福江島(長崎県五島市)に本部を置く社会福祉法人さゆり会は、島内の20にのぼる拠点で社会福祉事業を幅広く展開する。このほど長年利用してきた会計システムを移行し、組織全体の経営状況を明確な数字で把握できるようになった。かつ、遠隔地からもデータを参照できる「クラウド」のしくみにより、顧問税理士からのサポートもいっそう緊密になっている。林田輝久理事長と石井計行顧問税理士に話を聞いた。
先駆共生の理念のもと住民のニーズに親身に対応
──保育事業からスタートされたそうですね。
林田輝久理事長
林田 1969年に開設した、へき地保育所「崎山保育園」がわれわれのルーツです。翌年6月に社会福祉法人さゆり会を設立。その後、福江島の少子化のスピードに危機感をおぼえ、複数施設経営の道を模索してきました。老人デイサービスセンター「みはらし荘」の開設を皮切りに、現在は高齢者福祉事業、障害者福祉事業にも取り組んでいます。
──五島市の概況を教えて下さい。
林田 五島市には福江島をはじめ11の有人島があり、市全体の人口は3万8000人ほどです。近年、少子化の波をひしひしと感じており、保育所では近隣地域以外のお子さまを施設の車で送迎することで定員を保っている状況です。地域をこえてバスで送り迎えしている事業者は島内でわれわれぐらいではないでしょうか。当初、他の施設のエリアを侵してしまうのではないかという意見もありましたが、ニーズがある以上、背に腹は代えられません。離島に拠点を置く社会福祉法人にとって人口減少は切実な問題です。
──「先駆、共生」を経営理念に掲げられています。
林田 84年にさゆり会の職員として福江島に戻りましたが、以前は建設コンサルタント会社に勤務し全国各地の港湾、道路の設計を担当していました。五島市役所の方に九州本土にあって離島にない福祉サービスを調べてもらったところ、精神障害者向けの施設がないことがわかったのです。当時から「先駆」を念頭に置いていましたから、福江島ではいち早く生活訓練施設と就労支援施設を開所しました。
──「共生」の取り組みはいかがでしょう。
林田 就労支援施設に入所している方々が栽培されたアムスメロンや、手づくりの陶器類を販売する「収穫祭」を長年開催してきました。規模が次第に大きくなり、12月の障害者週間に開催している「障害者和(わ)い輪(わ)いまつり」というイベントに発展しています。この行事には市内のほぼ全ての社会福祉法人が参加しています。
──保育、介護職にはハードワークのイメージがありますが、労務管理で心がけていることはありますか。
林田 従来はおそい時間まで働くのが当たり前で、時間管理もルーズなところがありました。しかし近年は長時間労働の慣行を改め、働きやすい職場づくりに努め、育児休暇や短時間勤務制度の活用を勧めています。子育てをサポートする企業や団体に与えられる厚生労働大臣の認定「くるみんマーク」を取得したのもその一環です。五島市内でこれを取得したのは当法人が第1号だったと聞いています。女性職員が6割を占めていますが、半年間ほど育児休暇や介護休暇を取得するケースが増えてきました。
また、ことし1月に施行された改正育児介護休業法に対応する規定を運営規則に盛り込み、男性職員の「子の看護休暇」取得者を増やす行動計画も立てています。ただ、保育と介護の現場は忙しく、支える人が十分いるとはいえません。とりわけ作業療法士や理学療法士などの資格を保有している専門職の人が少ないと感じています。
障害者支援施設の「やまゆり荘」と「みつたけ荘」は本部事務所に隣接する
会計データの一元管理で内部取引をスムーズに確認
──石井計行(かずゆき)税理士との関与のきっかけをお聞かせください。
林田 TKC主催の社会福祉法人会計基準改正に関する研修会に参加したところ、講師を務められていたのが石井先生でした。当時は私ひとりで組織全体の経理業務を担当していて、社会福祉法人会計に詳しい専門家も島内におらず、新会計基準にどのように対応すればいいのか不安だったのを覚えています。研修会の後、会計処理について石井先生に質問したところ、的確なアドバイスをいただきました。研修会に参加したのが2000年ですから、15年以上のお付き合いになります。
──当時の記帳方法は手書きですか。
