右から、総務担当の中戸川さん、小柳社長、小柳専務、
システムコンサルタントの近藤氏
伊豆全域の新鮮魚介類が産地直送で食べられるとあって、高い人気を博しているのが伊豆・伊東にある回転寿司(かいてんずし)店「伊豆太郎」だ。給与計算のデジタル化に踏み切った小柳廣巳社長と、その実娘で総務担当の中戸川奈津美さんに話を聞いた。
伊豆の新鮮な魚介類を寿司・和食料理にして提供
──伊豆半島の回転寿司店では一番の老舗だそうですね。
小柳廣巳社長
小柳 今からおよそ30年前、「伊豆太郎」の名前で伊東市内(川奈)に店を出しました。もともとは電気や防災関係の設備工事業を営んでいたのですが、夏場の観光シーズンになると工事がストップしてしまうことが多かったため、この時期に何か別の仕事ができないかと考えて、回転寿司に目を向けました。
その後、回転寿司の事業に本腰を入れるようになり、設備工事の仕事については従兄弟(いとこ)に事業承継してもらいました。
──店の特徴を教えてください。
小柳 伊東魚市場の「仲買人」の権利を持っているため、伊東周辺で水揚げされる魚種全てを購入できるところでしょうか。仲買人を通さないため、新鮮な魚介類を安価で仕入れることができます。伊豆半島は磯や岩礁が発達しており、むかしから定置網業が盛んです。金目鯛(きんめだい)やスルメイカをはじめ、多種多様な〝地物〟の魚を提供できるところが、大手回転寿司チェーンとの一番の差別化ポイントになっていると思います。つまり伊東という「地の利」を生かした商売をしているところが、当社の強みです。
また、本物の寿司職人を置いて、おいしい料理を提供しているところも、私たちが胸を張れる特徴の一つ。回転寿司店とは言いながらも、職人の威勢のよいかけ声が飛び交う、昔ながらの寿司店のイメージを大事にしています。にぎり寿司だけでなく、金目鯛の煮付けや天ぷらなど、さまざまな和食料理も楽しんでもらえます。
──主な顧客層は?
伊豆の回転寿司店としては一番の老舗(川奈店)
小柳 近隣に住む地元客が2~3割、周辺地域からのお客さまが3割、そして県外からの観光客が5割といったところでしょうか。地元以外のリピーターの方もたくさんいます。
──客単価はどのくらいですか。
小柳 平均1700円前後です。低価格路線を敷く一般的な大手回転寿司チェーンと比べると、わりと高めの客単価(高級路線)といえます。
──現在3店舗を運営されているとお聞きしました。
小柳 回転寿司をメインにしている①川奈店のほか、〝海鮮食事どころ〟という位置付けで②伊東マリンタウン店と③ラスカ熱海店を出しています。伊東マリンタウンとは、国道135号に沿った「道の駅」のこと。ラスカ熱海とは、JR熱海駅直結の駅ビルです。それらの施設にテナントで入っています。この2店舗については、にぎり寿司のほか、「金目鯛の煮付け定食」や「海鮮のっけ丼」などの定食・丼物が人気メニューとなっています。
──「未利用魚」の活用にも積極的だとか。
小柳 未利用魚とは、漁獲量が少ないうえにサイズが小さめだったり、見た目がグロテスクなことからあまり市場に出回りにくく、処分や業務用に加工されてしまう魚のことです。また、ある地域では高級魚として価値があるものの、地元では食べる習慣がないものについても未利用魚とされています。こうした未利用魚を、「小魚の唐揚げ」といったサイドメニューや、寿司ネタにして提供しています。
給与システムと勤怠ソフトをデータ連携
──現在の従業員数を教えてください。
本社に隣接したセントラルキッチン加工所
小柳 アルバイトを含めて約70名のスタッフがいます。そのうち正社員は25名。このなかに、各店舗の「寿司・和食職人」や、セントラルキッチン加工所で働いている4~5名のスタッフが含まれています。アルバイトについては、主に接客業務などを担当してもらっています。
