全面自由化を受け、注目度の高まる電力小売り市場。電気料金の決まる仕組みと節電コンサルティングの現場についてアイ・グリッド・ソリューションズの那須智仁氏に聞いた。
──事業内容を簡単に説明していただけますか。
那須 当社では大きく分けるとエネルギー・マネジメント事業と電力小売り事業を手がけています。エネルギー・マネジメント事業のサービス「見えタロー」では、電力の見える化を通して省エネに関するコンサルティングを企業に提供しています。
一方の電力小売り事業としては4月から新たに「スマ電」というサービスを開始しました。スマ電は全国のスーパーマーケットチェーンに当店の電力販売店として加盟してもらい、一般家庭向けに電力を販売するサービスです。スーパーではポイントカードを発行している店舗がありますが、スマ電利用者向けにポイント2倍セールなどを実施して、来店頻度を高められるメリットがあります。
──最近、節電に関してどんな問い合わせがありますか。
那須 4月に全面自由化された電力小売りに関してご相談をいただくケースが増えていますね。
電気の契約種別には「高圧」と「低圧」、そして「特別高圧」の3区分があり、今回自由化されたのは低圧区分です。特別高圧は大規模の工場などを対象としているため、読者の方の多くは高圧、もしくは低圧契約を結んでいるはずです。一般的に使用規模が50キロワット以上の電力を消費する高圧区分では、2000年以降、段階的に小売りが自由化され電力会社を自由に選択できました。そこへ先ごろ低圧の小売り自由化が加わり、高圧の切り替え市場も盛り上がってきているのが現状です。低圧で利用しているユーザーとしては、一般家庭はもちろん小規模の小売店、飲食店、工場などが該当します。
──高圧と低圧の違いを教えてください。
那須 まず、料金体系が異なり、高圧の方が利用単価が低圧よりも安く設定されています。ただし、高圧にすると「キュービクル」という受電設備を設置しなければなりません。キュービクルは通常、店舗の裏側やビルの屋上に空調設備の室外機などと一緒に置いてあります。定期的な保守点検が義務づけられており、高圧契約をむすぶ際は、設置および保守点検費用を加味したうえで契約することが肝要です。
──毎月の電気料金はどのように決まるのでしょうか。
那須 携帯電話の通話料金プランと似た仕組みになっていて、基本料金と使用料金に分けられます。基本料金は電気使用量に関わらず、毎月一定額で、1年間のうち電力を最も使用した30分間を元に決められます。
30分間の使用量をデマンドと呼びますが、年間の最大デマンドをいかにおさえるかも日々の節電策と同じく重要です。なお、前述した見えタローでは目標のデマンドを上回りそうなときに警告を出す機能も付いています。
──新電力への切り替えに際し、停電リスクを懸念する人もいるのでは?
那須 新電力に変更したからといって停電が起こりやすくなったり、停電から復旧するのが遅れたりすることは一切ありません。電力会社の送電線網を使って供給されるのは事業会社を問わず共通ですから、停電するときは一定のエリアが一斉に停電します。復旧するときもまたしかりです。
消費電力多い動力系
──日ごろ行っているコンサルティング活動を具体的にお聞かせください。
那須 コンサルティングを頻繁に実施している食品スーパーを例にとると、店舗全体の電気使用量のうち、冷蔵・冷凍ケースがだいたい5割を占めます。残り半分は照明や空調などです。したがって投資コストを除外してという想定での話ですが、設備を切り替えるなら種類ごとの比率を分析し、高いものから着手することをお勧めします。
それと強調しておきたいのは、動力系の製品の方が電気を圧倒的に多く使用するということ。店舗事務所の休憩室に電源の入った電気ポットが置いてあるのをよく見かけますが、なかには1000ワットぐらい消費するものもあります。蛍光灯が1本あたり40ワットぐらいなので、実に25本分です。昼休み中など、使用するときだけ電源を入れた方が省エネにつながります。照明を間引くぐらいなら、こちらの方がより効果が上がるでしょう。
──省エネ対策を施すには電力使用量と構成を見える化する必要があると。
那須 見えタローは見える化とコンサルティングがパッケージになっているサービスで、電力使用量を測る専用端末を設置していただきます。リアルタイムで電気の使用量がわかり、インターネットのつながるパソコンやスマートフォンでも使用量の推移を確認できます。したがって、目標値に対する進捗(しんちょく)を確認して、乖離(かいり)していれば早めに手を打つことが可能です。
ただ、ダイエットにたとえるなら見える化のしくみはあくまで体重計にすぎません。やせるためには運動をしたり、食事のメニューを工夫したり具体的な対策が求められます。そのため、コンサルティング活動ではお客さまの元を訪問し、個別のアドバイスや従業員向けの研修、活動結果のレポートを提供しています。
社員の協力を得る伝え方
──具体的なレポート方法は?
那須 まず、毎朝10時に「日刊見えタロー新聞」というメールマガジンを発行しています。見えタローには店舗の取り組みを自由に書き込める欄があり、1日に数多くの件数が上がってきます。その中から他の企業でも取り入れられそうな事例を記載して情報共有を図っています。
また、食品スーパー向けには「52週エネルギーマネジメント通信」を各店舗にFAXでお送りしています。一般的にスーパーでは1年間を52週に区切りマーチャンダイジングを行っています。エネルギー・マネジメントもマーチャンダイジングにのっとって行うべきという趣旨で始めました。内容としては、その週に留意すべき活動ポイントを掲載しており、その他毎月1回、企業ごとの個別レポートも提供しています。
──企業にアドバイスする際、心がけている点を教えてください。
那須 実際に電気を使うのは従業員ですから、従業員の人が理解できる言葉で話すようにしています。さきほど電気ポットの話をしましたが「1000ワット消費しています」と話してもなかなか実感がわきませんから、例えば「あなたの心がけで100円分のコストを削減できます」と金額に換算して伝えたりしています。
食品スーパーは利益率がとても低いですから、経常利益率1%と仮定すると100円の利益を生むためには、1万円売上高をアップさせる必要があります。つまり、100円分節約できたということは、1本200円のダイコンを50本販売したのと同じぐらいの効果があるのです。
(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)