林田 当初は手書きで行っていましたが介護保険の導入時、請求事務とリンクできる市販の会計ソフトを購入し10年間利用しました。
──その後『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』に切り替えられたわけですね。
林田 はい。毎月監査のため来所されている石井会計の森内さんから紹介され、システムデモを見てほかのソフトと機能を比較した上で決めました。興味を持ったのがクラウドという方式。従来利用していたソフトでは各拠点で入力したデータをUSBメモリに保存し、わざわざ本部に送ってもらっていましたから……。不便でしたね。今振りかえると長年にわたり石井会計さんの指導を受けてきたので、なぜ早くTKCシステムに切り替えなかったのか不思議でもあります。
石井計行顧問税理士
石井 福江島には早い時期に光ファイバー回線が敷設され、システムの処理速度も問題ありません。私の事務所の顧問先さまでは、さゆり会さまを含め6法人で『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』を利用されています。
──TKCシステムに移行してどんな点が変わりましたか。
林田 一番助かっているのは拠点間の内部取引の入力がスムーズになったことです。さゆり会では法人内で使用するハガキや給食に出す食品などさまざまな物を就労支援施設で製作、あるいは収穫してもらっています。以前は財務データが各拠点に分散していたため内部取引の入力漏れや二重入力が起こり、確認するのが大変でした。
加えて決算期末を迎えるまで組織全体の数字を把握できませんでしたが、TKCシステムに変更して以降、期中でも経営状況を明確につかめるようになりました。森内さんに会計データの整合性を毎月チェックしてもらっているのが大きいと思います。《予算実績比較表》など会議で使用する資料をすぐに出力できる点も評価しています。
──さゆり会の拠点数は?
福江島には長崎空港、福岡空港から
の空路と長崎港からの海路がある
林田 システムでは社会福祉事業、公益事業、収益事業に分け、トータル20拠点56サービス区分を登録しています。取引を入力しているパソコンは10台以上あります。石井先生の事務所は長崎市内にありますが、システム上のデータをインターネット経由で参照していろいろご指導してもらえます。そのほか電話やメールでも随時相談しているので、距離が離れているという実感はあまりありませんね。ただ、5月の決算申告の際は、森内さんに本部事務所へ泊まりがけで来てもらっています。
石井 決算申告業務はそれなりにボリュームがありますからね。クラウド型のTKCシステムに移行してからコミュニケーションが密になり、林田理事長からいただく質問にスムーズに回答できるようになりました。
──方向性をお聞かせください。
林田 人口減少が見込まれる中、組織として存続するためには施設で働く職員の質を引き上げる必要があります。研修体制に若干ばらつきがあり、高齢者福祉部門では研修部会を設け頻繁に研修を行っていますが、障害者、児童福祉分野は小規模施設が多く、研修機能が少し弱いと感じています。組織全体の研修体制を強化し、今後増えるであろう育児、介護休暇を取得する社員をカバーできる人材を育てていきたいです。『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』の導入により財務管理体制が整ってきたので、より詳細に経営分析を行い、迅速に手を打っていきたいと考えています。
(西日本統括センター・小山育伸/本誌・小林淳一)
名称 | 社会福祉法人さゆり会 |
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設立 | 1970年6月 |
所在地 | 長崎県五島市下崎山町699番地 |
職員数 | 260名 |
URL | http://www.sayurikai.or.jp/ |
顧問税理士 | 石井計行 石井税理士事務所 長崎県長崎市恵美須町7番21号 (恵美須マンション2F) TEL:095-825-1130 URL:http://www.tkcnf.com/ishiikaikei/ |