中小企業経営者の抱える悩みの上位に必ずランクインするのが「後継者不足」。近年、とくに2世、3世の後継拒否に直面する社長が急増しており、彼らの悲哀は想像に難くない。どのようにして息子(娘)を経営者として育てればよいのか。中小企業大学校東京校の10カ月研修を取材して探ってみた。

後継者が育つ理想のプロセスを探る

 7月21日、22日と、今年も中小企業大学校東京校の経営後継者研修ゼミナール論文発表会が行われた。中小企業経営者にとって後継者確保は永遠のテーマ。親族内承継の割合が激減しつつある昨今、会社存続への不安感はいや増しに増している。

親子ともども卒業生

「息子(や娘)が継いでくれない」と嘆く経営者たち。理由はさまざまだが、同校の経営後継者研修からはその一端が見えてくる。例えば、論文発表会では、若き後継者たちがプロジェクターを使いながら堂々と自社の分析を行い、観客席の親が感激するという場面が頻出する。また、カリキュラムの一つである〝親子面談〟では、お互いが会社について熱く語り合う風景を目撃する。それらは、裏返せば普段のコミュニケーション不足の現れととらえることもできるのではないか。

 経営後継者研修では、社長の2世、3世を中心に、若き後継者が10カ月もの間、寮に泊まり込み、経営理念から財務、マーケティング、経営戦略、人的資源管理、法務、経営計画の作り方など実践スキルを学ぶ。座学、演習、自社課題分析に加え、4名の講師(メンター)がゼミナールを通じた特別指導を実施。最近では親子ともども卒業生という会社も増えてきている。

 開講は東京校だけだが、北海道から沖縄まで全国から受講生が集まり、後継者に必要な知識を積み、責任感を醸成していくとともに、人脈構築の意味でも効果を実感するという声が高い。

 全体像は図表(『戦略経営者』2016年9月号P25参照)の通りで、行き着くところは「自社分析」である。自社を正しく分析し、後継者の気付いていない魅力を再発見することができれば、子どもは後継者としてのマインドを自然と持てるようになるはずとの考え方だ。

基礎的能力の定着に期待

 それにしても、この10カ月という研修期間の長さはほかに例がないだろう。しかも寮生活なのでまさに「合宿」である。そのため、後欄のケーススタディーのいくつかで言及されているように、「最初は二の足を踏んだ」という受講者が多い。当然かもしれない。しかし、その分、受講者自身の明確な目的と覚悟を求められる上、「徹底」「集中」「繰り返し」による、経営に必要な基礎的能力の定着が期待できる。

 今回の取材においても、「目的」と「覚悟」をメンターたちによって腹落ちした、後継者たちのしっかりとした経営者意識を感じ取ることができた。また発表の内容や言葉遣いにも、徹底的かつ集中的に繰り返された知識の集積が感じられた。

 さらに経営後継者研修では、同窓生はもちろん、多数の卒業生とOB会でつながり、あるいは、ゼミの講師、講義などで登壇する約40名の講師(税理士、中小企業診断士、弁護士など)との親密な関係性を新たに確保することができる。これも通常では考えられない人脈といえるだろう。

 ともあれ、同研修は、国が行っている唯一の後継者育成プログラムであり、36年の歴史を誇る。卒業生は1100名超。定員は20名が原則だが、近年は注目度が増し、受講希望者が増加傾向にあるという。ちなみに本年度は25名が「論文発表会」に挑んだ。

 今回は、そのなかから3名の受講者の論文発表と個別インタビューを敢行。後継者が育つプロセスを探ってみた。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2016年9月号