「菜時季 大原」「和食処 大ばん」など仙台市内で和食店、居酒屋を展開している大原グループ。お店では地元の食材にこだわり、職人が腕を振るった和食、会席料理を味わえる。グループを率いる板橋光則代表と渋谷公洋社長に経営指針書をベースにおいた店づくり、人材戦略を語ってもらった。

店の魅力を高めるため従業員同士が切磋琢磨

大原飲食:渋谷社長(中央)

大原飲食:渋谷社長(中央)

──お店の特徴を教えてください。

渋谷 いずれの店舗も地元宮城でとれる魚介、野菜を中心とした和食料理を提供しています。各店のコンセプトにあわせた内装も特徴で、古材を用いて田舎風の空間にしたり、随所に杯(さかずき)のデザインをあしらったり凝ったつくりになっています。おもに代表の板橋が内装設計を担当しています。

──この時期の旬の食材というと?

渋谷 これから旬を迎えるのは三陸沖でとれる海藻類や山菜ですね。海藻は炭火で焼いたり、しゃぶしゃぶにして召し上がっていただいています。海藻とホッキ貝を一緒に鍋に入れると、緑色とピンク色のコントラストが鮮やかに出て、春に移り変わる瞬間を目でも楽しんでいただけます。

──食材が新鮮だからこそできる食べ方ですね。 

渋谷 石巻市場から運ばれてくる食材を毎朝、直接買い付けています。アンコウ、トラフグからイシナギやアブラボウズといった希少な魚まで、さまざまな魚介を仕入れています。お客さまに「今朝とれたばかりの食材です」とお伝えできるのも、われわれの大きな強みかもしれません。

──メニューはどのように開発していますか。

渋谷 各店の料理長に基本的に一任していますが、毎月「献立勉強会」を開いて味付けやボリュームを見直しています。コース料理をひと通り出してもらい、幹部社員がお客さまの視点で意見を言い合うんです。料理長は職人ですから、当初は抵抗感があったようですが、回数を重ねるうちに、意見を徐々に受け入れられるようになってきました。
 また、献立勉強会の意見が反映されているかを確かめる場として料理長による食事会もはじめたところです。食事会では料理の味だけでなく、運ばれてくるタイミング、一品ごとの思いが伝えられているかなども確認しています。一番大切なのはお客さまに喜んでいただくこと。職人が技術を磨くのもそのためです。

──メーンの客層は?

渋谷 この時期だと学校の先生をはじめ公務員の方が多く、大手居酒屋チェーンに飽き足りない味へのこだわりを持っているお客さまがメーンですね。お祝いの席や歓送迎会など、特別な時に選んでいただけるお店づくりを目指しています。

──集客戦略をお聞かせください。

渋谷 リピーターの方が多く、開店間もないころから40年間ご来店いただいている方もいます。恩返しの意味を込め「感謝カード」を発行し、ポイントに応じて当店オリジナルの商品をプレゼントしたり、「賞味会」も開催しています。賞味会のご案内は300名をこえる方々にお送りしていますが、毎回8割以上の方に参加していただいている好評のイベントで、コース料理を割安な価格で召し上がっていただいています。

詳細な財務データが経営判断のベースに

──青木&パートナーズとの関与のいきさつを教えてください。

板橋 20年ほど前になりますが経営について学びたいと思い、中小企業家同友会の経営指針を作成する勉強会に出席するようになり、税理士の青木正先生と知り合いました。青木先生といろいろお話をするうちに税務申告だけでなく、経営全般のアドバイスをしていただけると感じて顧問契約を結びました。その後まもなく『FX2』を導入し、今では『PX2』と『SX2』も活用しています。青木会計さんから提案いただいたことはなるべく素直に聞いているつもりです(笑)。

──『FX2』では店舗別に業績管理しているのでしょうか。

志村 大原グループ傘下の8店をそれぞれ部門に分けて入力をしています。売り上げや変動費に加えて販売管理費などの固定費も店舗ごとに按分(あんぶん)しています。

青木宏之(ひろし)税理士 毎月中旬に巡回監査のためおうかがいしていますが、志村さんにタイムリーかつ正確に仕訳を入力していただいているので、修正事項はほとんどありません。

