大きな変革期を迎えている自動車整備業界。ハイテク技術への対応と新たな分野への挑戦が生き残りへの鍵となる。創業から55年目を迎える中川自動車商会は、中川恒男社長の先見力と全日本ロータス同友会の組織力を生かしながら、100年企業へと力強い歩みを進めている。

中川恒男社長

中川恒男社長

「自動車整備業界は今後、自動運転や電気自動車といった新たなテクノロジーに席巻されて、間違いなく大転換が必要な時代になってきます。そのため、余力のあるうちに、適切な設備投資を行い、100年企業への土台固めを行わなければならないと考えています」と語るのは、中川自動車商会の中川恒男社長(58)。

 実際、同社は「変化に対応し続けてきた歴史」を持つ。

 もともと、中川社長の実家は愛媛県の郡部で農業を営んでいたが、ダム建設によって土地を追われ、松山市に転居。1963年、先代が自動車整備業を立ち上げる。当初は、納屋で自前のコンプレッサーを使用して鈑金業を行うことからスタート。車販も手がけたが仕入れがなかなかはかどらず、やむなくプロパンで走る使い古しのタクシーを仕入れ、ガソリン車にコンバートして販売するなど苦労が尽きなかった。

 しかし、モータリゼーションの大波の到来により、一転して成長期へと突入。80年代には3日間のフェアで120台を売ったこともあるというからすごい。バブルが崩壊し、需要が落ち込んだ90年代後半には、今度はロードサービス市場に本格参入。レッカー車などへの思い切った設備投資を行い、需要を獲得していく。いまや同社の柱となる勢いだ。

ロードサービスが成長の鍵

 1975年、全日本ロータス同友会(ロータスクラブ)へ、ほぼチャーターメンバーとして加盟したことも、同社の革新性を示すものだった。独立系の自動車整備工場の集合体であるロータスクラブはボランタリーな組織体であり、志を同じくする仲間がノウハウを共有しながら、お互いに成長を目指すというもの。拘束力はないが、その分、基本的な綱領や理念などが明確に打ち出されており、提携大手企業の商品力やマーケティング力を活用することもできる。中川社長の話。

会社外観等

「若い頃から、社員たちがロータスクラブの理念を唱和する姿を見て来ました。私もロータスクラブの同友(会員)であることが当たり前と考えて経営を行ってきています。各支部の例会などでは、さまざまなノウハウの交換ができますし、多彩な研修制度も用意されている。意欲さえあれば非常に使い勝手の良い組織だと思います」

 ロータスクラブには経営者・後継者向けのセミナーやメカニック研修など、多くの人財育成のためのカリキュラムがあり、中川自動車商会も会社ぐるみでこれを活用。独自資格であるロータススーパーアドバイザー(国家1級自動車整備士資格以上)を持つ社員1名を抱えているほか、現場スタッフ14名のほとんどがロータスサービスアドバイザー(国家2級自動車整備士資格以上)や自動車検査員、あるいはレッカー関連の資格を取得している。

「当社のロードサービス事業が成長しているのも、資格(技術)を持ったスタッフが24時間(夜間は3名が常駐)、365日、丁寧な仕事をしているからでしょう」

 ロードサービス事業は、社員の給料体系とやる気を引き上げたと中川社長は言う。一件処理するごとに手当が出るため、月の手取り給与額が50万円を超えるスタッフも珍しくない。また〝人さまに喜ばれる〟仕事であることが、社員のモチベーションを上げている。

 もう一つ、中川社長が力を入れているのが鈑金・塗装。冒頭の「適切な設備投資」のひとつがこの分野に費やされている。自動化や電動化が進捗(しんちょく)しても、事故は起こりうる。つまり、鈑金・塗装分野はしばらくは需要は続くというわけだ。塗装(調色)においては、一定の環境基準(年2回の排出空気の測定検査)を満たすブースを設置し、国際規格の承認を受けた。また近く、正しい位置にバンパーやタイヤなどの部位があるかどうかを測ることができる3次元の車体計測装置を導入、ハイテク時代の最先端の鈑金技術に対応していく予定である。

 さらに「二輪販売」。中川社長が考える、次なる「設備投資」だ。すでに大手メーカーのディーラー権獲得が決まっており、近く新会社を設立して、バイク販売へと乗り出す。「オートバイに自動運転はそぐわないので、将来的な需要減はないでしょう。新会社の基盤を作り上げて、後継者である息子2人、そして孫の代までを見据えた事業作りを行っていきたいと思っています」

