自衛隊モデルなどオリジナリティーあふれるラインアップを展開するケンテックスジャパンは、国産腕時計に特化したこだわりのものづくりで人気急上昇中の時計メーカーである。同社の橋本直樹社長と税理士法人NKCの兵頭寛監査課長に、TKCの『FX2』を活用した業績管理のポイントなどを聞いた。

──国産に特化した時計メーカーとお聞きしています。

ケンテックスジャパン:橋本社長(右)

ケンテックスジャパン:橋本社長(右)

橋本 当社は創業27年の腕時計のメーカーで、設計やデザイン、生産拠点を持ちながら販売まで一気通貫しているのが特徴です。元々は香港を拠点とした時計の受託製造事業でスタートしましたが、ここ10年の間にメード・イン・ジャパンにこだわる戦略にシフトしました。ムーブメントなど主要部品の調達と組み立て工程はすべて日本で行っており、時計専門店や家電量販店を通じて販売しています。高品質の時計をお求めやすい価格で提供するという創業以来のポリシーを守り続けています。

──ケンテックスブランドの特徴は?

橋本 ブランド設立以来の開発方針が、実用的であるということと技術力にこだわるということ。例えばいま人気の「マリンマン」というダイビングウオッチのシリーズは、200メートルの本格潜水性能を示すISO6425規格をクリアしています。国産ブランドでこの規格を満たすスペックの時計を生産している会社は数えるほどしかありません。また当社のフラッグシップモデルである「クラフツマン」シリーズでは、実用性のすべてを凝縮しました。材質は成型が難しいチタンをフルに使用し、自動巻時計の針の狂いにつながる磁気をシャットアウトする耐磁構造を採用。さらには衝撃に耐える特殊なパッキンを装備したり、自家発光するトリチウムガスを目盛りの中に封入しどんな暗闇に長くいても20年は文字盤が光る仕組みを取り入れたりしています。

──価格帯は?

橋本 クラフツマンは当社製品の中でも最も高い部類の15万、マリンマンシリーズは5~7万円です。このほか自動巻時計をはじめて使うようなエントリーユーザー向けのより低価格なモデルもありますが、そうしたモデルでもステンレスの10倍傷がつきにくい「ナノブライトプロテクション」という表面処理技術を施すなど高い機能性を付加しています。基本的に当社の商品は10万円以下がボリュームゾーンで、長く使える良いものを適正価格で提供するのがメーカーとしての使命だと考えています。

──ほかに御社を代表する商品はありますか。

橋本 国内で唯一、防衛省共済組合本部登録商品として認定された自衛隊モデル「JSDFコレクション」を展開しています。装備品ではないので装着する義務はありませんが、実際の現場を想定し、隊員の方々の意見を取り入れながら商品開発しました。例えば海上自衛隊向けモデルは防水性能を高め、航空自衛隊向けモデルではタキメーター(時間計測機能)を装備しています。登録商品なので隊員の方はどこにいても購入することができ、PKO派遣時に現地軍関係者などにプレゼントされたケースもあると聞いています。このコレクションはもちろん一般販売もしており、売れ筋商品の一つになっています。

──「国内唯一」とか「日本初」が多いですね。

橋本 極めて高度な技術が必要な最高級機械式時計「トゥールビヨン」を国産ブランドとして生産したのは当社が第1号でしたし、ダイヤモンドの次に硬いと言われているサファイヤガラスを使用した時計も他社に先駆けて発売しました。また日本の腕時計メーカーとしては初めて、ご購入いただいた時計一本一本を専用システムで管理するオーナーサポートプログラムの運営を始めたのも当社です。これは「クラブK」という名称で、時計に刻印されているシリアルナンバーと個人情報を専用サイトで入力すると、ベルトやパッキンの交換についてそれぞれ適正な時期に当社からご連絡するなどのサービスを受けられるプログラムです。さらにここでは、ファン同士のコミュニティーの場を設け、商品企画に一緒に参画していただくなどメーカーとオーナーの距離を縮める仕組みも検討しています。

同業他社比較を活用し限界利益の適正値を確認

──TKCシステムを使うようになったきっかけは?

