大隅半島に位置する鹿児島県大崎町。同地で温泉、宿泊、物産館施設が一体となった道の駅を管理運営するあすぱる大崎が給与事務で活用しているのが、アマノ社の勤怠管理システム『タイムパック』とTKCの『PX2』だ。山下洋支配人と顧問税理士の中倉和人氏に、実務上の効果などについて聞いた。

年3万人の訪問客誇る温泉併設の道の駅

あすぱる大崎:山下支配人(前列)

あすぱる大崎:山下支配人(前列)

──道の駅くにの松原おおさき(あすぱる大崎)の概要について教えてください。

山下 当施設は1998年に大崎町が整備し、その後地元企業のジャパンファームとJAそお鹿児島が出資した第三セクターとして当社が運営しています。温泉と宿泊と売店、レストランが営業の柱になっており、施設名には、「未来(あす)へむかう大崎町で温泉浴(スパ)を楽しみながら、交流(パル)を深めてほしい」との願いと「大崎町を明日(あす)へ引っ張る(ぱる)」という意味が込められています。地域住民を中心に年間3万人ほどのお客さまに足を運んでいただいています。

──入り口のカブトムシのモニュメントが目立ちますね。

山下 ここ大崎町は、毎年7月に近隣の大崎町総合体育館で「カブト虫相撲大会」が開催されることで有名です。県内から500名以上の子どもたちが集まり非常に盛り上がる大会ですが、これにちなんで金属製の大小2体のカブトムシが製作されました。あすぱる大崎といえばカブトムシ像をイメージされる方も多く、地域住民に親しまれています。

──それぞれの部門の特徴について教えてください。

山下 当施設の最大の特徴は、温泉と宿泊施設が併設されていることです。全国でもこの2つを兼ね備えている道の駅は珍しいのではないでしょうか。また売店は基本的に地元農家の直売所として位置づけており、出荷組合との交渉で半分以上は委託販売の形式で販売しています。メーンの目的は温泉で、そのついでに買い物やレストランでの食事を楽しんでいただくというパターンが多いですね。

──温泉の人気が高いようですね。

山下 はい。客層はおよそ8割が地元の方なのですが、みなさん自分の家のお風呂のような感覚で来ていただいています。しかしこの部門は湯を温めるためのエネルギーコストが大きく収益的には非常に厳しい。一度実験的に営業時間を短縮したことがありましたが、たちまちレストランや売店の売り上げががた落ちしました。時間を元に戻したところすぐに客足が戻り、あらためてその高い集客効果を実感しました。

──宿泊施設があるのも特徴です。

山下 全11室と数は少ないですが、大学生のクラブ活動などで合宿所として利用していただくことが多いです。近隣の徒歩圏内には大崎町総合体育館や芝生でトレーニングができる大崎ふれあい公園がありますし、隣接する志布志市の野球場などへは当社が送迎バスをお出ししています。とくに大崎町総合体育館はフットサルの練習が可能な体育館として全国のフットサルクラブからの注目が高まりつつあります。ランニングに適した松並木や砂浜もありスポーツにはとても良い環境で、合宿地としてのポテンシャルは高いと考えています。

中倉 今年で廃校になった県立有明高校の跡地に、陸上競技場が整備されることが決定しています。完成すればますます合宿地としての魅力が高まることから、行政とタイアップした新たな合宿所の整備も検討していただいています。

勤怠管理システム刷新で毎日の集計作業が月1回に

──TKCシステムを導入された経緯についてお聞かせください。

山下 実はこの施設は、飲食業を展開している鹿児島市内のある企業にほぼすべての業務を委託していました。しかし同社が昨年12月に撤退。その後はあすぱる大崎本体が直接運営する体制になりました。私は撤退が決まったわずか7カ月前の5月に委託先企業の社員としてこの施設に赴任したばかりでしたが、会社を辞めて支配人として残ることにしたのです。

中倉 支配人はまだ若くて芯が強く、柔道経験者ということで体力もあります。私はこの施設がはじまった当初からあすぱる大崎の顧問税理士を務めていましたが、外部委託から本社運営へと大きく事業内容が変化するなかで支配人を引き受けた山下さんのチャレンジ精神は相当なもの。その気持ちに応えられるよう全面的なバックアップを可能にするため、『FX2』や『PX2』などTKCシステムの導入をご提案しました。

山下 以前は経理事務に必要な書類やデータをすべて本社に送って一括処理するやり方でしたが、現在の運営体制ではすべて自分たちでやらなければなりません。システムも一新する必要がありました。

