「やすらぎの家 設計工房」の看板を掲げ、大規模な公共施設や工場、および町なかの商店や木造住宅の設計、建築工事を手がけている大南建設工業。近年は耐震診断、耐震補強工事、古民家再生に関する引き合いが増えている。「会社経営は利益を生んでこそ」と語る大月和源社長に『DAIC2』を活用した粗利管理の手法と書面添付(※)の効果を聞いた。
国家資格を持つ社員を擁し地域の多様なニーズに対応
大月和源社長(中央左)と大月恵子専務(中央右)をはさんで
伊藤公一顧問税理士(左)と監査担当の石川美鳥さん
──創業は大正時代だそうですね。
社長 大正8年に発足した嶺北木材組合がわれわれのルーツで、その後当社の前身となる大南木材が設立されました。祖父が大南木材の株式を取得し、大南建設工業を立ち上げたのが昭和21年です。会社設立時の社屋を改修して利用しているため、事務所の地下には防空壕(ごう)が残っています。
──大月社長は3代目にあたると。
社長 ええ。父の急逝にともない、24歳のとき会社を継ぎました。手形や小切手のしくみとか、会社経営について勉強しはじめたのは社長就任以降です。地元の企業、個人宅に営業で回り、結婚した29歳までの5年間は特に大変でしたね。負債もそれなりに残っていましたから、金融機関からお金を借りなくてもすむ会社をつくりたいというのが念頭にありました。
──看板で「やすらぎの家 設計工房」をうたわれています。
社長 もともと建築設計が好きなので設計事務所のような会社にしたいという考えがあり、最近は省エネルギーや環境に配慮した木造注文住宅を主に施工しています。
それと力を注いでいるのが、神社やお寺をはじめとした地元の古民家の再生です。福井県には浄土真宗の歴史ある寺院が数多くあり、古文書を見せていただき施主さまの思いをうかがいながら改修工事を行っています。そうした古い建造物の改修工事を行う上で、耐震診断と耐震補強が欠かせません。
伊藤顧問税理士 注文住宅の建築、古民家の再生だけでなく、大野市等の公共工事も手がけられています。
社長 地方の建設会社は駅前食堂と同じで、幅広いニーズに応えられる対応力が求められるというのが私の持論です。公共施設の建設から庭に物置をつくりたいといった相談まで、いろいろな仕事をこなせなければ生き残るのはむずかしいでしょう。
──耐震補強工事の件数は伸びていますか。
社長 福井県内における耐震診断件数は年々増えており、大野市では近年当社がトップシェアです。築年数のたつ住宅のオーナーさまに耐震診断を提案・受注し、それをきっかけにお付き合いが始まるケースもあります。法人営業では、県内に進出している企業の工場建設、修繕工事に関わる取引先の1社に加えていただけるよう、日々提案活動を行っています。
──1級建築士を保有する社員も在籍しているとか。
社長 10名の役社員のうち8名が建築士、建築施工管理技士などの技術者資格を保有しています。うち5名は福井県に木造住宅耐震診断士として登録し、耐震診断や耐震補強計算も行っています。資格は仕事のキャリアを測る大事なバロメーターです。とはいえ、建築の専門知識にとどまらないコミュニケーション力も大切。お客さまのいれてくれたお茶や器の銘柄、飾ってある絵画の作者に気づいて、さりげなく指摘してあげる。そうしためざとさが会話を弾ませるんです。
その意味では社内で実施している研修旅行は役に立っているかもしれません。ことしの3月は社員の家族も招待して、東京ビッグサイトで開催された建築資材の展示会に行きました。研修旅行で見聞を広められるのも黒字経営をつづけて利益を生んでこそです。
設計、施工を担当した「大門屋(シルクduカフェ シルクギャラリー)」(左)、「タニコー大野流通センター」(中)と本社事務所(右)
現場別工事台帳を活用して費用と粗利を正確に把握
──日ごろ『DAIC2』を利用されています。
社長 従来は市販の会計ソフトを利用していましたが、10年ほど前に伊藤先生から勧められ切り替えました。伊藤先生の事務所とは先代からの長いお付き合いですから、〝はいそうですか〟とすんなり決めました。
──伝票入力は奥さまが?