企業詳細イメージ

環境配慮型の塗装設備で国際規格を取得  メカニックの資格取得率は極めて高い      ”カフェ風”の受付

緻密な財務管理体制の構築

「自分ができないことを社員にやらせようとは思わない」という中川社長。整備士の資格をはじめ、レッカーや車販、保険など、すべての業種に通じており、もちろん計数管理や税務にも詳しい。ロータスクラブとTKCが提携(※)して約1年後の今年3月、中川社長は自ら希望してTKC会員の高田勝人税理士の紹介を受けた。より緻密な業績管理と、懸案となっている相続関連に強いエキスパートの存在が欲しかったのである。

 高田税理士は言う。

高田勝人税理士

高田勝人税理士

「中川社長とお会いして、自らの経営方針はもちろん先代から事業を承継した際のシビアで生々しい話などもお聞きしました。非常に厳しく、正直で、また、社員に対する愛情の深い方だなという第一印象でした。数字にも強く、スプレッドシートを使用してきちんと売り上げや粗利の管理をされていました。グループウェアは約15年前から導入されているなど、ITリテラシーも非常に高い。ちなみに中川社長はロータスクラブでもIT化の進捗に長らく関わられてきた方です。それだけに、今回TKC会計・給与パッケージ《ロータス用》(『FX4クラウド』、給与ソフト『PX2』、証憑(しょうひょう)ストレージサービス等とのパッケージ商品)を導入することで、経営強化に大きな効果が上がることが期待できる会社だと直感しました」

 すでに、TKCシステムの導入によって、車検、一般整備、鈑金・塗装、ロードサービス、車販、保険と部門別に月次の売り上げ、粗利が分かるようになり、キャッシュフローの月別推移も会計システム上から見えるようになっている。また、データの切り出しによって車1台当たりの原価と粗利も拾えるようにした。近々、高田税理士の指導のもと、これらの成果が単年度予算や中期計画の策定にも展開されていく予定だ。自動車整備業向け基幹ソフト『SF・NS』(ブロードリーフ社)と『FX4クラウド』のデータ連携(CSVファイルの読み込み)によって、現場と経理の計数管理の一気通貫体制もほぼ構築できている。

 さらに、「銀行信販データ受信機能」というTKCのフィンテックサービスの導入で、取引金融機関から、インターネットを利用して取引データを自動受信、仕訳ルールの学習機能を利用して仕訳を簡単に計上できる体制も整えた。これによって、銀行での記帳データを、あらためて打ち込み直す手間が省けた。

※2017年4月、株式会社ロータスとTKCが業務提携。株式会社ロータスの母体である全日本ロータス同友会に加盟する自動車整備企業(1650社)への経営力強化支援が目的。

大手なみの給与体系を目指す

右端は中川万希子さん

右端は中川万希子さん

「ロータスクラブはメカニック1人当たり粗利が1000万円、給与が550万円(大手ディーラーなみの給与体系)という目標を掲げています。そのための好事例を横展開して、各社がベンチマークとしているのです。この目標を実現するためには、より緻密な経営計画や具体的なアクションプランが必要になるでしょう。経営計画(方針)の作成については、数年前からは、息子たちに任せたりもしていますが不十分ですね」

 そんな中川社長の不満解消のためにも、重要な役割を担うのが、『FX4クラウド』の利用精度の向上と、高田税理士のコンサルティング力なのだろう。

 常に先を読みながら経営を実践してきた中川社長。ロードサービスへの傾注、鈑金・塗装事業へのてこ入れ、二輪車販売への参入、そして次なる夢は「アメリカ進出」だと笑う。

長期ビジョン

「周りのみんなに止められています(笑)が、勝算はあります。日本の自動車整備や鈑金・塗装の技術は世界に類を見ないほどレベルが高いので、絶対成功すると思っているのですが……」

 還暦近くになってもいまだ衰えぬ新たな挑戦への意欲。「100年企業への土台固め」という、自らの役割の完遂には、まだまだ道半ばだと中川社長は感じているようだ。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社中川自動車商会
創業 1963年2月
所在地 愛媛県松山市今在家1-8-23
売上高 4億9,000万円
社員数 20名
URL http://www.car-nakagawa.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2018年11月号