金融検査マニュアル別冊に、「短期継続融資」に関して新たな事例が追加されたと聞きました。その内容について教えてください。(金型製造)
金融検査マニュアル別冊は、金融機関のバイブル的な位置付けになっている「金融検査マニュアル」に対して、中小企業への融資を行うときの注意点を事例によって述べているものです。たとえば道路交通法によって「人は右、車は左」ということが決まっていても、安全通行のため、右側が谷底になっている細い山道を車がすれちがう時は車は右側通行になりますし、センターラインのないような右側が側溝の細道を小学生が集団登下校するときは左側通行になります。それと同様に、中小企業の場合は、地域活性化やリレーションシップバンキングといった金融機関に求められる行動原則を踏まえて、金融検査マニュアルの本冊では通用しない対処方法を「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」によって銀行や信金等に徹底しています。
この別冊は、新しい事例の追加がないままに10年以上経ちましたが、今般「短期継続融資」に関する新しい事例が加わりました。
実はこの短期継続融資は、金融検査マニュアルで述べている「正常運転資金」貸出の柔軟運用を象徴する融資なのです。正常運転資金とは、「売掛債権(売掛金+受取手形)+棚卸し資産(在庫)─買掛債務(買掛金+支払手形)」のことをいいますが、どうしても保守的な銀行員は、この計算式を厳格に運用してしまいます。期末時の数値とか、少なめの数値しか、この正常運転資金の金額を認めなかったり、勘定科目も限定的にしか認めない傾向にありました。ドラマ『半沢直樹』で広く知られるようになりましたが、金融機関の融資担当者はどうしても金融検査マニュアル本冊などのルールを保守的に、時にはかたくななまでに守る傾向があるのです。
しかしこの短期継続融資の事例については、わざわざ少なめの数値などにする必要はなく、柔軟対応を認めています。
また、この資金を擬似資本として広く解釈するならば、資金使途もある程度寛大に見られるようになります。資本金のように返済を強く求められません。短期融資の範疇であることや業績悪化時の配当の一種であることから金利を低利にしてもらうこともできるようになると思います。金融機関の担当者が目利き力を駆使して、その企業の将来性や成長力を見込めるならば現在、返済をしていない多くの融資を短期継続融資として認めるというものです。
経営改善計画の提出は必須
目下、返済猶予などの貸出条件を緩和されている中小企業の融資は、80兆円を超えると言われています。平成21年にスタートした金融円滑化法では、金融機関が返済猶予などを認めるときは、実抜計画並みでモニタリングにも耐え得るような経営計画を求めましたが、現実はこのような計画が金融機関に提出されてはいないようです。もう一度これらの融資を見直して、短期継続融資に認定し、市民権を与えることが大切だと思います。
短期継続融資は将来性と成長性がある企業に適用する融資ですから、やはり金融機関への経営改善計画の提出は必須です。中小企業は経営改善計画を早期に作成するためにも、認定支援機関の税理士・公認会計士等に計画策定の支援を直ちに依頼するべきでしょう。