高齢者や子どもたちを対象とした「見守りサービス」事業に参入する企業が増えている。電話による安否確認から、マイコンメーターやセンサーを使った通知システムの構築などそのやり方はさまざま。顧客獲得に奮闘する中小企業を取材した。

 見守りサービスに詳しい旭リサーチセンターの赤山英子研究員によると、世帯人員の減少やコミュニティーにおける人間関係のあり方の変化が見守りサービス拡大の背景にあるという。

「1950年代に5人だった平均世帯人数は2013年には2.5人と半減しました。プライバシーを重視する考え方がより強まっていることもあり1人で家にいる子どもや高齢者の方が増える一方、ご近所づきあいや地域コミュニティーは希薄化しています。こうした社会環境の変化から見守りサービスの市場は拡大しており、調査会社シード・プランニングによると、高齢者見守り・緊急通報サービスの市場規模は2014年に142億円、2025年には227億円に拡大するとみられています。この勢いは団塊の世代が後期高齢者になる2025年ごろまで続くでしょう」

 高齢者や子どもたちを見守るサービスは大別して①機械が行うもの②人間が行うものの2つに分類できる。その歴史は実は浅くはなく、①ではすでに10数年以上前から、ガスや電気、通信事業者などのインフラ事業者、警備会社がサービスを実施しており、最近では携帯電話やケーブルテレビ、鉄道会社などの参入も目立ってきた。志幸技研工業(『戦略経営者』2015年5月号P12参照)やアポロガス(同P14参照)は使用量をデータ解析し異常値を自動的に感知する生活インフラ系事業者の代表事例である。普通に生活していれば必ず利用するガスや電気を24時間監視し、一定期間使用がなかったり、逆に一定量の使用が長時間継続したりした場合に自動的に通報する仕組みで、各家庭のマイコンメーターと企業のシステムを直接つなぐため人為的な見逃しがないというメリットがある。

 対象者に小型の発信機を持たせ、通信インフラを活用して居場所を検索できるようなサービスを行うHAMOLO(同P18参照)のような企業も目立ってきた。専用端末を購入しスマホアプリを入れればすぐに使える手軽さで、GPS機器などを用いたシステムに比べランニングコストも格段に安い。このほか、テクノスジャパン(同P20参照)が開発した見守りロボット「ケアロボ」のように各種センサーを内蔵した通報機器の利用の増加も見込まれている。

 技術の進歩やIT機器の普及を利用した見守りサービスは今後も拡大が予想されるが、克服しなければならない課題もある。赤山研究員はこう指摘する。

「1つは電源の確保です。家庭内の機器であれば問題はないでしょうが、外出するときにペンダント型の発信機を持たせるような場合は電池切れの心配があります。それから機械では非定型の異常が感知できないということに留意すべきでしょう。『ろれつが少し回らない』などの病気の兆候をつかむことは機械ではまだ難しいからです。また自宅にセンサーを取り付けたりする場合は初期投資が高額になる、利用者がカメラの設置を嫌がるといった問題もクリアしなければなりません」

 こうしたデメリットを回避できるのが、②の人間が行う見守りサービスにほかならない。アビリティーズ・ケアネット(同P16参照)のように、専属スタッフによる電話での安否確認や定期的な生活相談を行うサービスがオーソドックスなスタイルだ。人が対応すれば対象者の小さな異変に気がつくことができ、緊急事態ですみやかに救急車の発動を要請したりすることも難しくない。警備会社や食事の宅配サービス、通信販売事業者などすでに利用者宅に訪問するルーチンワークが発生している業務では追加コストをかけずに参入することができる。「24時間365日の常時監視はできない」「スタッフの能力によってサービス水準にばらつきがある」という課題はあるが、①と②をうまく組み合わせることでその弱点を克服する手法をとっている大手企業の事例もあるという。

海外展開の可能性も

 さて、見守りサービスの今後の展開はどのような可能性が考えられるだろうか。赤山研究員はそのポイントとして①認証技術やウエアラブル端末の普及による新サービスの可能性②海外展開③見守り対象の拡大──の3点をあげる。

「顔認証技術の精度が高まれば、一人一人の顔を確認して玄関の鍵を開け閉めし、同時に安否確認を行えるようなサービスが現れるかもしれません。また世界でもっとも高齢化が進んだ日本でサービスのビジネスモデルが確立できれば、中国など急速に高齢化が進んでいる海外諸国への進出も視野に入ってきます。また国内での需要は先細りかというと決してそうではなく、犬と猫を合わせても国内で2000万頭以上ともいわれるペットへの見守り需要が拡大する可能性も高いでしょう。高齢者と子どもだけではなく、『社会的弱者への見守り需要』という視点が大切になってくると思います」

 エースチャイルド(同P22参照)のように、スマホを通じたコミュニケーションアプリのやりとりをチェックし子どもたちのバーチャル空間での振る舞いを見守るサービスにも引き合いが殺到している。見守りサービスは、既存事業の付加価値向上や新規参入市場として十分検討に値する事業領域といえるだろう。

(本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2015年5月号