──翌月初旬には前月の実績値が確定していると。

板橋 5日ごろまでには前月の売り上げなどを把握できていますね。というのも、毎月上旬に社長と2人で店舗をまわる役員巡回を行っていて、『FX2』から出力した帳表をもとに話し合いをしているためです。店長だけでなく主任以上の社員にも出席してもらい、閉店後の24時すぎから1時間ぐらいをかけて前月の反省点や打ち手を討議しています。

──どんな帳表を活用しているのでしょうか。

板橋 《部門別変動損益計算書》で各店の売上高、限界利益を確認し、月間目標をクリアできているかチェックしています。変動損益計算書から売上高、変動費、限界利益、固定費、経常利益の各項目の金額を抽出し、店舗スタッフにもひと目でわかるようにオリジナルの表も作成しています。

──社員に経営数値をオープンにしているわけですね。

板橋 一般社員はまずはスキルを高めるなど自身を磨き、主任になるとお店単位で物ごとを考え、店長は会社レベルで考えられるよう意識づけをしています。お客さまに喜んでいただくことが第一で、経営数値はその結果出てきた診断書のようなもの。経営指針書に記した行動計画をしっかり実践できていれば、おのずと目標はクリアできるはずです。

──年始に経営指針発表会を開催されたと聞きました。

板橋 1月4日に仙台市内のホテルで開きました。ことしは「感動創造経営」をテーマに掲げ、各店の店長にお客さまに感動を与えるための取り組みについて計画を発表してもらいました。経営指針書の最後には個人の目標を記入するページがあり、全社員が目標を明確にして成長を実感できるようにしています。

青木 全社の目標が店舗、従業員にまで一気通貫で落とし込まれているのは特筆すべき点です。

PX法定調書作成システムで支払先のマイナンバー管理も

──巷間(こうかん)、飲食店はアルバイトがなかなか集まらないと言われています。

渋谷 当店で働いているアルバイトは辞めるタイミングで友人を紹介してくれるという流れができているので、求人募集を掲載するなどお金をかけて採用活動を行ったことはほとんどありません。アルバイトをやめた後もお店に顔を出してくれたり、年賀状をやり取りしていたりつきあいが続いている人も多いんですよ。昨日もアルバイトが友人を紹介してくれて一緒に食事に行きました。ことしは新たな試みとして、東北6県の高校生をインターンシップとして受け入れ、働いてもらう計画もあります。

──アルバイトの評価はどのように実施していますか。

板橋 グループ全体で150人ほどが働いていますが、モチベーションを高めるために年に3回(1、5、9月)私と面談し時給額を見直しています。また、毎月1回、店長と話し合う機会も設け、経営指針書に基づく行動を実践できているか確認しています。

──従業員のマイナンバーの管理に『PXまいポータル』を利用されていると聞きました。

志村 個人番号が届いた従業員は順次、『PXまいポータル』の扶養控除等申告書のウェブ入力機能を使って個人番号の記載された扶養控除等申告書データを入力してもらっています。自宅などからパソコンやスマートフォンを使ってデータ入力できるので、個人番号通知カードをわざわざ会社に持参する必要がないのは便利ですね。 

青木 先日『PX法定調書作成システム』も導入していただきました。システムに入力した法定調書の「支払いを受ける者」の個人番号もTKCデータセンター(TISC)に保管できる点を評価いただいています。

──抱負をお聞かせください。

渋谷 3月にJR仙台駅ビルに新たな大型商業施設がオープンします。飲食店も出店し競争が一段と激しくなるので、もう一度足を運びたいと感じてもらえる感動を提供できるお店づくりに取り組んでいきたいです。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 大原飲食
創業 1971年
所在地 宮城県仙台市青葉区花京院1-4-25
シティタワー仙台207
社員数 約180名(パート含む)
売上高 7億1,000万円(グループ計)
URL http://www.syokuyuraku.com
顧問税理士 青木 正
税理士法人 青木&パートナーズ
宮城県仙台市宮城野区榴岡4-5-22
宮城野センタービル6F
TEL:022-291-4318
URL:http://www.aoki-p.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年3月号