世界に類を見ない特殊治具の開発で、ものづくりの現場を支える藤井精密工業。精度を追求する国内外の企業から引き合いが絶えない。亀田正義社長は、税理士法人イージスのきめ細かなサポートのもと、会計システムを『FX2』に切り替え、利益率を重視する経営にかじを切ろうとしている。
オンリーワン製品でブランド力を築く
──精密部品を製造されていると聞きました。
亀田正義社長
亀田 厳密には精密部品をつくるための特殊治具や工具を設計、製作しています。中でも超精密加工用チャックの「エアバルーンチャック」は、当社オリジナルの看板製品です。
──機能と用途を教えてください。
亀田 内部に空気を送り込み、空気圧を利用して金属をつかむことができ、航空機や自動車の部品、光学ディスクドライブのモーターなどを製造する上で用いられています。通常、物をつかむ時には圧力がかかるため、ひずみが生じます。それに対してチャック力(把握力)をほぼゼロに抑えられるのが、この製品の大きな特徴。世界で唯一の機構であると自負しています。
──加工精度が高まると具体的にどんなメリットがありますか。
亀田 自動車にはパワーウインドーやドアミラーなどを動かすモーターが多数搭載されていますが、エアバルーンチャックを用いるとスムーズに作動し、かつ製品寿命が長くなります。あるいは光学ディスクドライブではモーター性能が向上し、より大容量のデータを高速に読み込めるようになります。
──製品の生い立ちは?
亀田 開発に着手したのは91年で、ビデオテープの全盛期。当時、ビデオデッキメーカーを訪問し設計図を見せてもらったところ、ミクロン単位の図面が描かれていました。担当者いわく、設計図を描けても実際に製作できないと。でも、読み取り装置を設計図どおりに製造できれば、画質が鮮明になるという。そこで社内にプロジェクトを立ち上げ議論をへて生まれたのが、空気圧を利用し部品をつかむという発想でした。
試行錯誤してプロトタイプを仕上げ大手メーカーに提案したものの、なかなか採用してもらえませんでした。常識はずれの設計でしたから。そこで奈良県工業技術センター(現奈良県産業振興総合センター)に持ち込み、スーパーコンピューターによる解析を依頼。1週間におよぶテストをへて、性能のお墨付きを得ました。その後改良を重ねていくうちに「藤井のあのチャックはいい」と、取引先さまが評判を広めてくれるようになりました。
──主力製品に成長したわけですね。
亀田 会社としてのブランド力を確立できたと感じています。模倣製品の開発をもくろむ企業もありましたが、結局完成できなかった。部品一点ごとの加工精度が高く、かなりのノウハウが詰まっているためです。
西田幸治顧問税理士
西田 藤井精密工業さまは他社で製造を断られた案件も数多く受注されており、まさに駆け込み寺的存在といえます。
──2017年に創業40年を迎えられました。社名の由来は?
亀田 6名の創業メンバーのうち、初代社長の名字を冠にしました。私が社長に就任したのは01年で、2代目にあたります。当初は50歳で退職し、新しいことにチャレンジするつもりだったため、就任依頼を断り続けましたが、株主総会で指名され腹をくくりました。一貫して技術畑で仕事をしてきましたから、会計はあまり得意分野ではありません。でも今は税理士法人イージスさんから毎月の巡回監査でいろいろ指導いただいており助かっています。
グラフで業績を確認原因分析が容易に
──税理士法人イージスと顧問契約を結んだ経緯を教えてください。
後列左から津守克洋税理士、関本英之監査担当
亀田 従来の顧問税理士は先代社長時代からお付き合いしていた人で、なあなあの関係に陥っているきらいがありました。経営について相談する機会も少なく、釈然としない思いがあったのです。
金融機関の担当者に相談したところ、紹介されたのが税理士法人イージスさんでした。津守克洋先生からうかがった会計の説明は、論理的でわかりやすく、イージスさんなら後継者にバトンタッチした後も長くお付き合いできると感じ、顧問契約を結びました。
津守 われわれの事務所では顧問契約時にTKC自計化システムのご利用をお勧めしており、亀田社長と面会したとき『FX2』の機能をご紹介しました。
亀田 業績をいろいろ分析でき、経理の仕組みを簡素化できると提案され導入を決めました。
──以前の経理体制は?
