2019年に100周年を迎える中吉エンジニアリングは、機械部品、電気部品、生産設備、大型トラック・バス用電装品、特装車補修部品などを幅広く扱うビジネスコンダクターである。ここのところ右肩上がりの業績を続ける同社は、計数管理にも熱心に取り組む。中吉雄二社長と安部知格顧問税理士、監査担当の原田泰弘税理士に話を聞いた。
──業容を教えてください。
中吉雄二社長
中吉 私どもの仕事は、おおまかに「設備」「機器」「市販」の3部門に分けられます。「設備」はお客さまの事業活動に必要な生産設備を作ります。受注→仕様の決定→現場調査→設計→製作・工程管理→設置→アフターフォローと、ワンストップで請け負える技術力と機動性が当社の強みです。具体的には、自動車の組立ラインやエンジンの製造ライン等の装置を作っています。「機器」はお客様が必要とされるもの何でもお届けします。メインの商品はエアシリンダーやバルブなど空圧機器ですが、社員食堂で食器が欲しいと言われれば用意しますし、工場にカラス避けをお届けしたこともありました。具体的な商品名が分からなくても「こんなものが欲しい」という要望に、何でも探し出し、見つけてくるのが仕事です。「市販」は大型トラック・バス用電装品メーカーの中国地区代理店として、修理部品の供給と系列特約店による修理サービスの提供を行い、また、コンクリートミキサー車メーカーの中国地区・愛媛県の代理店として、サービス指定工場やトラックディーラーにミキサー車の部品を供給しています。
──強みは?
中吉 私(社長)が社員にあれこれ言わないことでしょうか。仕事を一番分かっているのは現場の社員です。現場から上がってきた情報を、いちいち会議に諮ったり、私が最終決裁していては時間がかかってしょうがないでしょう。営業マンがその場で結論を出せれば素早く対応できる。当社のような業態には、スピードが大事なのです。そのため、少々の失敗には目をつぶります。誰にもミスはありますから。
──スピード感が大事ということですね。
中吉 メリットはスピードだけではありません。自らの判断を促すことで、社員の成長が期待できます。自主的に動けば仕事が楽しくなるし、それ自体がモチベーションにつながると考えています。
──それは昔からの社風なのでしょうか。
中吉 先代はトップダウンの経営だったと思います。当時とすれば、それはそれで良かったのではないでしょうか。ただ、2001年の就任以来、私は私のやり方を貫いてきました。自分が社員だったら、どんな会社が良いかと考えた結果です。
──実際、社員の自主性はついてきましたか。
中吉 最近もこんなことがありました。お客様のプレス部門を担当する新人の女性社員が、お客様担当者から「金型内部の組織変化を検査してくれないか」との要望を受けました。普通なら「うちでは出来ません」と断ります。ところが彼女が相談した一年先輩の女性社員は「絶対に断ったらだめ。会社に案件を持って帰ったらどうにかなる」とアドバイスしました。結果的に、仕事に結びつきませんでしたが、そういう社風なのです。結果的にそれが当社の目標とする「ファーストコールカンパニー」につながるのだと思っています。
──前向きですね。
中吉「チャレンジ精神」でしょうか。歴史をさかのぼると、創業者で祖父である先々代社長がそういう人でした。祖父は昭和のはじめに当時では珍しい自動車のエンジンの再生の仕事を始めた人ですが、エンジンシリンダーの内面を精密に研削する当時最先端のホーニングマシーンが東京の工場にあると聞き、その会社に1年以上工員として働いて機械の構造・働きを習得しました。広島に戻ってからは手作りで木型を作って本体を鋳造し、鉄工所の機械を借りて部品を削り、解らないところは大学の先生の自宅に通い詰めて教えを請いながら、苦心惨憺してそのホーニングマシンを作り上げたのです。当時工作機械を開発しようとしていたマツダの担当者が噂を聞きつけて見に来られたそうです。また、私の義父である先代社長は今日のモータリゼーションの到来を予想して、自動車電装品や油圧機器部品の代理店の権利を取得するとともに、中国地区の販売サービス網を作り上げ、今日の事業の根幹を作ってくれました。
勤怠管理業務のIT化で大幅な省力化を実現
──安部事務所との関わりは?
中吉 昭和50年代のはじめに、法人会の関係で当社の先代社長が安部(知格)先生のお父さまとご縁をいただいたと聞いています。
──自計化(自社で経理処理の内容を会計ソフトに入力し管理すること)されたのは?
