地域に密着した昔ながらの電器店が苦境に立たされている。だが、やり方次第で十分に戦えることを教えてくれるのが、北海道札幌市でパナソニックショップを運営するあさひ電機の事例だ。

有限会社あさひ電機

「もっと早く田中先生と知り合っていたら、もう少し違う経営者人生になっていたと思います」

 そうしみじみ語るのは、あさひ電機の白水泰社長(64)だ。TKC会員の田中裕之税理士(公認会計士)の指導を仰ぐようになったことで、経営のあり方が随分変わってきたという。

 あさひ電機が運営するパナソニックショップがあるのは、札幌市の東部に位置する厚別区。パナソニックショップとは、パナソニックの製品を扱う特約電器店のこと。少し年配の方にとっては、ナショナルショップと言ったほうが通りがいいだろうが、地域に根ざした電器店としての商売のあり方は今も昔も変わらない。

「私たちも〝ご用聞き営業〟(訪問販売)をメインに、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品を販売しています。また、住宅リフォームも手がけており、キッチン、バス、トイレなど水回り、あるいは外壁・内装の改修工事もおこなっています」(白水社長)

 現在、4名の営業スタッフがおり、それぞれ500~600世帯を担当している。

監査役の退職で経営状況の把握が困難に

白水泰社長

白水泰社長

 白水社長があさひ電機の代表に就任したのは、今から7年前。かつてパナソニックグループの会社で働いていたときの先輩で、あさひ電機の創設者である前社長の後を引き継ぐかたちでオーナーとなった。

 とはいえ、その後の会社運営は決して順調なものではなかった。街のでんきやさんの多くがそうであるように、ヤマダ電機などの家電量販店やネットショップに客足を奪われて、なかなか業績を上向かせることができずにいた。売り上げは減少の一途をたどり、業績不振にさいなまれていた。

 さらに状況が厳しくなってきたのは2015年3月のこと。それまで経理や業績管理資料(経営計画など)の作成を担当していた監査役が退職してしまい、経営状況を把握できなくなってしまった。顧問税理士もいることはいたのだが、年に1度決算申告のときに来てくれるだけの存在だった。

「要するに、数字の〝見える化〟がまるでできなくなってしまったんです。決算を待たなければ、会社がもうかっているかどうかも正確には分からない状態でした」

 これに危機感を抱いたのが、パナソニックの販売会社であるパナソニックコンシューマーマーケティング(PCMC)の担当者だった。PCMCは、パナソニック製品の卸販売をする一方で、各地域のパナソニックショップを指導する役割も担っていた。その担当者から見ても経営計画さえ満足に作れずにいるのはかなり危うい状態に思えた。

 実際、数字ではなく勘を頼りにした経営はだいぶいい加減なものだった。「だいたい今期はこのくらいいくだろうと勝手に予想を立てて、それに到達しなくても『ああ、いまひとつだったか』で終わってしまう。今にして思うと随分でたらめな経営をしていたと思います」と、白水社長は振り返る。

以前コンビニだった建物を店舗として使用

以前コンビニだった建物を店舗として使用

 そこでPCMCが支援を要請したのが、TKC会員の田中税理士だった。2015年7月に顧問に就任した田中税理士が取りかかったのは、「月次決算体制の構築支援」と「経営計画策定支援」の主に二つ。財務会計システム『FX2』の導入を提案し、業績管理できる体制を築いた。

「幸いだったのは、経理担当の女性スタッフが非常に優秀な方で、わずか1カ月のうちにどんどん自分で入力できるようになったことでした。月次決算や翌月巡回監査がスムーズに行えたのは、そのおかげです」と田中税理士はいう。

 これにより『FX2』を通じて毎月最新の試算表を打ち出せるようになった。さらに田中税理士は経営計画づくりも手伝い、その計画と実績との対比(予実管理)も『FX2』でできるようにした。

粗利の改善に向けて「提案営業」を徹底する

田中裕之税理士

田中裕之税理士

 ただ、ここまでは業績管理の〝うつわ〟を作っただけの話にすぎない。ここから本当の意味での「経営力強化」のための取り組みがはじまった。実は、あさひ電機における最大の問題点は、「粗利」が異常に低いことだった。その主な原因は、営業スタッフが「高いと売れない」と思い込んで安易に商品の値下げに応じてばかりいたことにあった。しかし白水社長は、自分たちの店の粗利が低いという事実にまるで気づいていなかった。