ちなみにセントラルキッチン加工所というのは、各店舗で提供する料理の下処理などの仕込みをするための施設で、高冷蔵機能設備を備えています。これを生かして、未利用魚を含む伊豆地魚を、漁獲量が少ない時期にも安定的な提供ができる体制を築いています。このセントラルキッチン加工所の建設については、息子(小柳一広・専務)が中心になって進めてくれました。
──従業員の給与計算についてはTKCの『PX2』を活用されているそうですね。
中戸川奈津美さん
中戸川 セントラルキッチン加工所を建設する際に「ものづくり補助金」を利用したのですが、その申請を手伝ってくれたエム・コンサルティングセンター(望月光男会計事務所)からのアドバイスで、昨年4月に導入しました。これにより、従来は手計算でおこなっていた給与計算がデジタル化されました。正社員は固定給、アルバイトは時給、それぞれの計算をシステムが自動的にやってくれるので、本当に楽になりました。
近藤成彦氏(望月会計のシステムコンサル担当者) 伊豆太郎さんの場合、フロント業務はよい意味でアナログなところが売りになっています。ITで業務の効率化を実現するならバックオフィスの分野だと思い、給与計算のデジタル化を提案しました。
──『PX2』導入と同時に、アマノ社の勤怠管理ソフト付きタイムレコーダー『タイムパック(Time P@CK)』も導入されたといいます。
中戸川 『タイムパック』は『PX2』とデータ連携することができます。つまり、スタッフ一人ひとりの労働日数や勤務時間のデータを『PX2』に取り込んで、毎月の給与計算ができるのです。タイムレコーダーのデータをいちいち手入力する手間は要らないわけです。
本店一括管理のもとに「振り込み支給」を実現
──毎月の運用方法は……。
中戸川 各店舗の従業員は日々の出退勤の際に、自分のICカードを『タイムパック』のタッチパネルにかざして打刻します。その1カ月分の勤怠データを各店舗に私が回収に行き、USBメモリーに落として本社に持ち帰ります。つぎに、打刻漏れ等のチェックを含めた集計作業をしたうえで、全従業員の勤怠データを『PX2』にインポートして給与計算をします。さらに、振り込みデータをインターネットバンキングを通じて金融機関に送信し、それをもとに従業員の口座に給料を振り込んでもらう。簡単に言うと、そんな流れです。
小柳 以前は現金支給だったので毎月多額の現金を本店から離れた場所にある店舗に運ぶ必要がありました。支給方法を現金から振り込みに変更したことにより、安全面の不安も解消されました。
──紙カードからICカードに変えたことに対して、従業員の反応はどうでしたか。
小柳 当初、昔かたぎの職人のなかにはICカードを持たされることを嫌がる者もいましたが、いまでは利便性が高まったと、多くの従業員から喜ばれています。
いずれにしても、従来の「手計算・現金支給」から「自動計算・振り込み支給」に移行したことにより、従業員だけでなく、取引先や金融機関もわれわれのことを「しっかりした会社」だと見てくれるようになったのは確かです。このあたりは田舎なので、給与計算のデジタル化を実現しただけでも、違った目で見てくれるようになるんです。
──店舗で働く従業員の生産性をいかに高めていけるかも、今後の経営上の課題になりそうですね。
小柳 ええ、シフト管理を工夫するなどして、スタッフの「手待ちの時間」を少しでも減らしていきたいと考えています。その意味でも、勤怠情報をデータ管理する重要性が増すはずです。
(本誌・吉田茂司)
名称 | 株式会社伊豆太郎 |
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設立 | 2006年6月 |
所在地 | 静岡県伊東市川奈1225-154 |
売上高 | 3億6,000万円(平成29年5月期) |
社員数 | 70名 |
URL | http://e-sites.jp/web/izutaro_pc/ |
顧問税理士 | 株式会社エム・コンサルティングセンター (望月光男会計事務所) 静岡県静岡市駿河区谷田4-1 URL:http://www.motizuki.com/ |