中小企業が手回しのコマを作り、それをケミカルウッド製の土俵で戦わせる「全日本製造業コマ大戦」。このイベントが始まってから約3年。これが今、とんでもない盛り上がりを見せている。

コマ大戦で中小企業を元気に!

 昨年11月19日、東京ビッグサイトで開かれた「産業交流展2014」。そのなかの特別イベントとして催されたのが「全日本製造業コマ大戦 有明場所」だった。この日は中小企業16チームが参加し、お互いのコマで勝負を競った。

 こうしたコマ大戦のイベントは、いまや全国各地で年間50回ほど開催されていて、延べ2000チームが参加する。今回の有明場所はG3(エキシビションマッチ)の位置付けだが、ほかにG2(地方予選)、G1(全国大会)などのグレードがある。いずれの大会も、①相手のコマよりも長く回り続けた方が勝ち②土俵の外に出たら負け③2連勝した時点で試合終了④勝者は敗者のコマをもらえる、というのが主なルール。使用するコマは直径2センチ以下であれば、材質・重さ・形などは自由だ。全日本製造業コマ大戦協会の緑川賢司会長がいう。

「コマはそのときどきでトレンドが変わります。2012年2月に第1回全国大会を開いた当初は、『低重心型』のコマが主流でした。そして、それに打ち勝つために出てきたのが『軽量型』や『変形型』などのコマでした」

 軽量型コマの強みは、相手のコマの回転を、自分が回転するためのパワーに変えて、より長く回り続けることができる点。この場合、相手のコマの回転方向とは逆向きに自分のコマを回すことが重要になる。たとえば相手が時計回りに回すのなら、自分は「反時計回り」にするわけだ。そうすれば「歯車」と同じ原理で相手の回転力を自分のパワーに変えることができる。まさに「柔よく剛を制す」のイメージだ。

 変形型の代表的存在といえるのが、〝羽根〟付きのコマだ。回転時の遠心力で、コマの外側が羽根のように開く。この羽根系コマが、形としては「最強」という説もある。ただ、この手のタイプのコマはきれいに回すのが難しく、投げるのにそれなりのテクニックが必要となる。

「単にコマだけがよくても勝てないところが、コマ大戦の面白さ。『投げ手』の手腕も大きく問われます。また、右回りか左回りにするかの駆け引きも、重要なポイントになります」

 また最近では、「一点回転型」と呼ばれる、「相手のコマとぶつかることを避ける」という戦略で戦うコマも現れている。接地部分が尖っており、土俵脇の一点に刺さった状態で回り続ける。本来、ケミカルウッド製の土壌は、すり鉢状のかたちをしているため、対戦するコマ同士が自然と土俵の中央部に集まってくる。ところが土俵脇にとどまって回り続けるのであれば、相手のコマがいくら強くともそもそもケンカにならない。持久力だけの勝負になる。

「勝てるコマを作ろうと思ったら、優れた旋盤加工技術のほか、『設計』の力も要求されます。そうした自社の技術力をかけたプライドといったものが、コマ大戦を熱くしています」

きっかけは宴会での会話

 そもそも緑川会長が「コマで対戦する」という発想を持ったのは、ある宴会の席で、由紀精密(神奈川県茅ヶ崎市)が作ったコマを偶然手にしたのがきっかけだった。緑川会長は木型模型(モックアップ)の製作を手がけるミナロの経営者で、異業種グループ「心技隊」にも参加していた。その心技隊が「テクニカルショウヨコハマ2012」に出展するにあたり、ちょうど何か目立つことをやりたいと考えていた。コマで町工場同士が対戦するというアイデアは、これ以上ないものに思えた。

 このときの第1回全国大会には21チームが参加し、大成功に終わった。さらにその翌年には第2回全国大会が行われ、町工場同士の意地と意地がぶつかり合う、数々のドラマが生まれた。

「第2回全国大会の決勝では、羽根系のコマを擁するSWC信州(信州コマ倶楽部)と、オーソドックスなコマを使うシオン(岐阜県)が激突。アドバンテージが7回入れ替わるシーソーゲームの末に、シオンが優勝しました」

 その様子は、NHKのテレビ番組でも紹介され、コマ大戦への関心度合いはがぜん高まった。

 2度目の全国大会から2年の歳月を経て、今年2月15日に「世界コマ大戦2015」が開かれる。これが3回目の全国大会に当たるわけだが、外国チームの参加もあるため、世界大会と銘打った。

「斉藤プレスさんや美田工業彫刻所さん、あるいはソノダテックさんなど、強いチームがつぎつぎと現れています。前回上位に入ったチームも油断はできないと思いますよ」

 ちなみに緑川会長が正式に大会に出場したのは、心技隊で参加したときの一度きり。現在は、実況を担当する「黒椙田ゆうじ」こと椙田祐司さん(エコックス・代表)の隣に座り、解説者として場を盛り上げていることが多い。オヤジ二人の「掛け合いトーク」は実に軽妙で、しばしば会場内は笑いに包まれる。

一般消費者にコマを売る

 コマ大戦を単なる〝お祭り〟だと思ってはならない。同じ土俵で戦ったことをきっかけに、仕事上のパートナーとしての関係を構築したところもあるなど、「横の連携」を深めるひとつの機会になっているのだ。

「千葉、神奈川、長野など地域がバラバラなのに、みんながコマを介して友だちになれるんです。ほとんどが経営側の人間なので当然、仕事の話にもなってくる。『この仕事、頼める?』『それならできるよ』といった会話が、フェイスブックなどで日常的に行われています」

 コマ大戦を行う目的の一つに、「BtoCの販路確立」も掲げている。過去の大会に出場したコマのレプリカモデルを一般消費者向けに販売するビジネスを始めたのは、そうした意向から。公式WEBショップ(http://store-m.jp/)では、各社の多種多様なコマが売られている。値段は1000円以下で買えるものもあれば、1万円近いものもある。子どもと遊ぶために購入するお父さんや、熱心なコレクターもいるそうだ。

「コマを販売するという経験を通じて、値決めや、在庫の持ち方など、一般消費者向けの商売のやり方を学んでほしいのです」

 第2回全国大会の覇者であるシオンは、コマに続く二つ目の自社オリジナル商品を作った。純チタン製ボールペン『ネイバー』がそれで、東京・渋谷の「代官山蔦屋書店」の文具コーナーに並べてもらっている。ほかにも、コマの販売を通じて学んだノウハウを生かして、下請けからの脱却をはたした会社は複数ある。

「日本の製造業に活気を与えるためにも、コマ大戦をもっと盛り上げていきたい」と語る緑川会長。夢は大きく膨らむ。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2015年1月号