亀田 取引先から紹介された会計ソフトを利用していました。経理担当者に仕訳入力を任せていて、毎月の売上高を報告されるのみで、結果をもたらした要因を分析するには至っていませんでした。それと、振替伝票や補助簿などの書類が事務所内にあふれていましたね。
──経理担当者の『FX2』に対する評価はいかがでしょうか。
亀田 とにかく仕訳入力が楽になったと話しています。効率的に入力できるようになり、他の業務をこなす余裕が生まれたようです。例えば役員会で必要となる資料も、あっという間に用意してもらえるようになりました。
関本 経理担当の方は仕訳辞書を駆使され、タイムリーに仕訳入力されています。質問事項はその都度解決方法をご案内するようにし、システム移行後1カ月ほどで運用を軌道に乗せられました。
──役員会で確認されているポイントをお聞かせください。
亀田 《変動損益計算書》で売上高と限界利益を前年同期と比較して確認しているほか、取引先ごとの売上高の推移をグラフ化し、変動要因を分析したりしています。例えば、この時期は社内でインフルエンザがはやって休んでいた社員がいたとか、『FX2』では結果をもたらした原因をつかめます。業務でトラブルが発生したとき、原因を早く把握できれば迅速に手を打てる。会計も同じです。
──原因を追究して的確な対策を施せるようになったと。
亀田 売り上げが前年より伸びている手応えはあっても、見込みほど利益があがっていない場合がよくありました。以前は数字の変動要因を漠然と探っている状態でしたが、限界利益の高い月はどんな製品を受注していたか正確に認識でき、社員にも伝えられるようになったのは大きな効果です。当社以外でも請け負うことのできる製品は他の企業を極力ご紹介するようにしたり、直近の材料代や電気代を根拠にコスト交渉を行ったり、粗利益を高められるよう取り組んでいます。
──税理士法人イージスからのサポートをどう感じていますか。
亀田 月次巡回監査後、関本さんから業績の推移に関して毎月報告を受けています。目標を達成するため削るべき費用、経営資源を集中すべき製品は何か、真摯(しんし)にアドバイスしてもらえるのがありがたいです。社員を対象にした加工技術に関する研修会にも自主的に参加してもらい、計数面のみならず当社の事業内容を深く知っていただくきっかけになりました。利益が出るとつい社員に大盤振る舞いしたくなるたちなんですが、ゆるみそうな手綱を引き締めてもらっています。
関本 ふだんのコミュニケーションを大切にし、亀田社長と相談しながら経営計画を毎期作成しています。月次試算表を金融機関にオンラインで送信できる「TKCモニタリング情報サービス」も近々ご利用いただく予定です。
──目標をお聞かせください。
亀田 うちの自慢は、他社にまねできない技術を身につけた社員が数多く在籍していること。彼らの技術力は同業他社の社員と比べてもひけをとりません。われわれしかできない技術を追究し、新たな自社製品の開発にチャレンジしていきたいと考えています。
(大阪南センター・山本侑佳/本誌・小林淳一)
名称 | 藤井精密工業株式会社 |
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設立 | 1977年9月 |
所在地 | 奈良県奈良市北之庄西町2-9-1 |
売上高 | 約2億円 |
社員数 | 17名 |
URL | http://www.fujii-seimitsu.jp/ |
顧問税理士 | 西田幸治 税理士法人AEGIS(イージス) 奈良県奈良市花芝町6番地2 プラザ花芝2F 205号室 URL:https://tkc-nf.com/aegis-tax/ |