広島県の最南端、呉市倉橋島で鋳造業を営む黒野金属。金型設計から販売まで手がける一貫生産を強みに高いシェアを獲得してきた。2012年に社長に就任した4代目の黒野直哉社長と石野弘美総務部部長、荒瀬税理士事務所の荒瀬秀俊所長、森脇美智代監査部部長に話を聞いた。

金型製造からの一貫生産で水道メーターを全国に納入

黒野金属:黒野社長(前列左)

黒野金属:黒野社長(前列左)

──業務内容をご説明ください。

黒野 メーン製品は創業当初から手がけてきた水道メーターで、売上高の約7割を占めています。住宅着工件数の減少などマイナス要因はあるものの、計量法で水道メーターは8年で交換することが定められているため、安定的な需要があります。直接のお客さまは水道メーターボックスのメーカーになりますが、その後は全国のご家庭や工業施設、各自治体の水道局などに納められています。13~100ミリまで幅広い口径の製品に対応できる生産体制を整えています。そのほかディーゼルエンジン部品や冷却ポンプ部品など船舶部品、給水管や止水栓、分水栓などの合金製品も提供しています。

──強みはなんでしょう。

黒野 一番大きな特徴は、金型の設計から鋳造、機械加工、組み立て、検査まで一貫生産体制を整えていることでしょう。鋳物製品が最初から計算通りいくことはまずありません。金型製作、鋳造、機械加工の各工程で微調整や修正が常に繰り返され、時には鋳造方法の大幅な見直しが発生することもあります。一般的には各工程それぞれの専門業者が再度やり直しをすることになりますが、それではプロジェクト全体の無駄が大きく増えることになってしまいます。一方、一貫生産が可能な当社では自社内ですぐに工程の見直しができるので、無駄なコストや時間をかけずに製品を完成させることができます。お客さまにも、試作品から量産品までのタイムラグが短いなどのメリットを感じてもらっていると思います。

荒瀬 なんといっても黒野社長がお若いことが会社にとっては大きいと思います。親族の方々ともよく話し合われるなどコミュニケーション能力に長(た)けており、なおかつ決断力にも優れています。本人は長く営業を担当されていただけに外回りをしたくてうずうずしていらっしゃると思いますが(笑)。

──環境対応にも特徴があるとお聞きしています。

黒野 2003年4月に鉛侵出基準が強化されたのにともない、当社でも鉛フリー材料に対応するようになりました。鉛フリー材料には大きく分けて「エコブラス」とビスマス系の2つがありますが、当社は業界でもまだ数社しか手がけていないエコブラスをメーンとしています。取り扱っている材料の幅も広く、その数の多さにかけてはちょっと他社ではまねできないのではないでしょうか。

──外国人スタッフを積極的に採用されているとか。

黒野 一昨年からベトナムからの研修生を年間3名ずつ受け入れています。現地で私が直接面談していますが、みな親日家で真面目に一生懸命働いてくれるので本当に頼りにしています。今年からは正式に従業員として勤務するベトナム人も2名誕生しました。

荒瀬 創業者の黒野明良会長が「利益は全部賞与で従業員に還元したい」と考えていた方で、その考えを社長も受け継がれています。そのため黒野金属ではどんなに厳しい時期でも賞与を出さなかったことはありません。これは本当にすごいことです。このような経営者の姿勢が従業員にも伝わり、優秀なスタッフが長く同社で活躍し続けられるのだと思います。

年末調整の作業負担軽減で還付金支払いが1カ月前倒し

──荒瀬先生が関与されたきっかけについて教えてください。

荒瀬 地元のロータリークラブで顔見知りだった黒野明良会長から、当時契約されていた税理士の方が廃業され新しい税理士を探しているとお聞きしたのがきっかけでした。平成8年に顧問契約を結び、平成16年に『FX2』、平成24年に『PX2』を導入していただいています。すでに他のシステムを完璧に構築されていたところからの導入だったので、少しずつTKCシステムに変えてもらいました。

──『PX2』導入の理由は?

