全国で乱立する3200超のショッピングセンター(SC)。実は出店企業の約92%が、店舗数1~10の中小企業である。SC運営をめぐる最新事情や、消費者ニーズを的確につかんで商機をものにしている企業の共通点に迫る。
- プロフィール
- かねとう・じゅんこ 神戸大学法学部卒業。1986年、JTB入社。99年、リゾーム入社。国内大手デベロッパーから単館SCまで約2000施設のリーシング担当者が利用する出退店データベース「SC GATE」の戦略的活用を推進中。SC経営士、総合旅行業務取扱管理者。
一般社団法人日本ショッピングセンター協会によると、2016年の新規SC開業数は49で、12月末のSC総数は3244に達した。当社では、SCの定義には入らない百貨店やホームセンターなども加えた出退店データベース「SC GATE」を構築しており、その4341商業施設17万テナントのデータで業種ごとの割合を分析してみると、全体平均でファッション(アパレル)とサービスがともに22%、飲食が17%となっている(『戦略経営者』2017年3月号27頁・図表1参照)。
もちろんこの構成比は立地によって異なり、駅ナカでは食品5割、アウトレットはファッションが5割と特定の業種が圧倒的に高くなる。これはSCのタイプや面積によって来街者の目的が異なり、店の構成(テナントMD)も変わるからだ。大型店のほうがファッションテナントを多くそろえやすい傾向にある。ちなみに出店店舗数で企業を区分すると、1~10店舗の企業が圧倒的に多い(同・図表2)。SCテナントは大手チェーンばかりというイメージがあるが、日本の他産業構造と同じく、中小企業の占める比率が圧倒的に高くなっている。
2015年から2016年にかけての出退店状況をみてみると、大手4社で1600店の大量閉鎖が話題になるなど、アパレルの退店が大幅に拡大しているのが目立つ(同・図表3)。靴やバッグ、アクセサリーを含むファッション雑貨も同様で、特に中型の駅周辺・市街地と中型の郊外店舗からの流出が顕著だ。
一方、アパレルが抜けた分は、理美容院、エステティックサロン、リラクセーション、金融、携帯電話、クリーニング、カルチャー教室、リフォームなどのサービス業と、飲食業が穴埋めをしている。
これらの業種移動が発生している理由をまとめると、①人口減少、高齢化、単身世帯の増加②労働人口不足③女性の就業率やフリーランスの増加、終身雇用の崩壊と働き方の変化④都市と地方の格差⑤EC販売の増加などがあげられるだろう。
またSC全体の数が増える一方で、売上高を総床面積で割った坪効率が一貫して低下をたどっているのも問題で、販売員不足という大きな課題にも直面している。こうした中で店舗数を伸ばしている業態は、「絶対食べに行きたい」と思わせるなどわざわざ施設に行かなければならないものが多い。クリーニングや携帯電話の修理、洋服やバッグ、スマホを修理するリペア事業なども需要の拡大が見込めるだろう。
それでは中小企業がSCに出店するためにはどうしたらよいだろうか。まずは出店候補地のマーケットの特性をつかむことが大前提になる。
SCは立地によってそれぞれ目的やコンセプトが違うので、一律的な成功の秘訣(ひけつ)は存在しない。来街者は居住者、オフィスワーカー、観光や遊びのいずれが多いのか、年齢構成や世帯人数、年収はどの程度なのかといった基本情報を国勢調査データなどから分析する必要がある。またライバル企業の出店状況を調べることも必要だ。ライバル企業がなければいいというわけではなく、アパレルや靴、レストラン、旅行代理店などは複数店並んでいる方が消費者にとっては選べる楽しさがあり、相乗効果があると言われている。
施設のコンセプトを理解する
商店街などの路面店舗とは違い、賃料を払えば好き勝手にできるというわけではないのもSCの特徴である。SCは統合的、総合的な商業空間であり、デベロッパーが各SCで定めているコンセプトに合致していることがまず求められるからである。日本の商業施設の多くが「三方良し」の考え方で成り立っており、方針やルールを理解し、会議や研修に積極的に参加するなど、協力的な姿勢を持っているテナントを希望している。実際、店長会議や総会、方針発表会、オーナー説明会、クレーム研修や接客研修、防災避難訓練など、SC全体の方向軸を合わせるための会合や研修は数多い。それらにきちんと出席せず、SC内に設けられた各種規則を守らないテナントには場合によっては罰則が科せられることもある。