──勤務時間管理と給与計算を連動させる仕組みにしたのもそのときですね。

山下 はい。以前は従業員が勤怠時間を入力する専用の端末で出退社の時間を打刻していましたが、労働時間の管理もその仕組みを一から作り直さなければなりませんでした。そこでタイムレコーダーのデータを『PX2』に取り込み、そのまま『FX2』で仕訳ができる仕組みはないかと中倉先生にご相談したところ、紹介されたのがアマノ社の『タイムパック』というわけです。現在では、タイムパックのデータをはき出してそれを『PX2』にいったん取り込み、社会保険労務士に確認してもらいながら残業時間の取り扱いで必要があればそれを修正するような形で活用しています。以前のシステムでは各従業員の勤務実績を1日ごとにまとめ、送信する前に必ず間違いがないかチェックしてから本部に送っていましたが、今ではそれが月に1度になったので、業務の流れは大きく変わりましたね。

──温泉、宿泊、売店、レストランの4部門で部門管理されているとか。

山下 以前も部門別管理はしていたのですが、それぞれの部門に1台ずつ端末を置き、そこを通じて本部に実績数値を送信するというやり方でした。まるで1つの会社の中に別々の店舗が4つあるような感覚です。これに対しTKCシステムの部門別管理は4部門を一元管理できるので非常に分かりやすい。しかしなんといっても便利なのは、エクセルなどのスプレッドシートにデータを切り出すことができること。天気による売上高の変化をまとめたりするときに以前はすべて手入力で転記する必要がありましたが、シートさえつくればデータをはき出すことで簡単に知りたい表を作成することができます。

──サポート体制についてはいかがでしょう。

山下 必ず毎月監査に来てくれるのは心強いですね。また分からないことがあれば何でも電話で聞いてしまうのですが、丁寧に答えてくれるのも助かります。あとは愚痴をいっぱい聞いてくれることですかね(笑)。

──集客増に向けて取り組んでいることはありますか。

山下 大崎町が東京からシェフを招(しようへい)聘(しようへい)して地域の食材を使った新たなメニューを開発する事業を展開しています。当社でもその事業を活用し、より若い層にレストランに足を運んでもらえるようなメニュー開発を進めています。また売店部門は出荷者との取り決めを見直し、販売実績に応じて出荷者の入れ替えを促すような仕組みにして利益率を高めたいですね。合宿向けの営業を強化したり、落語の公演やお祭りの開催など館内イベントの数も増やしていく計画です。

──今後の抱負についてお聞かせください。

山下 建設後かなりの年が経過してきたので、ところどころ改修が必要な設備が出てきています。施設を保有しているのは大崎町なので、予算で手当てすることも考えられますが、町も財政が厳しい状況。当社でしっかり利益をあげ、必要な改修を適切に行えるようになるのが理想ですね。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 あすぱる大崎
設立 1998年3月
所在地 鹿児島県曽於郡大崎町神領2419
社員数 42名(パート含む)
URL http://www.asuparu.jp/

CONSULTANT´S EYE
詳細かつ多面的な分析資料を提供し全力サポート
中倉税理士事務所 監査担当 栫(かこい)伸一
鹿児島県鹿屋市串良町有里107-1
TEL:0994-31-4005
http://nakakura.tkcnf.com/

 あすぱる大崎様とは、平成18年から関与担当させていただいております。

 当初は業務委託方式での経営をしており、他社の会計システムで管理、営業されていました。

 今回、直接経営に移行するにあたり、一から経理システムを構築する必要がありました。部門別管理体制と宿泊システム等との連携、人事情報や勤務時間管理等のシステム構築をするため、『FX2』『PX2』を導入することになりました。試行錯誤の連続ですが、山下支配人を始め経理担当者の協力もあり、導入から1年を迎え現在に至ります。

 従業員数(パートを含む)が多く、労務管理が煩雑になり時間を浪費する可能性がありましたが、タイムレコーダーで従業員の労働時間を管理し、『PX2』では給料計算はもちろん、社会保険の算定基礎届等の手続きや、労働保険の申告資料の出力等ができるようになりました。労務管理が容易になり、業務の効率化が図れています。

 巡回監査では、毎月訪問し、部門別の経営状況管理をはじめ、支配人が見たいと考えている数字の提示に努めています。部門間取引を含めた、より綿密な分析ができる部門別管理を構築するために改善点がないか常に模索し、さらなる財務管理体制の向上を目指しています。

 当施設は、第三セクターとしての役目を担っているため、大崎町をはじめとした地域住民からの期待に応えなければなりません。また顧客層が地域別年代別に幅広く、それに合わせた多様なサービスも求められます。顧客側からみると、内部構造が変わっても、事業形態は変わっていないため、さらなる改善が求められるのです。また、今後の施設改修の計画もあり、資金繰りや改修後の業績への影響等など、多面的に分析し、支配人の判断に資することができればと考えています。重責を引き受けられた支配人の期待に応えられるように、あすぱる大崎様の成長に貢献できることを喜びに感じ、全力でサポートさせていただきたいと思います。

掲載:『戦略経営者』2015年11月号