石野 アマノの就業パッケージシステム「タイムプロ」を利用していたため、同社の給与管理システムを使っていました。しかし『FX2』導入後数年が経過し、仕訳連携などで給与計算と会計システムの連動性をより高め、なおかつ年末調整の作業負担を軽減するため『PX2』の導入を決めました。現在は「タイムプロ」で使用しているタイムカードレコーダーからデータを取り込んで『PX2』で給与計算を行っています。

──効果はいかがでしょう。

石野 従業員の個人データをいったん入力しておけば、介護保険の保険料支払い開始時期を正確にはじきだしてくれるのでとても助かります。これまでは「この人が40歳になるのはいつかな」と常に気にする必要があり、計算をし忘れることもありましたから。同じように年末調整時にも特定扶養親族や老人扶養親族を自動判定する機能が事務処理の軽減に貢献しており、家族の年齢をすべてチェックしていた以前からすればとても楽になりました。従業員から提出された書類を入力したらすぐにデータが反映されるので、年末調整の処理は大幅にスピードアップしています。還付金はそれまで1月に支払っていましたが、『PX2』導入後は12月の給与と同時に行うことができるようになりました。

──「電子納税かんたんキット」や年次有給休暇の付与機能もご活用されているとか。

石野 電子納税の機能はとても助かっています。社員数が10人前後ならともかく、当社のように50人を超えるような規模になるととてもメリットがありますね。また最近になって森脇部長からの紹介もあり有休付与機能を使い始めましたが、これも便利です。ひとりひとり入社した月がバラバラで計算が面倒だったのですが、気にする必要がなくなりますからね。とにかく給与計算はチェックする項目がとても多く、実務者としてはかなりの負担を感じていましたが、それが大きく軽減されました。それとTKCシステムにはアラーム機能が充実しているので、警告の内容とおりにしていればよい、という安心感もあります。

──月次監査の流れについて教えてください。

森脇美智代監査部部長 入力はほぼすべて終わっているので、それを最終的に私がチェックし、社長専用ボタンを使って画面を見ながら説明させていただいています。売り上げの推移と今後の見通しはもちろんのこと、経費の水準についても確認しています。利益率の目標を設定してそれに達しているか毎月正確にチェックするため、以前は1年に1回だった棚卸しを月1回に変更していただきました。

荒瀬 石野部長が非常にしっかりされているので、新しいシステムも非常にうまく利用されています。いろんなご提案をすべて前向きに検討してもらえるので会計事務所としてはとてもやりがいがありますね。マイナンバー対策の重要性がいよいよ高まるなか、先日は「PXまいポータル」のシステムについてご提案させていただいたところです。

新規設備投資盛り込んだ経営改善計画策定へ

──経営改善計画策定支援事業にもチャレンジされているとか。

森脇 以前この仕組みはリスケなど「後ろ向き」な金融支援に内容が限定されていましたが、運用が変わり設備投資など前向きなものにも使えるようになったことからご提案したところ、「やってみよう」ということになりました。10月に申請を行い、11月には幹部の方々が出席のうえ第1回の検討会議を開催しました。これから計画の具体的な中身について全社的に議論を重ねていく予定です。

黒野 当社の一番の経営課題は不良率が高いことです。これは材料が以前と大きく変わった鉛フリー製品の取り扱いを拡大した後に特に目立ち始めました。これを克服しない限りは安定した利益を出すことができません。そのため経営改善計画のなかでは、最新の機械を導入するなど老朽化した設備を更新することで不良率をなんとか低減させたいと考えています。

──今後の目標は?

黒野 3部門のうちもっとも利益率の低い主力の水道メーター事業で利益率を高めるのが最重要課題ですね。そのためには設備投資が欠かせず、経営改善計画をぜひ成功につなげたいと考えています。その後に水道メーターボックスメーカーが内製化している水道メーター製造を当社が手がけられるようになれば、目標としているトップシェア実現が見えてくると思います。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社黒野金属
創業 1962年9月
所在地 広島県呉市倉橋町字西脇3680-5
売上高 約10億円
社員数 57名
URL http://www.kuronokinzoku.co.jp/
顧問税理士 顧問税理士 荒瀬秀俊
荒瀬税理士事務所 広島県呉市中央1丁目6番9号
センタービル呉駅前5F
TEL:0823-25-7150
URL:http://www.tkcnf.com/arase/

掲載:『戦略経営者』2016年2月号