2015年5月1日、会社法の一部を改正する法律が施行されました。該当する中小企業が注意すべき改正事項を教えてください。(金属加工)
改正会社法が今年5月1日に施行されました。これは平成17年大改正(平成18年5月施行)の後の初めての大きな改正です。改正の大きな柱は上場企業のコーポレート・ガバナンスの強化であることは間違いなく、今回の改正会社法は上場会社を対象にしたものであるという印象がありますが、未上場企業にとっても大きく関わってきます。そこで未上場企業の視点で改正会社法を解説してみましょう。
まず用語の確認ですが、株式会社は定款で株式譲渡制限を定めていない会社(公開会社といいます)と、それを定めている会社(便宜上、非公開会社ということにします)に分けることができます。そして上場企業は当然に公開会社ですが、未上場企業には非公開会社と公開会社が混在します(数の上では未上場企業はその多くが非公開会社)。この非公開会社について、次の①の改正がなされました。
①監査役の監査の範囲を登記
定款で監査役の監査範囲を会計監査に限定している株式会社は今回の改正により、その旨を登記することが必要になりました(法911条第3項第17号イ)。ただし、改正会社法施行後(本年5月1日後)、新たに監査役が就任(再任を含む)、または退任するまでの間については当該事項を登記する必要はありません(改正法附則第22条第1項)。つまり今後、最初に監査役が就退任する際に登記をする必要があるわけです。忘れやすいのでご注意ください。
②多重代表訴訟の制度
多重代表訴訟制度の新設も未上場企業にとって重要な改正点です(法847条の3)。これまでも株主代表訴訟は未上場企業で多く提起され紛争になってきましたが、多重代表訴訟の制度が新設されたことによって未上場企業の株主代表訴訟リスクはより高くなりました。
これは、A株式会社の株主B(提訴要件はAの発行済株式の1%以上を所有し、かつその株式を6カ月間以上継続保有していること)が、Aの子会社C(AがCの100%株式を所有し、かつ責任原因事実が生じた日においてCの株式の帳簿価格がAの総資産額の5分の1を超えることが必要)の役員に対し、株主代表訴訟を提起することを認めるという制度です。
未上場企業では、株主代表訴訟は親族間の同族内紛として提起されることが普通であり、しかも資産管理会社の存在は珍しくないので、その場合は上記要件を満たすこともあり得ます。資産管理会社に配偶者や子息子女を役員にしている場合は、家族も被告に巻き込まれてしまうという問題になりかねません。
③特別支配株主の株式等売渡請求制度
特別支配株主の株式等売渡請求の新設(法179条)も今回の改正の重要なポイントです。これは、株式会社(対象会社)の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)が他の株主の全員に対し、その有する株式会社の株式の全部を売り渡すことを請求できる(株式売渡請求)という制度です。対象会社の株主総会決議は不要で取締役会決議で足ります。