予想通り、消費税率引き上げへのフォローアップが前面に打ち出された2019年度税制改正大綱。詳細に見ていくと、中小企業経営にとって決して軽視できない内容が散見される。今仲清、畑中孝介両税理士に解説してもらった。

プロフィール
いまなか・きよし●昭和26年生まれ。59年税理士事務所開業。63年経営サポートシステムズ設立、代表取締役に就任。平成25年、税理士法人今仲清事務所に移行。約280社の中小企業の税務監査、経営計画の策定、経営助言を行う。また、不動産有効活用、相続対策の実践活動を指揮しつつ、講演は年間80回にのぼる。資産運用の総合対策計画策定のサポートも多数手がける。都市農地活用支援センター・アドバイザー、区画整理機構・派遣専門家

──2019年度税制改正大綱の目玉は何でしょうか。

今仲 難しい質問ですね(笑)。今回は「目玉なき税制改正」といった感じですが、やはり、消費税引き上げに伴う対応をまず挙げる必要があるでしょう。なかでも住宅ローン控除の拡充(『戦略経営者』2019年2月号P9図表1参照)は比較的重要だと思います。

消費税値上がり分を補てん

2019年度 税制改正徹底解説

今仲 現行の住宅ローン控除は期間が10年で、認定長期優良住宅、認定低炭素住宅なら年末借入金残高の限度額5000万円、控除率1%、最大控除額500万円、また、一般住宅ならそれぞれ4000万円、1%、400万円となっています。つまり、現行のままでは、消費税が2%上がった分を購入者はそのまま負担することになります。
 そこで今回の改正では、その部分を手当てするために、消費税が引き上げられる今年10月1日~20年12月31日までに購入・居住開始した場合、控除期間を現行の10年から13年に延長する措置がとられます。しかし、単純に3年分延長するのではありません。たとえば5000万円の借り入れを行った場合、消費税が2%上昇することによる負担額は5000×0.02で100万円になります。そこで、最後の3年間の支払いにおいて、100÷3=33.3万円を3回控除するという形で、その100万円をカバーしようというわけです。こうすれば、計算上は消費税アップの負担増はなくなります。ただし、年末残高×1%の方が、33.3万円よりも少ない金額となった場合、そちらが採用されます。
 また、税制とは離れますが、住宅ローン減税と併用できる「すまい給付金制度」や「次世代住宅ポイント制度」といった給付型の対応策も注目です。住宅ローン減税は、所得税等からの控除なので、収入が高いほどその効果が大きく、低いほど小さくなります。この傾向を補うためにも、両制度は意味のあるものとなります。とくに、すまい給付金制度は、年収によって給付額が変わるなど、低い収入層にダイレクトに効果を行き渡らせる建て付けとなっています。

──自動車税の引き下げも消費税対策として位置付けられていますが……。

今仲 軽自動車を除き「小型自動車を中心にすべての区分において」自動車税(地方税)が恒久的に引き下げられます。19年10月の消費増税後に購入した自動車が対象で、たとえば1000cc以下だと4500円、1500cc以下で4000円、2000cc以下で3500円、2500cc以下で1500円、現行制度よりも安くなるなど、排気量が小さいほど減税幅が大きくなります。また、自動車取得税を廃止する代わりに新たに導入が予定されているのが「燃費性能割」です。これは、環境負荷軽減(燃費基準値達成度など)の性能に応じて、取得金額に対して非課税、1%、2%、3%の4段階に区分けして課税されるものですが、増税後1年間だけ税率がそれぞれ1%引き下げられます。一方で、エコカー減税の軽減割合の見直し(縮小)などで税収増がはかられます。
 これら自動車税関連の動きに関しては、クルマをめぐる環境の変化が背景にあります。従来、自動車といえば「所有ありき」でした。しかし、いまではカーシェアリングなど、さまざまな自動車利用のスタイルが現れてきています。また、ハイブリッド車や電気自動車などの普及により、エコカーという概念や排気量に応じた税額の変化もナンセンスになってくるでしょう。もっといえば、近い将来、「空飛ぶ車」が現実となり、そうなると道路さえいらなくなる。つまり、今回の自動車税の改正は、将来的な環境変化を見越したものであると言えると思います。

“個人版事業承継税制”