専務 はい。私が入力するようになったのは2年前からで、育児中に社長に勧められて2級建築士や宅地建物取引主任者の資格を取得していたんです。入社当初はCADを使って図面を書いたり、インテリアをコーディネートしたり現場に関わる仕事を担当していました。今は若手社員に現場業務をまかせ、総務・営業部の一員として働いています。
──『DAIC2』に移行してどんな点が変わりましたか。
社長 コンスタントに伝票入力し、入力した数字に誤りがないか監査担当の石川さんに毎月チェックしてもらっているので、安心感がありますね。《勘定科目残高一覧表》を印刷して前年同月の数値と比較し、増減の激しい勘定科目があると原因を調べています。資材の仕入れ、燃料光熱費などは刻々と変化しますから、前年同月あるいは前月とのデータ比較が楽におこなえ、便利になりました。
また、各現場に担当者を置いているためどんな費用にいくら支払ったのか、逆にいくら回収したのかを把握するのに《現場別工事台帳》が役立っています。『DAIC2』を導入する前は石川さんも監査するのがきっと大変だったのではないでしょうか。
石川 毎月中旬ごろに監査のためおうかがいしていますが、課税区分を入念にチェックするぐらいで、入力間違いはほとんどありません。
──他に活用している帳表はありますか。
専務 日々の業務で役立っているのは《要約工事台帳》です。工事ごとの粗利益を大まかに把握できますし、問題点が見つかるとドリルダウン機能で伝票にさかのぼって原因を確認しています。
──長年黒字経営を続けていると金融機関から融資の打診もあるのでは……。
社長 しょっちゅうあります。ですが、会社を承継したときに資金面で苦労したため、借り入れをしないスタンスは変えないつもりです。
──以前は税務調査が定期的にあったと聞きました。
社長 恒例行事のように3年おきぐらいにありました。3日間ほど立ち会い要求された資料を提示し、調査官の質問にこたえないといけないので、時間的な拘束が負担でした。ただし近年は平成21年3月期以降、実地調査を受けていません。
伊藤 大南建設工業さまでは毎期、書面添付(※)を行っており、書面には月次巡回監査で指導した点や税務調査で過去に指摘された事項への打ち手を詳細に記しています。父の税理士事務所を継ぐ前は税務署に勤務していたので、チェックするポイントがだいたいわかるんです。意見が求められたのみで調査が省略になったこともありました。
「北陸の天空の城」越前大野城
──意見聴取ですね。
伊藤 税務署に行き、ひと通り質問に回答したところ今回は実地調査を控えますと言われました。ただ、税務署から発行される「調査省略通知」に当面調査が必要ないと記されているところが肝で、あくまで当面という扱いですが。
社長 いずれにしろ本業に集中できるのは非常にありがたいですね。
──抱負をお聞かせください。
社長 新卒の学生採用に力を注いでおり、昨年から就職活動フェアの会場にブースを設けたり、求人サービスのウェブサイトで情報を発信したりしています。久しぶりに求人活動をしてわかったのは営業活動と同じということ。自社の強みを見つけ、いかにアピールするかを検討するよいきっかけになりました。
女性社員が2人働いていますが、福井県の施策である「子育て応援プラスワン宣言企業」に登録し、安心して育児休暇を取り職場復帰できる体制を整えています。会社は利益を残すのが一番の使命。利益がなければ従業員や社会に還元できないし、宣伝活動もできません。借り入れに頼らない財務基盤の強い会社づくりに努めていくつもりです。
税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。
- 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
- 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
- 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
- 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。
日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用
(福井センター・宇田典正/本誌・小林淳一)
名称 | 大南建設工業株式会社 |
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創業 | 1919年2月 |
所在地 | 福井県大野市中荒井町1丁目821 |
売上高 | 7億1,000万円 |
社員数 | 10名 |
URL | http://www.dainan-co.jp |
顧問税理士 | 伊藤公一 税理士法人ONE代表社員 福井県大野市陽明町3-905 TEL:0779-65-5811 URL:http://itoukaikei626.tkcnf.com/ |