多賀城フラワーのみなさん

多賀城市と仙台市に生花店を3店舗展開し、創業50年を迎えた多賀城フラワー。海外での“修行経験”をもつ鈴木貴資(あつし)社長は、国内外のトレンドをいち早く収集し、個性的な品ぞろえで差別化を図る。きめ細かい店舗別の粗利管理を『FX2』で行い、社長就任以来力を注ぐBtoB事業も軌道に乗ってきた。

法人取引先を開拓しつづけ顧客との接点づくりに注力

──注力されている分野をお聞かせください。

鈴木貴資社長

鈴木貴資社長

鈴木 創業来、約40年間地域のお客さまに対する小売りをメインに行ってきました。2006年に私が社長に就任して以降は、法人取引に重点を置き取引先の開拓に取り組んでいて、ホテルや葬儀社、地元の中小企業などに販売ルートを広げています。店頭販売のみならず、冠婚葬祭、生花装飾、フラワーアレンジメント教室まで幅広くサービスを提供できるのが当社の強みです。

──ことしの3月に多賀城駅前に完成した多賀城市立図書館の植栽を手がけられたとか。

鈴木 蔦屋書店を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営して話題となっていますが、当社製品のクオリティーをプレゼンで訴え、契約を結ぶことができました。CCCの担当者はベルギーから輸入した器を気に入ってくれたようです。

植栽を担当した多賀城市立図書館の室内

植栽を担当した多賀城市立図書館の室内

──海外の取引ルートはどのように開拓されたのでしょう。

鈴木 大学を卒業後、欧州で生花店を営むうえで必要となる国家資格を取得するため、英国の専門学校に留学しました。約1年間学んだあと、友人のつてでドイツ、イタリア、オランダの生花店、問屋で経験を積んできました。欧州に取引先があるのはこうしたいきさつからです。

──資格を取得するのは大変でしたか。

鈴木 英語を理解するのが大変でしたね。生花をアレンジする技術は各国共通の要素があり、習得するのはそれほど難しくありませんでした。しかし、光合成のしくみや植物が枯れたときの対処法を英語で説明するのは骨が折れました。

──その後帰国し、お店を継がれたわけですね。業界のトレンドはどのように収集されていますか。

鈴木 当社では仙台市中央市場だけでなく東京都中央卸売市場や愛知県の市場の買参権を取得しており、さまざまな情報を入手し品ぞろえに反映させています。また、スタッフ全員が入社1年目からトレードフェアや展示会を視察して視野を広げ、新商品の開発に役立てています。

──顧客との接点づくりも重要でしょう。

鈴木 先に話した多賀城市立図書館では、定期的にフラワーアレンジメントのワークショップを開催しています。例えばハロウィーンにちなんだリース教室、ガラスの容器にコケなどを植えていくテラリウム教室などです。定員は15名ほどですが、毎回整理券がすぐになくなってしまうほど人気の講座になっています。テラリウムで用いる容器も仙台では手に入らない資材のひとつです。

──講師はどなたが?

店舗ではテラリウムで用いる容器なども扱う

店舗ではテラリウムで用いる容器なども扱う

鈴木 社員が担当しています。テラリウムの講座を開催するときはスタッフ5名と東京に行き、業界のトレンドをリードしている方にノウハウを教えてもらいました。こうした分野はほかの生花店が見向きもしないところだと思います。

──法人取引先に対する施策はいかがでしょう。

鈴木 店頭でも配布していますが、お店のイベントや日にちごとの誕生花などの情報を掲載した「フラワー通信」を毎月発行しています。過去に注文をいただいた取引先さまに2年間、郵送しています。

──最近はメールマガジンで情報を発信する企業が増えていますが、あえてチラシを発行する理由は?

