職場のペーパーレス化を進める方策の一つに、元帳や仕訳帳の電子保存があると聞きました。どんなことに留意して取り組むべきでしょうか。(金属加工業)
税制上さまざまな特典が得られる青色申告法人を継続しながら、会計帳簿を電子データで保存する場合には、「電子帳簿保存法」に対応した会計ソフトを使用し、所轄の税務署長に電子帳簿保存の申請をすることが重要になるでしょう。電子帳簿保存法に対応した場合、これまでの書面ではなく、電子データを国税関係書類の原本とすることができます。
まず、青色申告法人になるための要件には、次の二つがあります。
【要件1】法定の帳簿書類を備え付けて取引を記録し、かつ保存すること(具体的要件として「帳簿書類を7年間整理保存すること」などがある。詳細は『戦略経営者』2018年6月号34頁・図1参照)
【要件2】納税地の所轄税務署長に青色申告の承認の申請書を提出して、あらかじめ承認を受けておくこと
また、青色申告する場合の帳簿の記載事項には一定のルールが設けられています。例えば「現金の出納に関する事項」については、「取引の年月日、事由、出納先及び金額並びに日々の残高」を記載する必要があります(同・図2参照)。
これらの条件を満たして青色申告法人として認められると、貸倒引当金の特例、欠損金の繰り越し控除、特別償却、特別控除など、さまざまな特典が適用されます。
しかし、以下に挙げるような取り消し理由のいずれか一つにでも該当すると、その事実のあった事業年度にさかのぼって青色申告の承認が取り消されてしまいます。
- 帳簿書類の備え付け、記録または保存が法令で定めるところに従って行われていない場合
- 帳簿書類について税務署長が行った必要な指示に従っていない場合
- 帳簿書類に取引の全部または一部を隠ぺいしまたは仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合
電子データで保存するなら
こうしたことは、なにも〝紙〟の帳簿書類だけに限った話ではありません。電子データで保存した帳簿書類についても同様の取り扱いになるので注意が必要です。
1998(平成10)年の税制改正によって「電子帳簿保存法」が成立したことに伴い、税務署長の承認を受ければ、税法上保存義務がある帳簿書類(仕訳帳、総勘定元帳、補助元帳など)を磁気テープや光ディスク等で「電子データ保存」することも可能になりました。以前は会計ソフトで作った帳簿書類をわざわざ紙に出力(アウトプット)して保存しなければならなかったのですが、いまは電子データ保存の選択肢も加わっているわけです。
なお、帳簿書類を電子データ保存する場合には、次の要件を満たす必要があります(電子帳簿保存法規則第3条)。
- 訂正・加除の履歴の確保(データの訂正や削除、追加などの事実が確認できるようなシステムを使用すること)
- 相互関連性の確保(電子データ保存の帳簿と、その帳簿と関連する他の帳簿との関連性を相互に追跡できるようにしておくこと)
- 関連書類等の備え付け(電子データ保存に併せて、帳簿書類の作成に使用するシステムの仕様書や操作説明書などを備え付けておくこと)
- 見読可能性の確保(ディスプレーとプリンター等を用意し、電子データを画面と書面に速やかに出力できるようにしておくこと)
- 検索機能の確保(帳簿書類の主要な記録項目を条件検索できるようにしておくこと)
電帳法対応の会計ソフト
実は、世の中に出回っている会計ソフトすべてが電子帳簿保存法の要件を満たしているかというと、一概にそうとも言えないところがあります。また、電子帳簿保存の申請を出さずに、法定の帳簿書類を電子データで保存しているケースも散見されます。
現に国税庁はこの状況を危惧していて、会計ソフト開発ベンダー各社が加盟する税務システム連絡協議会に対して、「税務調査等で、税法上の帳簿書類の保存義務を果たしていないことが判明した場合、青色申告を取り消すことがある」といった内容を記した文書を送ったことがありました。
つまり、青色申告法人を継続しながら会計帳簿のペーパーレス化を進めたいというのであれば、電子帳簿保存法にきちんと対応した会計ソフトを利用し、かつ所轄の税務署長に電子帳簿保存に関する所定の申請書を提出する必要があるということです。ちなみにTKCの会計システム「FXシリーズ」は、電子帳簿保存法に完全対応しています。すでに導入済みの企業については、安心してお使いください。
会計帳簿の電子保存も、世の中のあらゆる場面でAI(人工知能)や電子化が浸透する時代の流れの中にあります。税制もその流れを後押しする一環として、今年(平成30年)の税制改正において、所得税の青色申告特別控除の改正がありました。「取引を正規の簿記の原則に従って記録している者であって、電子帳簿保存法の適用を受けている場合または電子申告をしている場合は、青色申告特別控除の控除額が10万円優遇される」というインセンティブを与えました。この流れはいずれ法人税にも波及していくことでしょう。