安部知格顧問税理士
安部 平成5年にTKCの会計システム『FX2』を導入しました。その後、当時専務だった中吉社長の「部門別に管理し、より精密なデータを見たい」との要望に応えて、『FX3』『FX4クラウド』と順次バージョンアップしていったという経緯です。
──部門分けはどのように?
原田 冒頭の中吉社長のお話にあったとおり、「設備」「機器」「市販」に分けて部門とし、それぞれに科目コードをつけて売上管理をしています。ただ、いまのところ費用の按分までは行えていませんので、そこは今後の課題です。ただ、不動産事業と販売事業という切り口では部門別の損益管理を行っています。
安部 中吉社長は、非常に緻密な計数管理能力をお持ちであり、専務時代から財務を主導されていました。予算実績管理への取り組みもそうだし、BAST(TKC経営指標)もよく活用されています。数字の手綱を握っているからこそ、社員に任せる経営が可能なのでしょう。
──『PX2』(TKC戦略給与情報システム)も、使いこなされているようですね。
安部 導入は平成10年前後だったと思います。従業員も増えてきて、手書きでの賃金台帳づくりが大変な作業になってきた頃でした。PXのデータはFXに連動しますから、給与計算の手間だけでなく、経理事務の大幅な省力化にもつながりました。
──アマノ社の勤怠管理ソフト付きタイムレコーダー『タイムパック(TimeP@CK)』を導入されたのは?
安部 その数年後でしょうか。『PX2』を入れたのはいいのですが、個々人のタイムカードの打刻記録を一つ一つパソコンに手入力する作業は残っていました。「何とかできませんか」という経理担当である(中吉社長の)奥さまからの要望があり導入しました。
中吉 会社として社員の労働時間を正確に記録・管理するのは当たり前のこと。とくに個々人の労働時間には気をつかいますね。順法という意味合いはもちろんですが、社員の健康管理は社長の重要な役割。タイムパックでは社員別の総労働時間が簡単に抽出できますから非常に便利ですね。それらのデータをスプレッドシートに切り出して、残業時間が月60時間を超えたら文字が黄色に、80時間を超えたら赤く表示されるような工夫をしています。「仕事好き」の社員はこちらがブレーキをかけないと止まらないですから(笑)。今後はさらに、もっともっと働き方改革を進めていかなければなりません。
原田泰弘税理士
原田 タイムパックを導入してまもなく『PX2』と連動させ、勤怠・給与管理の一気通貫を実現しました。『PX2』で出力できる「労働分配率」や「一人当たり支給総額の推移」などもしっかりと把握されています。
安部 BASTのなかの賃金指標を参考にされながら、昇給やボーナス支給額の参考にされているようです。
──賃金は業界水準に比べて高いとお聞きしましたが。
中吉 当社の賃金水準は、東京における当社と同規模の企業に負けないレベルだと思います。人は賃金が良かったら安心して働けますし、十二分にその能力を発揮してくれます。社員良し、お客様良し、会社良し、が一番です。
安部 労働分配率も非常に高いです。これは「人」を第一に考えて経営されてきた中吉社長ならではのことだと思います。
──今後の方向性は?
中吉 弊社は来年100周年を迎えます。そろそろ次の世代に経営を託していこうと思っています。次代を確かなものにする基本はやはり、社員の能力とモチベーションを上げることでしょう。各現場で自主的に判断し、正しく決済出来る能力を身につけさせることです。そして人柄ですね。能力に人柄がついてきてはじめてお客様の信頼をいただくことができる。お取引先から4、5年先の仕事の相談を持ちかけてもらえるような社員を一人でも多く育てることが、次の100年、当社が生き残り、そして成長していくためのポイントだと思います。私に出来なかったところを息子が補い継いでくれればと願っています。
(本誌・高根文隆)
名称 | 中吉エンジニアリング株式会社 |
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創業 | 1919年8月 |
所在地 | 広島県広島市西区西観音町9-4 |
売上高 | 20億6,900万円 |
社員数 | 31名 |
URL | http://www.nakayoshi-e.co.jp/ |
顧問税理士 | 税理士法人安部事務所 代表社員税理士 安部知格 広島県広島市西区大宮1-27-4 URL:https://www.tkcnf.com/zeirishi-abe |