鈴木 確かにメールマガジンを発行するほうが楽かもしれません。フラワー通信は社員が持ち回りで手書きで制作しているので、温かみがあるとお客さまからの評判がいい。チラシで届けば、担当者以外の社員も手に取っていただける機会も高まると思います。

3店舗ごとに業績を管理し決算報告会で経営状況を公開

──『FX2』を日ごろ活用されているとお聞きしています。

鈴木 顧問税理士の吉田恵幸(しげゆき)先生とは20年を超えるお付き合いで、私が入社したときにはすでに『FX2』を利用していました。

──吉田先生の事務所では関与先企業の自計化率が70%を超えているそうですが……。

吉田恵幸顧問税理士

吉田恵幸顧問税理士

吉田 いまは90%以上になっています。顧問契約締結時に『FX2』による自計化をご提案し、当初は鈴木社長のお母さまが入力を担当されていました。

──日々の伝票入力はどのように?

鈴木 各店舗にあるレジシステム3台から売り上げ取引を『FX2』に連動させ、2名の経理担当者が交代で入力しています。毎月の仕訳数は500枚ほど。3店舗ごとの変動損益計算書をよく確認しています。

──特に注目されている点は?

鈴木 真っ先に目がいくのは変動費です。
 台風による被害があったり、不順な天候が続いたりすると、仕入れ商品の相場が一気に高騰します。販売価格に転嫁するのは簡単ではなく、粗利を上げるためには廃棄ロスを減らし、作業効率を高め生産性を向上させることがポイントになります。外部のコンサルタントに改善指導を仰いでいるのもその一環です。全社の現状を早期に把握するうえで、タイムリーかつ正確な会計データは欠かせません。

クリスマス仕様にライトアップされた本店

クリスマス仕様にライトアップされた本店

──外出先で業績を確認することはありますか。

鈴木 出張先で気になる点があるときは、経理担当者に連絡して売掛金残高一覧など必要な帳表をSKYPDFに切り出してメールで送ってもらっています。資金繰りについても、金融機関に融資を依頼する必要があるのか、内部留保でまかなえるのか迅速に判断でき助かっています。

──経営計画も立てられているそうですね。

鈴木 毎年期首に監査担当の清野(せいの)さんにアドバイスをいただきながら、経営課題への打ち手を検討しつつ毎月の予算を策定しています。そして6月末に当社の会議室で決算報告会を開き、社員全員と地元の中小企業経営者に出席してもらっています。
 中小企業家同友会のつながりからお互いの会社の決算報告会に誘いあっていて、ことしは2名の経営者が参加しました。閉店後の18時から約2時間、今期の反省点と部門ごとの目標を社員が発表しています。決算書を対外的にオープンにすることで、経営者仲間から親身なアドバイスをいただけるし、私自身も経費の無駄遣いを抑えられたり、戒めにもなっていると感じています。

清野雅史監査担当

清野雅史監査担当

清野 毎月の巡回監査では鈴木社長に同席してもらい、予算や前年実績と現状の数字を対比してお伝えし、打ち手を検討しています。鈴木社長はフィンテックなどの新たな技術動向にアンテナを張られているので、私自身勉強になることが多いです。

──経営の方向性をお聞かせください。

鈴木 今後も法人需要の開拓に力を注いでいきます。多賀城市近辺で法人向けの生花ビジネスを展開している会社はなく、当社がほぼ独占している状況にあります。ありがたいと思う半面、売上高が頭打ちになっているので、いかに現状を打破できるかが課題です。
 生花の出荷量は1997年をピークに年々下降の一途をたどっていて、業界全体に危機感があります。地域の人々に生花の魅力を伝える啓発活動を行いつつ、法人取引先さまの冠婚葬祭、ディスプレー展示などのお手伝いもしていきたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社多賀城フラワー
創業 1965年4月
所在地 宮城県多賀城市高橋2-15-10
売上高 1億5,000万円
社員数 17名
URL https://www.tagajoflower.com/
顧問税理士 吉田恵幸
税理士法人スクラムマネジメント
宮城県仙台市若林区新寺5-7-3
TEL:022-792-9763
URL:http://smg.or.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年12月号