──個人事業者用事業承継税制の創設も話題ですね。

今仲 昨年、法人が対象の事業承継税制に「特例」がもうけられ、非常に使い勝手が良くなりました。それを「個人事業者にも……」と、中小企業支援団体が要望していたものが通った形です。
 経済産業省によると、25年における70歳以上の個人事業者は全体の73%、150万人に及び、また、このまま放置すると、130万人の雇用と約2兆円のGDPが消滅するとのこと。そのような状態を防ぐために、個人事業用資産の贈与・相続に関わる納税猶予制度(10年間の時限措置)がもうけられたのです(『戦略経営者』2019年2月号P10図表2参照)。
 対象になるのは、400平方メートルまでの土地と800平方メートルまでの建物、工作機械、パワーショベル、診療機器など機械・器具備品、車両・運搬具、農家が対象となる乳牛、果樹などの生物、さらに特許権などの無形償却資産です。19年4月1日から5年以内に「承継計画」を都道府県に提出すれば、贈与・相続税の納税が猶予され、さらに、後継者が死亡するまで事業を継続し、資産を保有すれば納税は免除されます。経営悪化などで廃業する場合、その時点の資産額で贈与・相続税額を再計算し、支払うこととなります。つまり、承継時との差額は免除されるということです。なお、承継計画には、認定経営革新等支援機関(認定支援機関(※1))の指導・助言を受け、特定事業用資産の承継前後の経営見直し等を記載することが求められます。

(※1)認定経営革新等支援機関(認定支援機関):中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等を受けられるように、税理士など専門知識や実務経験が一定レベル以上の者に対し、国が認定する公的な支援機関。

──この制度の活用が想定される層は?

今仲 主には法人化していない病院や診療所、あるいは、やはり法人化していない税理士、弁護士、公認会計士、司法書士などの士業の方々でしょうか。対象となる土地建物や機械設備などが、ある程度の価格以上でないと効果が期待できませんので、この制度を有効に活用できる個人事業者は限定的となるかもしれません。
 また、土地に関していえば、400平方メートルまで評価額が80%減額される「特定事業用小規模宅地の特例」との兼ね合いが問題となります。この制度を活用すると「個人事業者の事業承継税制」は使えません。どちらか1つしか選べないわけですが、例えば「特定事業用小規模宅地の特例」を選択すると、評価額そのものが減額されるので、後継者以外の相続人の相続税も下がります。ところが「個人事業者の事業承継税制」の方を選択すると、後継者は納税猶予になりますが、他の相続人の相続税は軽減されないのです。このため、相続人同士の間にトラブルが起きる可能性が出てきます。注意が必要でしょう。

──「特定事業用小規模宅地の特例」そのものの内容も、今回見直されたようですね。

今仲 相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等については、特例の対象から除外されます。すでに賃貸事業用小規模宅地については、昨年の税制改正で同様の措置がほどこされており、それを賃貸用以外の事業用宅地にも援用した形です。要するに、駆け込み的な節税対策を防ぐという意味合いですね。ただし、土地の評価額に対して、その土地の上にある建物や機械装置など減価償却資産の評価額の合計が15%以上の場合は特例の対象となります。

元気な中小企業をより元気に

──法人税はいかがでしょう。

今仲 なんといっても中小企業経営強化税制の2年間の延長(20年3月31日まで)と拡充(『戦略経営者』2019年2月号P11図表3参照)が大きいと思います。これは、機械装置(160万円以上)、ソフトウエア(70万円以上)、工具・器具備品(30万円以上)、建物付属設備(60万円以上)を対象に、取得価額の全額を一括償却(あるいは10%の税額控除:資本金3000万円~1億円の法人は7%)できるという制度で、「生産性が年平均1%向上」あるいは「投資利益率5%以上のパッケージ投資」であることを記した「経営力向上計画」の認定を受けることが条件となります。国が元気な中小企業の成長を後押しする典型的な制度といえるでしょう。当事務所の顧問先においても、3社でこの制度を活用していますが、ある企業などは、年間20~30億円の設備投資を行い、その全額を損金に算入することで、申告所得を大幅に抑えることに成功しています。
 加えて今回、この制度が「拡充」されました。生産性向上や収益力強化に直接結びつくものではなくとも、「働き方改革に資する」設備であれば、活用できるようになったのです。たとえば、工場の休憩室等に設置される冷暖房設備や作業場に設置されるテレワーク用パソコンなどが対象例としてあげられています。

──上記は製造業対象のようですが他の業種には、このような制度はないのですか。

今仲 中小企業投資促進税制と商業・サービス業等活性化税制(資本金3000万円以下の法人・個人事業者対象)があります。やはり2年間延長されました。これらを活用すれば30%の特別償却あるいは7%の税額控除が受けられます。ただし、後者に関しては、「売上高か営業利益が1年間で2%以上の向上が見込めることを認定支援機関が確認すること」が新たに要件化されました。
 これらは、経営力向上計画の認定を受ける必要がありません。製造業以外の業種を支援することが趣旨の制度です。

