商法が120年ぶりに改正されたそうですが、事業に影響の及びそうな改正項目と対応策について教えてください。(海運業)
通常国会に提出されていた「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が5月18日に成立・公布されました。1899年の制定から実に約120年ぶりの改正です。公布の日(2018年5月25日)から1年を超えない範囲内において、政令で定める日に施行されます。この改正により、「六法」と呼ばれる基本法(憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)の全てがひらがな口語体表記となりました。改正事項は多岐にわたりますが、実務上大きな影響の見込まれる6点について解説します。
●航空運送、複合運送の新設
旧商法では規定のなかった「航空運送」や、陸上・海上・航空を組み合わせた「複合運送」が新たに定められました。
●危険物に関する通知義務
荷送り人は、運送品が危険物(引火性、爆発性等)の時は引き渡しの前に運送人に対し、危険物に関する情報を通知する必要があります。通知内容は運送品の品名、性質その他の当該運送品の安全な運送に必要な情報です。この義務に違反した場合は、荷送り人は義務違反によって生じた損害の賠償責任を負いますが、その違反につき荷送り人に帰責事由がない場合には、賠償責任を負いません(民法415条1項)。
●運送人の責任の消滅
旧商法では、運送品の滅失、損傷または延着についての運送人の責任は、原則として運送品の引き渡し日から1年の消滅時効にかかり、例外的に運送人がその損傷等につき悪意のあった場合は、5年の消滅時効にかかるとされていました。改正法では運送人が損傷等を知っているかに関係なく、運送品の引き渡し日から1年以内に裁判上の請求がなければ、運送人の責任は消滅すると定められました。
運送約款の改訂を
●運送人の責任軽減特約
改正法は、旅客の人損についての運送人責任を軽減する特約を無効にしています。しかし①運送の遅延を主たる原因とする運送人の責任②災害地または災害が発生するおそれがある場合の運送③運送に伴って生ずる振動等により、生命または身体に重大な危険が及ぶおそれのある物の運送のいずれかに当てはまる場合、例外的に責任を軽減する特約が成り立つ余地もあります。
●船舶衝突の物損事故の消滅時効
旧商法は、船舶の衝突による物損事故の不法行為責任を、被害者が損害および加害者を知った時から1年の消滅時効としていました。しかし、改正法では不法行為時から2年の消滅時効とされました。なお、商法の改正はあくまで物損に関する規定であり、人損に関する不法行為責任の消滅時効は民法の規定が適用されます。そのため、民法724条により、消滅時効は加害者等を知ってから3年(改正民法の施行後は5年)となります。
●堪航能力担保義務が過失責任に
堪航能力担保義務とは、船舶の整備や適切な船員の配乗などによって、船舶が安全に航海する能力があることを担保する義務を意味します。旧商法では無過失責任とされていましたが、過失責任に改められました。
民法(債権関係)改正法が2020年4月1日施行であることを考えると、陸上・海上・航空の運送に関わる事業者は、早急に運送約款、運送契約書等を改訂する必要があるでしょう。