国の「経営改善計画策定支援事業」で中心的な役割を果たしているのが認定支援機関である税理士だ。経営難に苦しむ中小企業は、身近にいる税理士を会社復活のためのパートナーとして積極的に活用してみてはいかがだろうか。
──景気が回復基調にあるとはいえ、経営難に苦しんでいる中小企業はまだまだ多いといえます。そうした企業が元気を取り戻すためには何が必要でしょうか。
佐藤正行 氏
佐藤 少子化(人口減少)などで、日本はもう拡大経済は望めなくなっています。ハコさえ用意すれば黙っていても仕事が来るという前提はなくなりました。今まで通りの仕事をしているだけでは利益は出せなくなっているわけです。このことを理解したうえで、きちんと「経営をすること」が今まさに中小企業経営者に求められていることではないでしょうか。
誤解してほしくないのは、見積もりを出して仕事を受注し、商品を納めてお金を回収するのが経営ではないことです。社長にとっての経営とは、要するに注文をもらうところまで。社長はそこに注力していくべきです。だから社長がずっと会社の中にいて、生産や納品などの現場作業に携わっているだけではダメ。会社の外に出て仕事を取ってこなければならないのです。
また、資金繰りに窮している社長も、ちゃんと経営ができるとは思えません。支払いができないとか、月々のキャッシュフローが足りないとか、経営をすることをそっちのけで資金繰りが仕事になっているようでは、経営者が会社にいないのと同じなのです。その状況から抜け出すために必要となるのが、まさに「金融支援」です。つまり、返済条件の見直し(リスケ)や新規融資などの支援を金融機関から受けるのです。
──金融支援を引き出すためにはどうすればよいのでしょうか。税理士を活用することが一つの筋道になる?
佐藤 中小企業金融円滑化法(2009年12月施行)ができる前は、キャッシュフロー(会社の実情)にあわせて返済計画を作り直してくださいと金融機関にお願いしても、ほとんど断られていました。しかし今は違います。金融円滑化法や中小企業経営力強化支援法(12年8月施行)ができた辺りから、キャッシュフローにあわせて返済計画を作り直しましょうという考え方が金融機関の間にだいぶ浸透してきています。そうした金融支援をお願いする際に必要となるのが、①社長が経営をしていること②透明性のある会計がなされていること③実現可能性が高い経営改善計画の3つです。この3つに関して、しっかりお手伝いできるのが顧問税理士といえます。
とくに認定支援機関として認められた税理士の場合、「経営改善計画策定支援事業」という国の制度を利用して、経営改善計画作りのサポートができます。中小企業はこの制度を利用すると、経営改善計画の策定などに要する費用のうち3分の2(上限は200万円)を国が補助してくれます。
──税理士が経営改善計画を作ることを金融機関も望んでいるそうですね。
佐藤 いま銀行は、きちんとした経営改善計画をほしがっています。というのは、信用保証協会の保証付き融資を使って金融支援をするためには、それがどうしても必要だからです。きちんとした計画とは要するに、経営改善支援センター(中小企業再生支援協議会)のお墨付きをもらった計画のことです。それがないと、信用保証協会に「信用保証を付けてもいいですよ」と言ってもらえない。だからこそ、きちんとした計画を作れる税理士を銀行側もあてにしているのです。
金融機関交渉も支援
──経営改善計画はどんな手順で作られるのでしょうか。
佐藤 どの税理士もできるかどうかはともかく、金融機関が求めるレベルのものを作ろうとしたら、財務デューデリジェンス(財務DD)および事業デューデリジェンス(事業DD)の実施がまず必要となります。
財務DDとは平たく言うと、財務アプローチから見た問題点の把握のこと。たとえば黒字の同業者と比べて、「利益率が低い」とか「従業員一人あたりの生産性が低い」といった現状分析をします。このとき、TKC経営指標『BAST』が有効なツールになります。
つぎに事業DDとは、「なぜこんな状態になったのか」という窮境要因分析を含む実態把握のことです。そこから事業の問題点を洗い出すとともに、SWOT分析をもとに会社の「強み」や「弱み」を分析していきます。さらに、そこから導き出される「打ち手」を考え、具体的な行動計画(アクションプラン)に落とし込んでいく。そして、その行動計画を達成するための数値計画(目標)をつくる。こうしたステップを踏んでいくと、理想的な経営改善計画に仕上がっていきます。
