リアルタイムで手軽にメッセージをやり取りできる「チャット」。仕事で利用するメリットは何か。また有効な活用方法はどのようなものなのか。効果を上げている企業の活用現場を取材し、探ってみた。
- プロフィール
- ひらの・ともあき●株式会社アイ・コミュニケーション代表取締役。日本初のビジネスメール教育事業を立ち上げ、ビジネスメールの教育研修プログラムの開発、ツールの提供を行う。メールスキルの向上、組織のメールに関するルール策定などを数多く手がける。著書多数。
──ベンチャー企業を中心に「チャット」を連絡手段として利用する会社が増えつつあります。
平野 当社でも社員や取引先に連絡する際、メールとチャットを適宜使い分けています。チャットには宛名やあいさつ文、署名などを省略できる便利さがありますが、メインのコミュニケーション手段はメールと電話です。チャットで連絡を取るのが当たり前の環境で育った世代がビジネスの中心を担うようになれば、状況は変わってくるかもしれません。
──実際、どのように使い分けていますか。
平野 いろいろなチャットツールが普及していますが、用途で大別すると①声がけ②業務管理の2種類があります。当社で利用しているのは①のツールで、社員に「いま手が空いていますか」とか「これから打ち合わせできますか」といったメッセージを送ったりしています。わざわざメールで送るまでもない簡易な内容が多いですね。
社外の方への連絡手段は、メールと電話が中心です。ただ、フリーランスで働いている方など、メール等で連絡がなかなか取れない場合、例外的にチャットを用いるときもあります。ある程度親密な間柄になっている人でないと、チャットではメッセージを送らないようにしています。
──チャットは主に社内におけるコミュニケーションツールとして活用しているわけですね。
平野 そうです。もしチャットを導入するなら、まずは社員間の声がけ用として活用することをおすすめします。フェイスブックのメッセンジャー機能やラインなどがそれに該当します。
社外の方からチャットのメッセージが送られてくる時がまれにありますが、「電話しても大丈夫ですか」とか「近くにいます。これから訪問していいですか」など、直接コミュニケーションを取る布石として使う人もいます。携帯電話にいきなり電話するのはハードルが高いという意識があるのかもしれません。
──②の業務管理用のチャットとは?
平野 いわゆる「ビジネスチャット」と呼ばれるサービスで、さまざまな企業が提供しています。声がけ用のチャットは一対一でメッセージをやり取りするのに向いているのに対し、業務管理用のチャットでは複数のメンバーが特定のテーマを議論するのに役立ちます。テーマごとにスレッドを立てて各自が意見を述べ、議論を深めていくといった使い方です。
目的をはっきりさせよう
──チャットを用いるメリットを教えてください。
平野 何といってもスピード感を持ってメッセージをやり取りできる点ですね。メールのように仰々しい定型のあいさつ文や、前置きを書く必要もありません。外出中にメールが届くと文章を作成するのに時間がかかるため、返信が後回しになりがちですが、チャットならメッセージをひと言送れば事足ります。したがって、うまく活用できれば時間の節約につながるでしょう。
さらにチャットではテンポよく意見を出し合い、物事をスピーディーに決めるのにも有効です。メンバー間でのちょっとした打ち合わせに利用でき、やりとりの記録も残るため、さかのぼって確認できます。当社のクライアントであるソフトウエア開発会社では、プログラムの仕様を決める際にチャットを活用しています。仮にメールでメンバーの意見を募ると、返信するのが遅い場合、いつの間にか仕様が決まっていたという事態が起こり得ます。こうしたケースではチャットの方が使い勝手がいいでしょう。とりわけ日常業務で常にパソコンを利用しているIT系の業種でメリットを享受できると思います。
──会議時間の削減も期待できそうです。
平野 最近はテレワークを導入する企業が増えていますが、社員同士がわざわざ顔を突き合わさなくとも、簡単な打ち合わせを行えるのはメリットです。チャットによるコミュニケーションが活発になればメンバー同士の親近感が増し、結束も高まるでしょう。
昨年公表した「ビジネスメール実態調査2017」(一般社団法人日本ビジネスメール協会調べ)によると、仕事で1日に送受信しているメールの平均通数は、送信通数が12.62通、受信通数が39.28通でした。もし1日の送信メールが50通をこえるなら、チャット利用の効果は大きいでしょう。
──一方、注意点はありますか。
平野 ソーシャルメディアに開設した個人アカウントを使って顧客とメッセージをやり取りしている社員には注意が必要です。同一のアカウントに仕事とプライベートのメッセージが混在しているためです。社員が退職する際、顧客とのやりとりを削除するよう指示することは難しく、対応に苦慮している企業が少なくありません。業務上知り得た顧客に関する個人情報をソーシャルメディアで連絡するのは控えるべきです。その点、ビジネスチャットを利用するときは会社のアカウントでログインして使用するため、こうした問題を防止できます。
チャットではフランクな文面になるため、あまり親しくない相手だと抵抗感を覚えるケースもあります。ビジネスシーンでチャットが普及しても、当面コミュニケーション手段の主流はメールになるはずです。メールに加えてチャットを導入し業務効率が低下しては本末転倒。チャットを社内に取り入れるなら、誰が何のために利用するのか、目的を明確にしておくことが先決です。
(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)