──「研究開発投資税制」も2年間の延長(21年3月31日まで)と一部見直しがなされました。

今仲 これも中小企業に手厚い制度ですが、ざっくり言うと、最大40%の控除が45%に5%拡大されました(『戦略経営者』2019年2月号P12図表4参照)。複雑なので詳細は省きますが、従来、国、大学、研究機関との協同研究などが対象となる「オープンイノベーョン型」投資の控除額が5%から10%に引き上げられたことで、全体で5%分が上乗せされた形です。とはいえ、「オープンイノベーション型」投資は特殊な例であり、通常の中小企業の場合、試験研究費の増加に応じて控除額が増加する「総額型」と売り上げに占める試験研究費が10%を超えた場合の「上乗せ措置」を合わせた35%の控除が最大と考えていいでしょう。

電子保存のプロセスが簡素化

──民法改正にともなう相続・贈与税制の整備については?

今仲 遺言や遺産分割、遺留分、特別寄与、配偶者居住権などが民法上で改正・創設されました。なかでも、「配偶者居住権」の創設(20年4月1日施行)は相続税制に深く関連してきます。夫死亡後、別のところに住んでいる息子から法定相続分を要求された妻が、安心して自宅に住み続けられなくなるというようなトラブルを防ぐためのものです。これについては、配偶者居住権の創設と同時に、その評価の仕方が規定されました。図表5(『戦略経営者』2019年2月号P12参照)にケーススタディーを挙げておきますので参考にしてください。
 また、被相続人の療養看護等を行った親族(相続人等を除く)が、相続人に対して金銭(特別寄与料)の支払い請求をすることができる制度も創設(19年7月1日施行)されました。つまり、相続人以外の者が、被相続人の面倒を見た分の金額を請求できるということです。この特別寄与料は遺贈によって取得したとみなされ相続税の対象となります。また、特別寄与料を支払う相続人の課税価格からは、その額が控除されます。

──電子帳簿保存法に関連する改正が行われたとか。

今仲 法人税法等で保存が義務づけられている国税に関連する帳簿書類は、電子保存が可能です(『戦略経営者』2019年2月号P13図表6参照)。しかし、「訂正・削除を行った履歴の確認ができること」「取引年月日や取引金額等で検索ができる」など電子帳簿保存法に記載されている細かな要件を満たしたシステム(ソフトウエア)を使用することが条件となっています。加えて、所轄の税務署長等の承認が必要であり、現行ではその際に、条件をクリアしていることが分かる書類をいちいち添付して申請する必要があります。これは非常に手間暇がかかるため、今回の改正で、ソフトウエア開発会社等が事前に所定の公益社団法人の確認を受けたソフトウエアを利用する者が行う承認申請書の提出手続きが簡素化されました。確認書1枚を提出するだけで自動的に申請が通るようになったのです。読者の方々には、データの真実性が担保されるしっかりとしたソフトウエアを使用することをお勧めします。ちなみにTKCのFXシリーズは、入力データの遡及(そきゅう)的修正は原則禁止されており、やむを得ない場合は訂正・削除の履歴が残るようになっている数少ない会計システムです。

マイナンバー時代の到来

──マイナンバーの金融機関等の口座への付番が推進されます。

今仲 今回の税制改正のなかで、私はこれが一番大きなトピックだと思っています。
 19年から、すべての金融機関は、その預金口座にマイナンバーを付記して管理する義務を負わされています。しかし、預金者がマイナンバーの開示を拒否した場合には、収集の手立てがないというのが現状でした。ところが今回、金融機関等が、個人番号の告知をしていないもの(番号未告知者)のマイナンバーを「振替機関」から提供を受けて確認できた際には、それを転用して口座に付記することができるようなります(20年4月1日より)。その際、番号未告知者にその旨を告知する必要はありません。

──振替機関からの提供とはどのようなことを指すのでしょう。

今仲 上場企業の株の配当を受け取る場合のマイナンバーが付記されている支払調書もそうですし、年金や高額医療費、子ども手当、失業手当、生活保護費等の受け取りなどの際にも、マイナンバーを確認することができます。それから、振替機関はもとより証券会社等の口座管理機関にも、証券口座にかかわる情報をマイナンバーによって検索できる状態にしておかなければならない「管理義務」も課せられました。

──それによって何が変わるのでしょうか。

今仲 金融機関や証券会社、振替機関がすべてマイナンバーに紐(ひも)づける形で顧客の口座情報を管理するわけですから、税務当局が「反面調査」(調査対象者の取引先等に対して実施される税務調査)を行う際の効率が大幅に向上します。脱税めいたことを行えばすぐに発覚する体制づくり、つまり、今後「正直者がばかを見ない」世界をつくるには欠かせない施策だと思います。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2019年2月号