──認定支援機関である税理士の役割は、経営改善計画の策定だけにとどまりません。
佐藤 経営サポート会議(信用保証協会が事務局のバンクミーティング)の場などにおいて、複数行調整の〝交渉役〟にあたるのもそうだし、金融機関から同意を得た経営改善計画の進ちょく状況を定期的に報告していく「モニタリング」を手助けするのも大切な役割です。
経営サポート会議の場において、複数の金融機関からリスケの同意を得るためには、いかに実現可能性の高い経営改善計画であるかなどを説明していく必要があります。もちろん経営者自身が説明することも大事ですが、数値計画など、専門的な知識が必要な分野については社長よりも税理士が説明したほうが説得力を持たせられるといえます。
またモニタリングについては、単に計画がスケジュール通りに実行されているかどうかをチェックするだけでなく、計画通りに進んでいないときは、たとえばこの先の1カ月間で何をしていくかを社長といっしょに考えたりすることも重要だと思っています。あくまで主人公は社長です。何より大切なのは、社長に「自分が経営するぞ!」と感じてもらえるように働きかけていくことなのです。
会社の〝健康診断〟のプロ
──佐藤先生自身がたずさわった経営改善の取り組み事例をお聞かせください。
佐藤 経営改善の支援を受ける企業には2つのパターンがあります。1つは、キャッシュフローがある程度出ていて、経営改善をするとさらにもっと出てくるような会社。もう1つは、今まで通りのやり方をしていたら絶対にキャッシュフローが出てこないようなところです。
まず1つの目のパターンにあたるA社(製本印刷業)の事例をご紹介します。A社はもともと年間1000万円ほどのキャッシュフローを出すことはできていました。しかし年間1500万円を銀行に返済する必要があった。そこで、返済額を年間1000万円にしてもらう代わりに、もっと売り上げを伸ばしますよという経営改善計画を作り、それに同意してもらいました。計画を実現するためのアクションプランとして掲げたのが、仕事の内製化率を高めるというものでした。
A社の経営が悪化したのは、昔からの慣習だからと安易な外注を繰り返していたことが一因でした。従業員にしてみれば自分たちの仕事が忙しいのは嫌なので、どんどん外注に出したがる。そこにメスを入れて、これまでと同じ人数で可能な限り内製化するように社内体制を改めていったところ、見違えるように業績が良くなっていきました。いまでは年間1500万円ほどのキャッシュフローを稼ぎ出すまでになっています。
──もう一つのパターンは?
佐藤 B社(インテリア雑貨の製造販売)の事例がそうです。今後3年間で会社が「変身」することを約束する代わりに、元本返済を3年間待ってほしいという計画を金融機関に合意してもらいました。変身するための具体策として掲げたのは、①百貨店・催事場販売の強化②委託販売の強化(利益率がよい)③社長の営業時間の確保の3点でした。以前は会社の中にいることが多かった社長が、いまは社外に出て果敢にトップセールをしています。
B社の経営計画は、いわば「右肩上がり」になることを想定した計画でした。こうしたバラ色の計画にはなかなか首を縦に振ってくれない銀行も多い。そこで私は、まず信用保証協会に出向いて同意を取り付けてきました。これが功を奏し、経営サポート会議のときには信用保証協会が味方に付いてくれたことから、当初は難色を示していた銀行も最終的に合意してくれました。
──経営改善の支援を税理士ができることを知らない中小企業経営者はまだまだ多いと思います。そうした経営者にメッセージをお願いします。
佐藤 税理士は会計の専門家です。つまり数字をもとに会社の〝健康診断〟をすることに関してはプロなのです。自社の経営改善を相談する相手としてはもってこいと言えるでしょう。経営難に悩んでいる社長は、ぜひもっと税理士を活用してみてください。
(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)