然卵養鶏法』(農山漁村文化協会)という本を読んで意識が変わりました。自然と調和して、本物の農作物を作って生きていくことにあこがれを感じたのです。

──どのような養鶏法を実践されているのでしょう。

“平飼い”による養鶏

“平飼い”による養鶏

永光 経済合理性を追求した「ケージ飼い」ではなく、鶏を地面に放して自由に動き回らせる「平飼い」で養鶏を行っています。平飼いの鶏は本来の習性に沿った生活ができるのでストレスがなく、健康に育つし良い有精卵を産みます。また、エサは安全性にこだわった自家配合で、米、小麦、魚粉、海藻など内容の90%以上は北海道産のものを使用しています。

──卵の特徴を教えてください。

永光 黄身はナチュラルなレモンイエローで甘く、豊かなうま味とコクがあります。また、農場からの直販なので新鮮そのもの。割ると、市販の卵では経験できない生きの良さに驚かれるはずです。

──販売ルートは?

『コッコテラス』の外観

『コッコテラス』の外観

永光 最初はこの場所で、ベニヤ板を組み合わせて売り場をつくり、幟(のぼり)を立てて販売していました。購入者にはチラシを渡し、注文を募って配達するという形でしたね。「農家からの直買い」という付加価値が受けたのか、まずまずの売れゆきでした。いまは主に、カフェ併設の自社店舗『コッコテラス』(2014年オープン)や催事、外部店舗への卸しといったルートで販売しています。

──何羽の鶏を?

永光 100羽でスタート(1998年)して、その後順次増やしていき、しばらくは1000羽前後で推移していましたが、2006年に洋菓子の製造販売をスタートしてから一気に増えました。現在は約3000羽となっています。

──洋菓子販売に乗りだしたきっかけは?

永光 規格外の卵を捨てるのはもったいない。何かつくれないかということで、小麦粉と砂糖とサラダ油で手軽に作れるシフォンケーキに挑戦してみました。ふわふわとした食感と口のなかで溶けるおいしさが周囲に受けたので販売することにしたのです。

──まったくの異分野でとまどいはなかったですか。

永光 大きな商売にする気はありませんでしたが、洋菓子関連のブログを制作すると、それを見た近隣のショッピングセンターの関係者からテナントに入らないかという誘いが来て、結局、店舗の展開にも乗り出すことになりました。すると「養鶏農家がつくる洋菓子」ということで多くのマスコミに取り上げられ、またたくまに5店舗にまで増えました。

──『満点☆青空レストラン』(日本テレビ)にもご出演されたとか。

永光 はい。でも、ブームは一時的でした。一巡するとすぐに売り上げは落ち、結果的に全店閉店しました。とはいえ、知名度の面ではプラスだったと思います。現在は、サクサクカスタードやシュークリーム、どら焼きなど品ぞろえを7アイテムに広げ『コッコテラス』に販売を集中しています。

シフォンケーキ

店内のショーケース(左)、シフォンケーキ(中)、洋菓子工房(右)

限界利益を注視しながら事業の実態を把握する

──岩田(圭史)先生とのご関係は?

永光 圭史君とはいとこどうしで、なんでも相談できるし、いつも助けられています。

──どんなきっかけで?

永光 他の税理士事務所につとめていた圭史君が独立すると聞いて、財務面での管理をゼロベースで見直そうと思い、顧問就任を依頼しました。実際、リアルタイムの数字が分かるようになりとても良かったと思っています。

岩田圭史顧問税理士

岩田圭史顧問税理士

岩田 月次で、しかも部門別に損益を見たいというのが永光社長からの最大のリクエストでした。それに応えるべく、『FX2』の部門別管理機能を活用することにしました。永光社長は数字に対する「勘」がとても鋭いという印象です。

──どのような部門に分けておられますか。

岩田 鶏舎(卵直販)、店舗(コッコテラス)、工房(洋菓子卸)、催事の4部門です。さらに「店舗」部門では売り上げを卵、菓子、飲食3つに、「催事」部門では卵、菓子の2つにコード分けしています。さらに、TKCの経営計画策定システム『継続MAS』を使って部門別の予算を作成し、そのデータを『FX2』と連動させて毎月の予実管理も行っています

──ずいぶん細かいですね。

永光 以前は赤字が出ても何が原因なのかが判然としませんでした。しかし、いまは部門別の詳細な数字がリアルタイムで分かりますから、自信を持って対策を打つことができています。

──注視している勘定科目は?

永光 各部門の限界利益です。実は昨年、産卵率が大幅に落ちて鶏舎部門にかなりの赤字が出ました。以前なら「鶏舎運営をやめてしまおうか」と考えたくなるほどの悪い数字でした。しかし限界利益額を見ると、まずまずの黒字幅。要は減価償却費などの間接費が赤字幅を大きく見せていたのです。

岩田 部門ごとに損益計算書(PL)を作成しているので、永光社長は会社の正確な状況を把握することができていると思います。例えば卵を工房で使用するときには「鶏舎」と「工房」の間で売り上げと仕入れを計上するなど、部門間での内部取引を精緻に反映させているので、部門別PLには各事業の〝真の損益〟が集計されています。

永光 利益が十分に出ている時には、気にもならないのでしょうが、赤字が出た場合には少なくともその「原因」を把握する環境がないとまずいと思います。どの事業に対してどんな手当てをしたらよいのかが分からないと対策のしようがありませんから。ちなみに今年は、鶏舎の温度管理などをがらりと変えた結果、産卵率が2倍に跳ね上がりました。やめなくて良かった(笑)。

──今後はいかがでしょう。

永光 通販に力を入れたいと思っています。そのためにはこれまでのビジネスモデルを少し変える必要があるかもしれません。まずは、それなりの広告宣伝費を使って、本当に良い商品だと分かってもらえる購買層を探り当てる。価格はいくぶん引き上げる必要があるでしょう。さらに定期購入という形で安定した収益を得ることができればと考えています。商品力には自信があります。「養鶏業者」という強みを生かしながら、ファンを全国に広げていきたいですね。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社永光農園
創業 1998年4月
所在地 北海道札幌市清田区有明216
社員数 5名
URL http://nagamitsufarm.com/
顧問税理士 岩田税理士・社労士事務所
税理士 岩田圭史
北海道札幌市豊平区美園1条5-3-20
URL:http://iwata-tax.net/

掲載:『戦略経営者』2019年3月号