橋本 4年前に経理スタッフが退職することになり、それを機に顧問税理士事務所を変更しました。鹿沼農商学校(現、栃木県立鹿沼商工高等学校)卒で飯塚毅名誉会長と出身校が同じ叔父から推薦されたのをきっかけに、TKCにお願いすることになりました。しっかりした組織がある安心感と、全国ネットワークを通じたビッグデータを持っていることに引かれ『FX2』導入を決めました。

──ビッグデータとは「TKC経営指標(BAST)」のことですか。

橋本 その通りです。月次決算をするなかで私が一番関心を持っているのが、同業他社との比較データです。特に利益率は参考になります。TKCシステムを使う前までは自社のことしか分かりませんでしたが、たとえば「製造業平均と比較すると利益率は良い」という結果が出れば経営方針が間違っていないことが確認できますし、逆に劣っている部分があればそれはそれで謙虚に受け止めることができる。この「BAST」の数字は、経営者としての決断に冷静さをもたらしてくれるとても重要なデータだと思います。

──やはり利益率のところが一番気になりますか。

兵頭 《変動損益計算書》と《利益管理表》でまず自社の現状を把握して、それからBASTの数値を確認するようにしていますが、時計メーカーは母数が少ないので必ずしも平均値とはいえない部分もあります。そこでシステム導入時に製造業平均の数字を比較対象とすることを提案し、なかでも限界利益や労働分配率に注目するようアドバイスさせていただきました。

橋本 やはり限界利益は重要です。月ごとの変動は避けられず、ときには危険な水準まで落ち込むこともあり得るでしょうが、必ず会社の適正な数値はあるはずですから。月々の限界利益の数字を踏まえて戦略的にそれを今後どれくらいの水準にもっていくのか、経費を抑えるのか、それとも売り上げを上げるのか──を考えるわけですが、当然これらの戦略を検討する基本軸は限界利益になります。

──商品のカテゴリーごとに利益管理していますか。

兵頭 実は同社は自社ブランドのほかにOEM事業も手がけており、その売り上げは全体の7割を占めています。ですのでまず自社商品とOEMを区別し、さらにはそのOEMを利益率が異なる供給先ごとに細分化して管理する必要があります。現在はそれを手作業でエクセルシート1枚にまとめて確認していますが、ミスも起こりやすく時間もかかる大変な作業なので、「マネジメントレポート(MR)設計ツール」を使って『FX2』から直結で連動し資料を作成する準備を進めています。
 事業別利益の状況を踏まえて私の方から専門家である橋本社長にアドバイスできるようなことはありませんが、仕入れコストの状況や貸し倒れリスクの懸念、売り値とコストのどちらを見直せばよいのかなどについて意見交換させていただくことはあります。

橋本 そうは言っても第三者から指摘されてないと腹に落ちないことはいっぱいあります。数字がただ悪いのが分かるだけでなく、「自社ブランドは好調だったけれどOEMが極端に悪く全体の足を引っ張った」ということまですぐに教えていただけますからね。為替の状況で仕入れコストが上がったのが利益率悪化の主な原因と認識できれば、その対策をとることができます。まあそもそもOEMは数が出ますが、検品や発送等の工数が増えあまり効率的とはいえませんが。全体の利益率を高めるためにも、将来的に自社ブランドとOEMの売り上げ比率を半々くらいにしたいと考えています。

──今後の抱負を。

橋本 10月11日、本社1階に自社ブランド商品のすべてのモデルをそろえた工房付きのショールームをオープンしました。その前の連休に関係者向けのレセプションを開きましたが、おかげさまでひっきりなしに取引先の方などにお越しいただき、その期待の高さに「がんばろう」という気持ちを新たにしています。このお客さまと直接コミュニケーションがとれる直営ショールームを近畿地方の都区部などにも広げ、大手メーカーがやらない当社にしかできない商品を提供する第3極のブランドとして、東京オリンピックが開催される2020年には売上高10億円に乗せたいと思っています。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社ケンテックスジャパン
設立 1994年5月
所在地 東京都台東区上野5-5-8 IMIビル
売上高 約4億円
社員数 約20人(海外スタッフ含む)
URL http://www.kentex-jp.com/
顧問税理士 黒田晃
税理士法人NKC
東京都足立区竹の塚5-16-12
URL:http://www.nkchp.com/

掲載:『戦略経営者』2016年11月号