大手総合スーパーの攻勢をはねのけ住民の高い支持を獲得している中小スーパーが存在する。生産者との積極的な協業や移動スーパーの取り組み、家庭的な接客サービス──地域に愛され続ける中小スーパーの強さの秘訣を探った

 スーパーマーケットの二極化が言われて久しい。大手総合スーパーやディスカウントストア、ドラッグストア入り乱れての安売り戦争が繰り広げられている市場に参入する企業と、目利き力を生かして全国から高品質の商品をセレクトして提供する店舗づくりで顧客の支持を集めようとする会社の2通りである。地域密着型の中小地場スーパーが選択すべきなのは、言うまでもなく後者のほうだろう。千葉県柏市、流山市、我孫子市で8店舗を展開する京北スーパーの下西琢也社長はいう。

「安いから売れるということは、お客さまがそのスーパーを選んでいるのではなく価格だけを見て判断しているということ。つまりそれでは固定的なファンをつくりだすことにはつながりません。われわれは何より固定客を作り出すことを優先し、お客さまに『本当においしい』『ここにしか売っていないからまた来たい』と思っていだけるような店を目指しています」

 リピーターを獲得しようとするのであれば、ターゲットを明確にしなければならない。同社は戦略的に60歳以上のシニア層にねらいを定めた。子育てが終わり夫婦2人の生活に入った家庭では、健康に配慮したり価格よりも味を重視したりする傾向が強まるからだ。したがって同社では、「甘すぎず、なおかつしょっぱすぎず」「添加物は極力控える」「だし感のあるもの」などのポイントに常に気を配りながら商品の仕入れやプライベートブランド(PB)商品の開発を行っている。

精肉はすべて国内ブランド品

 品ぞろえに対するこだわりは、売り場の商品構成比率に如実にあらわれている。目利きのバイヤーや各部門のスタッフが吟味に吟味を重ねて選んだ全国の逸品が6割、その中から特に感触の良いものを自社ブランド化したPB商品が2割で、ナショナルブランド商品はなんと2割しか陳列されていない。低価格商品を多く販売するスタイルではないため売り場面積は各店舗150~180坪とコンパクトで、鮮魚・精肉・青果の生鮮三品にはとりわけ力を入れている。

「売り場面積全体の56%を生鮮三品が占めていますが、これは業界平均の38%を大きく上回っています。当社のファンはスローフードが好きで自ら調理される方が多く、生鮮品と合わせて調味料などもお買い求めいただけるので、必然的に客単価が高くなっているのも特徴ですね」(下西社長)

 1点単価は業界平均の3倍、客単価は同2倍超の3000円を上回る水準というからすごい。鮮魚コーナーは毎日市場で買い付けその日のうちに売り切る努力を愚直に続け、おいしさを保つための緻密な鮮度管理を徹底。精肉はすべて国産ブランド牛・豚・鶏というこだわりようだ。青果についても顔の見える生産者や柏市近隣農家からの商品を多くそろえることで顧客の安心感につなげている。

 生鮮三品での強みに加え、商品開発力にも定評がある。下西社長自ら全国各地を飛び回り、高品質で売れる商材探しに奔走。日帰りから長期まで含め出張回数は年間40回にも及ぶという。

「地域で勝ち続けるためには、やはり何より商品力が重要だと思っています。そのため当社では積極的に全国の生産者とコミュニケーションをとり、味付けや容量、エチケット(商品デザイン)をこちらから提案するなど商品開発の段階からおつきあいするようにしています。生産者の方には消費者の生の感想を聞いてもらうために試食販売の機会も設けています。地方には、磨けばダイヤモンドになるような宝物がまだまだたくさん眠っていますからね」

 直近では熊本県の地鶏「天草大王」、「こだわりの金華さばの味噌(みそ)煮・水煮缶詰」(宮城県)、「放し飼いで育てられた昔たまご」(岩手県)などいずれも決して安くはない商品が好調な売れ行きを見せた。下西社長によれば、人口減少にともない市場が縮小している地方の生産者にとって今後大切になるのは、都区部での販路をいかに開拓するかという「地産外商」の考え方だという。そこで重要な役割を果たすのが、良い商材を持っているにもかかわらず販路がなくて困っている生産者と、安全安心かつおいしければ少々値が張っても購入する消費者とを結びつける食品スーパーである。下西社長はこの立ち位置を「お手伝い」と表現する。

「お客さま目線で味とそれに見合った売価、適正な量を生産者と当社が話し合いながら最終的にその価値を消費者に伝えるという感覚ですね。成功して売り上げが増えた生産者の方は本当に喜ばれます。当社なりの地方活性化に対する貢献だともいえます」

 こうした取り組みが評価され、地方自治体や地銀などから地元の生産者を売り込みにくるケースも増えているという。

「安くない」PB商品も大人気

「KEIHOKU」のロゴデザインと、紺とベージュのツートンカラーで統一されたPB商品のコンセプトもこの思想の延長線上にある。低価格で勝負する大手とは正反対の手法だ。

「PBというと安いというイメージがありますが、当社では『しっかりとおすすめできるオリジナルの商品』という意味。一つの商品を販売するまで半年くらいかけてじっくりと作り込みをします。商品デザインも小さな文字をこまごまと入れないなどシニア層に配慮しています」(下西社長)

 例えば柏市の農家が生産しているサンマルツァーノというブランドトマトを高知県の工場で製造した化学調味料不使用のトマトケチャップとトマトソースは大人気となった。沖縄県の本部牛からとれるすね肉を使った「本部牛カレー」もヒット商品に。入念な準備でコツコツ企画してきたこれらのPB商品数は現在280に達している。

 1951年に創業し地域密着スーパーとして常に「おいしくて健康に良いもの」を住民に提供し続けてきた同社。1984年、健康に対する悪影響が明らかになりつつあったタバコについて販売免許を返上して全面的に取り扱いを禁止することを公表し話題を集めた。数千万円の売り上げを犠牲にした上、わざわざ新聞広告まで打って消費者にその害を訴えたという逸話は近隣住民の記憶に深く刻み込まれている。最近では「地域一番の接客」(下西社長)を目指し専門講師による研修や接客コンテストなどの取り組みも開始、技術向上やノウハウの伝承に向け正社員比率の計画的な引き上げも実施中だ。

 顧客に向き合う真摯(しんし)な姿勢は、今後も連綿と受け継がれていくにちがいない。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社京北スーパー
創業 1951年12月
所在地 千葉県柏市柏1-4-3
売上高 57億円
URL http://www.keihokusuper.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2016年3月号