──中小企業の経営改善支援に積極的に取り組みはじめておられるようですね。

堀野 80年近い歴史のなかで、信用保証協会は公的保証人として金融機関と中小企業を結びつける架け橋の役割を果たしてきました。その際、我々は「期中管理」という言葉をずっと使ってきましたが、あくまで「管理」なので受け身の姿勢という面がありました。たとえば、事故報告があり金融機関から代位弁済の要請が来た際に、信用保証協会は条件変更(リスケ)か、あるいは金融機関に対して再度の支援要請等で終わってしまっており、やることが限られていたわけです。そこで我々は、「期中管理」から「期中支援」へと舵を切ることにしました。つまり、より経営に踏み込んだ形で早め早めにお手伝いをしていく体制づくり。これを約10年前から志向してさまざまな施策を打ってきました。ちなみに現在、全国51協会のうち殆どの信用保証協会が期中支援を専門部署で行っています。

──リーマンショックによる保証債務と代位弁済の増加もその傾向に拍車をかけたのでは……。

堀野 金融円滑化法の施行もあって、保証付き融資の条件変更を行う先も急増しましたからね。しかし、いくらリスケで先延ばしをしても、企業の体質が変わらなければいずれデフォルトしてしまう。だったら、その体質を変えるべく、我々も能動的に経営改善のお手伝いをしていく努力が必要だと考え、近年、一歩踏み込んだ施策を実践するようになりました。

経営支援における協会の役割

──「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業(※)」についても、実践的な施策を打ち出す信用保証協会さんも増えてきました。

堀野 この制度で経営改善計画策定にかかった費用の3分の2は補助金でまかなえますが、残りの3分の1は事業者負担になります。ここが意外とネックで、多くの中小企業経営者は机上で計画を立てるよりも、営業で1件でも多く受注をとることを優先しがちです。そこで、全国の信用保証協会の約8割では、この3分の1の部分の一部を補助する制度を実施し、経営改善計画の策定を支援しています。各保証協会によって、制度の内容は異なりますが、われわれの活動は結局はオーダーメードなんです。地域ごとに経済力も産業構造も金融事情も違う。しかし、「経営改善を積極的に支援する」という信用保証協会全体の方向性はまったく変わりません。

――経営改善計画策定支援事業の進捗状況についてどう見ておられますか。

堀野 確かに当初の動きは鈍かったようですが、最近は認知度も高まってきて、このまま成功事例が順調に増えてくれば、経営改善のひとつのツールとして定着してくと思っています。とくに認定支援機関の大部分を占める税理士先生は、我々のアンケートでも経営者にもっとも近い存在、相談相手だと結果が出ています。特にTKCの先生方には経営ノウハウにも精通されている方が多い。その意味でも、もっともっと中小企業の経営改善に関わって活用事例を増やして欲しいですね。

──それには信用保証協会さんの保証の可否が鍵になるという見方もあります。

堀野 保証付融資が経営改善計画に織り込まれている計画であれば、保証の可否は鍵となると思います。しかし、個々の案件によって中小企業の実態は違うわけですから、いずれにしても、実情に応じた経営改善計画を策定・支援していくことが大切だと思っています。

──中小企業支援という意味では、最近は関連行政・業界のなかでリーダーシップを発揮されている印象もあります。

堀野 信用保証協会の職員は全国に約6000名おりますが、期中支援に携わる職員は限られており、マンパワー的に十分ではありません。外部機関の支援をいただきながら、それぞれのプレーヤーが特徴を生かしながら総合的にやっていく必要があります。とはいえ、ばらばらに動いては効果が半減します。そのために、「中小企業支援ネットワーク」であり「経営サポート会議」といった仕組みがつくられたのです。
 金融機関に支援を促す場合にも、ご承知の通り、複数の取引金融機関の意見が異なるケースも多い。また、税理士・中小企業診断士等の専門家もそれぞれ専門分野が異なる。行政にもそれなりの立場があるでしょう。そうした中で調整役を任されたのが信用保証協会です。それぞれの支援機関の得意分野を一体化できるよう「目線合わせ」を行う……これが我々の重要な役割であり、その目線合わせを行うために構築されたのが「中小企業支援ネットワーク」であり、さらにその目線のもとに個別の案件を扱うのが「経営サポート会議」なのです。

「経営者の強い意志」が必須

──経営サポート会議とは?

堀野 我々が事務局として音頭をとりながら、バンクミーティングを開催する等によって、中小企業が策定した経営改善計画について説明し、金融機関等の合意をとりつけることが出来るよう意見交換等を行う場です。ここでも経営改善計画策定支援事業の施策ツールの活用は可能で、合意成立した場合、中小企業は、必要に応じて既存枠とは別の保証枠(経営改善サポート保証)を利用できるようになります。

──中小企業の経営改善への環境作りは次第に整ってきました。にもかかわらず、企業数は減少の一途です。なぜでしょう。

堀野 経営改善に欠かせないのは今も昔も「経営者の強い意志」です。会社をどうしたいのかのビジョンを明確に持ち、主体的に動ける経営者であれば、現在の財務状況がどうであれ十分に見込みがある。そのような経営者の主体性を尊重しながら、われわれはあくまで「伴走者」として支援・助言していく姿勢が支援する側には必要でしょう。それから、企業減少の大きな原因には、経営に将来的な夢を描けなくなったという現状もあるのではないでしょうか。その理由のひとつが環境の厳しさです。高度成長時代のような売れば儲かる時代は過ぎ去りました。その意味でも、これからの中小企業は用意された支援ツールをフル活用し、各界の専門家の力を借りながら経営ノウハウを蓄積し、次なる困難に向けて戦闘能力を高めていく必要があるのです。

※中小企業・小規模事業者が、金融機関からの金融支援を受けるために金融機関が必要とする経営改善計画を、中小企業経営力強化支援法に基づき認定された経営革新等支援機関(認定支援機関)に策定支援を依頼し、その費用の一部を国が負担することにより、中小企業・小規模事業者の経営改善を促進するもの。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2015年8月号