今春闘では大企業が一時金の満額回答を出したとの報道が相次ぎましたが、当社も夏季賞与の増額を考えています。中小企業の相場を教えてください。(機械部品製造業)
まず、賞与支給の前提となる企業業績の動向から振り返ってみましょう。財務省「法人企業統計調査」によると、昨年10~12月期の全企業(資本金1千万円以上、金融機関を除く)の売上高は、前年比+2.4%と6四半期連続で前年同期を上回りました。2013年半ば頃から、円安コストの一部を価格に転嫁する動きが広がり始め、デフレ経済の下で続いてきた売上高の減少に歯止めがかかりつつあります。さらに、円安による輸出受取額や海外事業収益の増加と、原油安によるコスト減少が収益増に寄与し、経常利益は前年比+11.6%と12四半期連続で前年同期を上回り、過去最高を記録しました。
こうした好業績を背景に、2015年の春季労使交渉では、大手企業で一時金の満額回答が相次ぎました。大手企業では、安倍首相による異例の賃上げ要請を受ける形で、すでに2014年春から円安が収益増加に寄与した製造業を中心に賃上げの動きがみられていましたが、本年は、円安がむしろ逆風となった小売、外食などの非製造業にも引き上げの動きが広がりました。また、非正規雇用者の時給アップなども相次ぎました。いずれも、今後の事業展開に欠かせない人材確保やモチベーションアップをにらんでの動き。こうしたなかで、2015年夏季賞与(厚生労働省、従業員規模5人以上ベース)は、全体では+2.3%と2年連続の前年比プラスとなる見通しです。
一方、中小企業の業績や景況感についても、ようやく回復の動きが出てきています。前出の財務省「法人企業統計調査」の利益動向を、企業規模別にみると、資本金1000万円から1億円の中小企業の経常利益は、前年同期比+19.0%と、上場企業が多い資本金10億円以上の大企業の同+9.4%を大幅に上回る伸びとなりました。ただし、水準としては低いため、大手に比べると労働分配率が高く、人件費負担は依然として重いものとなっています。景況感も、日銀短観4月調査によると、業況判断DI(良い─悪い)は、中小企業は2%ポイントの「良い」超にとどまり、大企業の同16%ポイントに比べ改善が遅れています。このように中小企業の場合、業績は改善しているものの、その改善度合いが大手企業よりも小さいため、今夏の賞与伸び率は+1%程度にとどまると予想されます。
中小にも賃上げを要請
もっとも、世の潮流として、中小企業にも賃上げ圧力が高まりつつあることを視野にいれておく必要があります。今年4月の政労使会議で、安倍首相は中小企業にも賃上げを要請しました。政府は、この環境整備に向け、中小企業が原材料高などの価格転嫁を着実に実現できるよう、下請法に基づく大企業への立ち入り検査などの監視を強める方針です。また経団連も会員企業に、取引先の中小企業との間で、原材料費が高騰した際の取引価格の決め方などをあらかじめ合意しておくよう呼びかけています。さらに、景気回復や少子化に伴う人手不足感も一段と強まっている状況です。
賞与の水準はあくまで自社の収益状況や個々の従業員の成果を基軸に決めるものですが、世の中の潮流は、従業員のモチベーションや今後の人材確保の成否を左右します。このため今夏の賞与支給にあたっては、戦略的に決めることが重要でしょう。