「ガラス張り経営」――この言葉は、松下幸之助翁の「衆知を集めた全員経営」にも、稲盛和夫氏の「アメーバ経営」にも重要なファクターとして登場する。手あかのついたようにも思える表現だが、歴史的に見て、「優れた経営者」といわれる人たちは、ほぼ例外なく、経営の透明性を保ち、公と私を画然と分ける作業に高いプライオリティーを置いてきたのもまた厳然たる事実だろう。
ところが日本の中小企業の現実はどうか。「ガラス張り経営」は企業経営者がもっとも陥りやすい「会社のものは自分のもの」との発想の対極にあるだけに、思いのほか実践が難しいものでもある。そのような意識を持つ経営者が指揮を執る会社の実態は、概してどんぶり勘定でいい加減なので、業績を外部に開示することは、経営者自らの「恥部」をさらすことでもあろう。好きこのんで、そんなことをする人はいない。そう考えると、もし、ガラス張り経営の実践を真剣に考えるのであれば、まず、経営者が襟を正し、適時・正確な会計を行うことが必要条件になる。
月次情報をクラウド上で提供
ガラス張りという言葉の中には、もちろん、従業員との経営データ共有化という側面もあるだろう。また、取引先への情報開示という意味合いも出てくる。さらに、今後、重要性を増すと考えられているのが、金融機関への迅速かつ正確な情報提供だ。
戦後、日本経済を飛躍的にひっぱりあげた要因の一つは、間接金融を担った日本の金融機関の企業へのスムーズな融資であることは論をまたない。そして、高度成長のただ中においては、企業側の資産の拡大にともない、担保至上主義が十分に機能したのである。ところが、バブル崩壊以降の低成長時代の到来で、企業の担保資産は抵当権でぱんぱんとなり、保証付き融資全盛時代がやってくる。金融機関からのプロパー融資はよほどの優良企業でもないかぎり難しい時代が続いた。
このような背景のなか、国は、定量要因だけでなく、定性要因、つまり企業の将来の成長可能性を勘案するいわゆる「事業性評価」を金融機関が取り入れる(重視する)よう指導していくことを示唆。金融機関が審査能力を強化し、自らリスクをとる融資を増やしていくことが課題となっている。
とはいえ、いくら「成長可能性を勘案せよ」といっても、その元となるのはやはり財務データ。適時・正確な業績把握がなされなければ、経営計画のモニタリングも不可能になり、成長可能性を判断するすべがない。
『TKCモニタリング情報サービス』は、企業の許諾のもと、TKC会員事務所を通じ、決算書や月次試算表などをクラウド上でダイレクトに金融機関に提供するサービスである。巡回監査、月次決算、書面添付などを励行するTKC方式で算出した信頼性の高い財務データが、一瞬のうちに金融機関と共有されるわけだから、これはもう高いレベルでの「ガラス張り経営」といっていいだろう。
金融機関にとってTKCモニタリング情報サービスがどれほど「重宝する」ものかは、後述のケース1とケース2を見ていただければあきらか。いずれも、同サービスを採用した企業が、迅速かつ有利な条件で融資を受けることができた事例である。さらに、同サービスを採用する信用保証協会まで現れた。いかにいままで金融サイドが、中小企業の〝適正な〟財務情報に飢えていたかが分かる。またP28~29では、金融機関が事業性評価融資を行うために経営状況を把握するためのツールとなる「ローカルベンチマーク」について、開発者ともいえる経済産業省に聞いた。
(本誌編集室)