インターネットを使って海外に商品を販売する「越境EC」の可能性とは。出店方法や、成功のためのポイントを解説する。
国境を越えてインターネットでモノを売る「越境EC」。いまやネット通販(Eコマース)はインターナショナルに展開するのが当たり前の時代に突入しているといってもよいだろう。
「日本の総人口はこの先、確実に減少していきます。そのため国内の個人消費も先細りしていくことが予想されています。それを踏まえて海外に目を向ける事業者が増えるのはある意味、当然のことかもしれません」
日本政策金融公庫総合研究所の竹内英二さんはこう話す。
越境ECで先行したのは、大企業よりむしろ中小企業で、パターンとしては主に2通りあった。日本のいわゆるオタク系やホビー系の商品は海外でも人気があることから、それを当て込んで海外向けに販売するようになったのが1つ。そして2つめが、国内向けにネット通販をしていたところ、海外からの注文が時折入るようになったことを受けて越境ECに乗り出したというケースだ。
「ところがここにきて、様子がかなり変わってきています。大企業も、特に中国向けの越境ECに強い関心を示すようになってきたのです」
市場規模はまだ伸びる
きっかけは昨年、中国のアリババグループが「天猫国際(Tモールグローバル)」というECモールを新設したことにあった。従来は、現地法人を作らないと日本企業が中国のECモールに出店するのは難しかった。ところが天猫国際については、その必要がないのである。中国人観光客が日本を訪れ、家電製品や化粧品・健康食品などを「爆買い」していたことからも分かるように、日本の製品は中国でも人気が高い。そうした需要を取り込もうと、大企業がこぞって天猫国際に出店するようになった。
「訪日しなければ買えなかったものが、今はだいたいネットで買えるようになっています」
だからといって、中小企業にチャンスがなくなったわけではない。Eコマース全体の市場規模が世界的に増加傾向にあるなか、日本の中小企業が活躍できる場はまだまだある。経済産業省が今年6月に公表した「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備」によると、昨年度の越境ECの市場規模は、「日本から中国へ」が7956億円、「日本からアメリカへ」が5381億円となっている(『戦略経営者』2016年11月号P27図参照)。どちらも増加傾向にあり、今後さらに増えると見られている。今から越境ECに参入したとしても、十分にチャンスはあるといえよう。
3つの形態を使い分ける
さて越境ECには、どんなやり方があるのか。竹内さんは、大きく分けて次の3つの形態があるという。
①英語や中国語の通販サイトを自前で作成し、自ら運営する方法
収益はすべて自分たちのものとなるが、集客から決済方法や配送手段の確保、顧客対応まで、サイトの運営をすべて自社でやる必要がある。
②国内業者が運営する海外向けECモールに出店する方法
たとえば楽天グローバルマーケットやJCBグローバルショッピングに出店する。モールへの集客や、決済・配送の手段も運営会社が用意してくれるため、サイト運営の手間が省ける。ただし手数料や利用料が発生する。
③海外のECモールに出品・出店する方法
海外における集客力が高いが、外国語での対応が求められる。
③でオーソドックスなのは、米国ならイーベイ、中国ならタオバオの活用だ。2つとも、もともとはCtoC(個人間取引)のオークションサイトだったが、固定価格で販売することもできるため、多くの企業が出品している。
「タオバオについては、消費者からの問い合わせや値引き交渉にチャットを使うことが多いので、リアルタイムに中国語でやり取りできないと、商売が成り立たないところがあります。中国語に堪能なスタッフの協力を得なければ、なかなか難しいかもしれません」
BtoC(企業・個人間取引)のショッピングモールである天猫国際については、そうした問題が比較的少ないが、いまは世界中の有名企業からの出店要請がたくさん来ていることもあり、中小企業はそう簡単には出店できないのが現状だ。タオバオに個人名義で出品するか、あるいはアリババグループ(天猫・淘宝網)に次いで中国EC2位につけている京東集団(ジンドン)が運営する「京東全球購(JDWorldwide)」などを狙ってみるのも悪くないだろう。
「①~③のどれか一つだけに頼るのではなく、複数を組み合わせてみるのも手です。初期の段階ではイーベイやタオバオを利用してある程度の数の顧客を獲得し、そのうえで自社サイトの販売をはじめるといったやり方もできるはずです」
商材は「海外にないもの」を
ここで、越境ECに取り組んでいる2社の事例を紹介したい。
大阪府富田林市でリサイクル着物の販売をしているICHIROYA(代表・和田一郎社長)が越境ECをスタートしたのは、2001年のこと。イーベイに中古の着物を出品してみたところ、仕入れ値の約3倍の値段で売れることが何度か続いた。確実に需要があることを知り、間もなく自分で英語のサイトを作り、海外向けのビジネスに本腰を入れるようになったという。
一方、京都で日本茶の製造販売をしている「舞妓(まいこ)の茶本舗」の場合は、2007年から英語とドイツ語、さらにロシア語の通販サイトを作って越境ECをはじめた。その後、タオバオに出品するようになり、中国への販売にも力を入れるようになった。注文の受け付けや顧客対応はパートナーの中国企業に任せているが、商品発送は日本からおこなっている。
「越境ECで販売する商材を何にするかは重要なポイントです。その国で買えるものをわざわざ越境ECで買いません。着物や日本茶など、海外では簡単に手に入らない商材を選ぶことも大事な要素です」と竹内さんはいう。
たとえば原宿などで人気の若者ファッション(衣類・アクセサリー)も、越境EC向けの商材といえる。それらが好きだという欧米やアジアの消費者は意外と多い。事実、いわゆるロリータファッションの衣類も海外の人によく売れている。他にも、日本刀や甲冑(かっちゅう)といった古美術品や伝統工芸品、あるいは日本のアニメ・ゲームに関連するグッズなどの人気が高い。
また、「海外で買うより安く、良いものを提供する」というのも、海外の消費者を引きつけるうえで有効なやり方だ。神奈川県でボクシング用品を取り扱うA社のもとには、海外からもたくさんの注文が舞い込んできているが、それは豊富な在庫を持つことで急ぎの注文にも対応できるようにしているうえに、価格も安いからである。こうした方向性をめざすのも一つの手法である。
集客のための「広告」は必要
さらに竹内さんは、越境ECで成功するための条件として「広告」の重要性をあげる。「ある程度クチコミが生まれれば人が集まってきますが、最初のうちはインターネット広告、なかでもリスティング広告(ユーザーの検索結果に適合した広告を表示)をうまく活用することをお勧めします」。
海外の消費者がどうやってECサイトにたどり着いたかを検証していくと、広告からというケースが意外に多いという。広告費についてはあまりケチらないほうがよさそうだ。
また、一種の広告・宣伝費と割り切って、海外向けの送料を無料にしている会社もある。アンティークの茶道具・着物販売のネットショップ「宗(SOU)」を運営するQP(大阪市)だ。イーベイに出品する商品のなかには送料より安いものもあり赤字覚悟だが、最初のうちは1品だけでも、リピーターになってくれるとまとめて注文してくれるようになるので少しずつ採算が取れるようになるそうだ。
「越境ECの場合、国内での販売と違って、送ったはずの商品が届かないとか、配送業者のミスで箱やその中身までもつぶれてしまうといったリスクがあります。そうした部分のコストについても考えておくべきでしょう。越境ECはあくまで輸出ビジネスです。商習慣など、相手の国に合わせなければならないところも多いので、そのあたりは注意してください」
(本誌・吉田茂司)