 田中税理士がこう語る。

「あるとき『FX2』の数字と『BAST』(TKC経営指標)を見比べてもらいながら、『同じくらいの規模の同業者なら、このくらいの利益額が普通ですよ』と説明したんです。すると、そんなに違うのかと驚かれていました。この頃からですね、数字に対する白水社長の意識が明らかに変わってきたのは」

 毎月の巡回監査のときだけでなく、時間を見つけては白水社長のもとを訪れ、それとなく業績管理の重要性を伝えていったという田中税理士。そうした指導を受けるなかで白水社長も粗利の改善が必要であることをようやく悟った。

 その具体策として取り組んだのが、「提案営業」を今まで以上に徹底することだった。パナソニック製品はモノがいいし、自分たちの店で購入すれば故障した際の修理など、アフターサービスがしっかりしているため、トータルで考えれば決して割高にはならない。そんなふうに説明して、より高付加価値商品を買ってもらえるように努めた。

特別仕様の「パナソニックの店取り扱いモデル」を積極的に提案営業

特別仕様の「パナソニックの店取り扱いモデル」
を積極的に提案営業

「なかでも積極的に売り込みを図ったのが、『パナソニックショップモデル』の家電製品でした。これらはパナソニックショップでしか販売していない特別モデルで、家電量販店で売っているものとパッと見はそう変わりませんが、使い勝手のよい機能が付加されています」(白水社長)

 例えば、炊飯器においてはプロパー商品とは異なり、「見やすい水位線」や「ご飯からおかゆコース」が搭載されていたり、液晶テレビについては「かんたんリモコン」が付属された高齢者にとって使いやすい商品になっていたりする。これらの製品の魅力をそれぞれの営業スタッフが丁寧に伝えていった。

 結果的に、こうした努力が少しずつ実を結んでいった。きちんと提案営業をすれば、関心を持ってくれるユーザーはそれなりにいた。実は、あさひ電機の営業エリアのなかに、平岡公園東地区という高級住宅街がある。そこの富裕層と呼ばれる人たちに特にその傾向が強く、あさひ電機にしてみればありがたい存在だった。

 営業スタッフの提案営業にしっかり耳を傾けてくれる顧客が多いのは、以前から「スピード対応」をモットーに、困ったことがあればすぐに駆けつけるという姿勢を大事にしてきたからといえる。

「たとえ電話で操作方法を教えられるようなときでも、できるだけ出向くようにしています。こうした姿勢が好意的に受け止められていたのでしょう」(同)

 また、営業スタッフが朝30分、150軒ずつチラシ配りをして、網戸や畳の張り替えなど何でも相談してほしいと訴えつづけた営業努力によって住宅リフォームの受注が増えたことも利益率アップにつながった。

次世代を担う若手社員にも計数管理の大切さを教えたい

PCMCの担当者も参加する業績検討会

PCMCの担当者も参加する業績検討会

 粗利改善の成果は、『FX2』から出力される《365日変動損益計算書》などの数字にもしっかりと現れた。また、パナソニックショップが使っている専用の管理ソフト「パナソニック店クラウドVシステム」のデータをもとに、田中税理士の会計事務所でエクセル(スプレッドシート)を使って作成した、営業スタッフ一人ひとりの売上高や粗利を記したオリジナル帳表からもその傾向が読み取れた。

「半期ごとに開催する業績検討会に出席したPCMCの担当者も、当社の粗利が改善されていることに驚いていましたね」(同)

 粗利を改善していったことで、あさひ電機は16年と17年の決算(3月)の2期にわたり黒字を計上した。ここまでの快挙を成し遂げられるとは、田中税理士が税務顧問に就任する前までは到底考えられないことだった。経営計画にもとづき、毎月の売り上げ目標を掲げ、それに向かって全社一丸となって頑張ってきた成果だといえる。

 今ではすっかり勘の経営から数字にもとづく経営にシフトした白水社長は、若手(40代)の営業スタッフ2人にも会計を学ばせたいと考えている。いつか彼らに事業承継した際に、必ず役立つと思うからだ。

 白水社長は言う。

「いま経営に悩んでいる全国の電器屋さんにも、きっと何らかの復活の糸口がある気がします。当社の場合は、税理士さんを変えたことがそのきっかけになったわけですが、数字を大切にした経営が重要なのは、どの店にも共通することだと思います」

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 有限会社あさひ電機
所在地 北海道札幌市厚別区上野幌2条2丁目7-7
社員数 5名
顧問税理士 公認会計士・税理士 田中裕之
税理士法人田中会計事務所
北海道札幌市中央区大通西11丁目4番地
175TK大通ビル
TEL:011-251-7392
URL:http://www.tanaka-kaikei.or.jp/

掲載:『戦略経営者』2017年9月号