またデベロッパー側は、店ごとに異なる役割を望んでいることも理解したい。強い集客力をもったショップや定番ショップ、話題店や人気店、利便性の高いショップ、エリア内初出店など希少価値の高い店舗、変化に適応し自ら業態開発できるショップ――さまざまなタイプのテナントをコンセプトに沿ってバランスよく配分しているのである。
では最近ではどんな企業の出店が伸びているのだろうか。いくつか事例をご紹介しよう。モコモコ素材の女性ルームウエアブランド「ジェラートピケ」でブレークしたマッシュスタイルラボは、もともとはウェブデザインを手がけていた会社である。2500円、3500円、4500円の3つの価格帯で自社製造の帽子を販売する「イチヨンプラス」を展開するポートスタイルは、急成長したメガネ企業の事例と同じようにSPA方式で出店拡大中だ。明確な価格体系でいえば、「コンサルティング1分、カットするのに10分で1500円」で人気の美容室「イレブンカット」を展開するエム・ワイ・ケーもフランチャイズ展開を強化している。
健康関連分野の企業も強い。マットレス販売のエアウィーヴやマッサージチェアを展開するドクターエアに勢いがある。フィットネスジムでは「30分フィットネス」をうたい文句にした「カーブス」(カーブスジャパン)が全国で拠点を増やしている。同社のビジネスモデルではプールやシャワーを備えた大型施設が不要でデベロッパーにもメリットが大きい。
ホビー関連では、ホビーラホビーレやマーノクレアールなどクラフト(手芸)店が毛糸などの商品を販売するだけでなく、手芸教室や作品展を積極的に開催して顧客獲得に成功。参加者はSNSを通じて作品発表できるなど、自己表現や仲間作りの場の提供につながっている。アウトドア店は、冬季スポーツ中心の店舗が相次ぎ撤退する一方、ロゴスやスノーピーク、コロンビアなど春夏のスポーツブームに対応したブランドが店舗数を伸ばしている。
トレンド把握と原価管理が鍵
これら勢いのある企業の特徴として共通するのは、いずれの企業も「時代をつかむ」ことができていること。例えば飲食業界ではリンガーハットが麺なしの長崎ちゃんぽんを販売し炭水化物制限の健康トレンドにいち早く対応し、SCでの店舗数も伸びている。自宅で揚げ物をする家庭が減少しているのに比例して天丼やとんかつなどのチェーンは出店攻勢を強めているし、和食ブームのトレンドに乗って「和」がつく店名のテナントをオープンさせて成功している事例が最近極めて増えている。
年中無休で診察が受けられる歯科医院がSC内で急増していたり、インバウンド需要に応じて免税手続きを行う会社がサービスを提供していたりする例も出始めている。SC施設内は安全性が高いので子ども関連のビジネスも活況で、理系的思考を育てるロボット塾やそろばん塾、学童保育の開設も相次いでいるという。「自己表現」「健康」「時間消費」といった消費トレンドをいかに早く、正確につかめるかがポイントになる。
そのうえでさらに重要なのは緻密な原価管理だ。中小企業がSCでの展開を検討する際、ここが大きな課題になる。すなわち、原材料や人件費が上昇するなか、人気があるSCだからといって安易に出店を決めると、後々家賃の負担が経営を圧迫してくるのである。
実はテナント賃料はSC内のフロアや場所、出店する業種によって異なり、個別交渉で決まる。人口が少ない立地の小規模SCでは低くなるが、乗降者数が多い駅のような魅力的な場所は当然高くなる。また一般的に利益率の高い業種であるほど賃料は高い。
さらに普通借家制度から、3~6年で契約満了という定期借家制度への切り替えが進み、歩合制の賃料計算で契約を締結するのが主流になっている。書類の準備をすべて自前で行うのはハードルが高く、テナントに店舗開発専任者がいない場合もあるため、商業コンサルタントなどが間に入り交渉を進めることも多い。財務や経理に明るくない中小企業経営者にとっては、税理士や会計士のサポートは必須になるだろう。
(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)