契約書や領収書などの証憑書類を電子化して保存することを認めた「スキャナ保存制度」(電子帳簿保存法第4条第3項)。単にペーパーレス化を促すだけでなく、証憑書類のスキャナ保存は企業にさまざまなメリットをもたらしてくれる。

畑中孝介 氏

畑中孝介 氏

 契約書、領収書、請求書といった証憑(しようひよう)書類。これらは紙で保存することが原則とされているが、一定の要件を満たせば電子データで保存することも認められている。スキャナで読み取った領収書などのデータを保存する、ペーパーレス化の動きは今後ますます強まっていくだろう。

「こうした電子データでの保存を認めたのが、いわゆる『スキャナ保存制度』です」と、ビジネス・ブレイン税理士事務所の畑中孝介税理士はいう。

 証憑書類を電子化するメリットはいくつかある。ひとつは、保管コストが削減されること。大量の証憑書類を保管しておくためのスペースがいらなくなるのだ。特に大企業の場合、倉庫やキャビネットを用意しなければならないことから、書類の保管コストが数千万円以上かかっているというが、これを大きく削減できる。また、データでやり取りできるようになれば、各営業所から本社に領収書などを送る際に必要な運搬コストも減らせるだろう。

 2つ目は、監査(外部監査・内部監査)分野でのメリットだ。スキャナ保存制度を利用すると、証憑と帳簿が紐(ひも)づけされる。従来は、伝票や元帳を監査し、その後に証憑を探す作業が必要だったが、仕訳と証憑が同時に確認できるようになるのだ。検索・問い合わせへの対応が大幅に改善され、業務の効率化がなされる。

 また、同じように税務調査分野におけるメリットも期待できる。スキャナ保存制度を導入すれば、税務調査時において、パソコンとプリンターさえ用意しておけば、調査官が帳簿で検索した際に紐づけされた証憑をそのまま印刷すればよくなるため、税務調査官へのコピー対応等も不要となる。

「人件費を含めたコスト削減や、経理担当者等の業務効率向上に間違いなく大きな効果があります」

スマホでの読み込みもOK

 ちなみに、領収書などのデータを読み取る装置としては、一般的なスキャナのほかに、平成28年の法改正でスマホ・デジカメも対象になった。ただし、スマホ・デジカメの場合には従業員が受領したあと3日以内に電子的な時効証明である「タイムスタンプ」を付与することが必要だ(通常は1週間以内)。スマホを使えば、たとえばこんなやり方ができる。

 支店の営業マンが領収書を出張先のホテルでスマホ撮影→それを本社のサーバー等にアップし、タイムスタンプを付与→経理担当者等が確認する。

「紙の原本については、支店・営業所等で保管しておけば、定期検査終了後にそのまま廃棄しても構いません(本店への送付は不要)」

 スキャナ保存を認める法律そのものは以前からあった。だが利用要件がかなり厳しかったため、電子帳簿保存法の申請が年間約1万2000件提出されているうち、スキャナ保存の申請件数は年間10~50件と、かなり低調な件数にとどまっていた(そのうえ年間5~10件が申請を取り下げ)。

「しかし平成27年度と平成28年度における法改正で、利用要件が大幅に緩和されました。これにより、スキャナ保存制度ががぜん使いやすくなりました」

 平成27年度の改正においては、それまで「3万円未満」の契約書・領収書でなければ認められないという金額基準が廃止され、契約書・領収書・請求書等についてはすべて対象になった。このほか、電子署名ではなくタイムスタンプが認められたりしたことから、だいぶ利用しやすくなった。

 さらに平成28年度の改正では、スマホ・デジカメが読み取り装置の対象に加わったほか、原本を本店以外の支店・事務所などで保存しておくことも可能になったりと、ますます要件が緩和された。また、小規模企業者については社内1名+税理士等の2名体制で運用が可能になり、小さい会社でも簡単にスキャナ保存制度を活用できるようになったことも見逃せない(通常は受領者・経理担当者・検査担当者の最低3名)。

「ただスキャナ保存制度の活用にあたっては、『適正事務処理要件』を満たすための社内規定を整備し、順守する必要があります」

 適正事務処理要件とは、原本となる書類の改ざん防止の観点から定められているもので、つぎの3つのポイントがある。

  1. 相互けん制…各事務に関する職責をそれぞれ別の者にするなど、明確な事務分掌のもとに相互にけん制が機能する事務処理の体制がとられていることが必要。
  2. 定期的なチェック…事務処理手続きの定期的な(最低限1年に1回以上)検査を行う体制が必要。
  3. 再発防止策…検査等を通じて問題点が把握された場合に、経営者を含む幹部に不備の内容が速やかに報告されるとともに、原因究明や改善策の検討、必要に応じて手続き規定等の見直しがなされる体制が必要。

「適正事務処理要件を満たしたうえで、開始3カ月前の日までに申請書を提出すれば、スキャナ保存をはじめることができます。事前審査はないため、原則みなし承認となります」

証憑書類の保管サービス

 平成28年度の改正が適用されるのは今年9月30日以後に行う承認申請からとなる。スキャナ保存に関心のある企業は、準備をはじめてもよいだろう。

 だが、中小企業がいきなりスキャナ保存制度を利用しようと思っても、スキャナ画像の保存や、タイムスタンプの付与をどうすればいいかなど、それなりにハードルが高い。なかなか自分たちで準備するのは難しい場合には、現在開発を進めているTKCの「証憑ストレージサービス」(仮称)をいずれ利用するのも手である。スキャナ保存制度の要件に対応したクラウド型のストレージサービスだ。取り込んだ領収書などのデータは、TKCのデータセンターにアップロード後、タイムスタンプが付与され、保存される。

 いずれにしても、いま経理を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。「ビッグデータの収集とその解析」「AIの進展による監査手法等の変化」「フィンテックの進展による仕訳の自動計上」「電子インボイスの導入」などの環境変化も踏まえて、証憑のスキャナ保存についても業務効率の向上・属人化の防止・精度の向上の観点から前向きに検討していく必要があるだろう。

※詳細については『Q&A IT環境に対応した国税関係書類のスキャナ保存制度』(仮称、TKC出版より7月発行予定)参照

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2016年7月号