新製品のお披露目、会合でのあいさつなど、経営者は何かにつけ発表の機会があるもの。そこで問われるのが「プレゼン力」だ。資料作成から話し方まで、効果的なプレゼンを行うための要諦を専門家に聞く。

「相談に来られる方で一番多いのは『今度プレゼンをしなきゃいけないんです』といった、まるで外れクジを引いたような言い方をされる人です。プレゼンに対する〝やらされている感〟をまず払拭する必要があります」プレゼンの個別指導、研修講師を手がける伊藤誠一郎氏は話す。医療情報システムの営業に15年間携わり、ベンダーによる競争入札時のプレゼンを数多く経験してきた。伊藤氏曰く、プレゼン力とは物事を要約して答えを出す能力だという。「結局のところ」、「かいつまんでいうと」などの言葉で話をまとめ、自分なりの回答を提示する力を指す。意識を前向きに改めるには、プレゼン自体の持つ威力を認識することが有効だ。

勝敗は情報収集で決まる

社長のプレゼン力

「自分の伝えたいことを相手にしっかり理解してもらえれば、共感と信頼を植えつけることができ、味方につけることができます。味方が多いほど、チャンスが訪れる機会が増えていくもの。プレゼンは貴重な舞台だととらえてほしいですね」

 プレゼンに対するマインドを変えた上で取り組むことは、相手の置かれた現状やニーズに関する情報収集。プレゼンの成否を大きく左右するだけに入念に行いたい。製品やサービスをプレゼンする場合を例にとると、コスト、時間、安心感など訴える点はさまざまあるだろう。その際、聞き手が最も求めているポイントをあらかじめさぐっておく。「営業職をしていたときよくあったのが、以前システムを導入したものの、担当者とのコミュニケーションがうまく取れず頓挫してしまっているケース。コストや時間が多少かかっても手厚いアフターフォローを求めていることもある」(伊藤氏)というように、ニーズは千差万別といえる。

 聞き手が複数人いる場合、キーマンを調べておく必要もある。社長一人で決めるワンマンタイプか、社員と話し合って決める合議型なのか、あるいは部下に委ねる丸投げ型なのか、社内の意思決定プロセスをサーベイしておくと、成功率は高まる。

「プレゼンに臨む前に、同様の提案をおこなったことのある業者に連絡し、その会社の判断の基準を聞き出したり、キーマンは誰でどんな人なのかを知ろうとする努力は相当行いました」

 では、プレゼンを行うとき心がけるべきことは何か。社内と社外向けに分けて考えてみたい。

「社内・外」場面別のポイント

 社外の人々にプレゼンする場としては、新製品や営業所の披露会・パーティー、あるいは製品展示会、ビジネス交流会などがある。肝いりの製品・サービスを社長自らプレゼンしたり、あいさつのスピーチを求められることもあるだろう。伊藤氏は欠かせない要素として「前に突き進む姿勢」と「プロとしての専門性」を挙げる。

「組織を代表し話している社長に勢いが感じられないと、元気のない会社だと受け取られてしまいます。要所要所でその道のプロだと感じられる話を盛り込むと、信頼感が増します」

 日常会話では数日前や現在という短いスパンの話題が中心となりがちだが、会社を代表して行うプレゼンでは、過去から未来まで広い時間軸で話すのを心がけたい。これまでに培ってきた経験に加え、将来ビジョンを話すとジェスチャーが自然と大きくなり、聴衆の目を引くこともできる。ただし、専門性をアピールするあまり、専門用語や細かいデータを長々と語るのは避けたい。とりわけ技術系の企業にその傾向が見受けられるという。

「部品メーカーであれば『自動車やパソコンのこの部分に使われています』というように、一般の人にも理解できるレベルに目線を下げて話す必要があります」

 一方、朝礼やキックオフ会議等、社員に対してプレゼンを行う際のポイントは、社員の士気を高めるという点にある。先に述べたプレゼンの定義にも共通するが、今後の打ち手に関する明確な回答を示し、共有しようという姿勢が求められる。経営者に迷いが生じていては社員の不安は高まるだけだ。

「社員の気持ちにやる気の火をともすのも社長のプレゼン力次第。企業勤務時代に見かけましたが、ミスした社員をどなりつける社長がいる会社では、社員たちはミスを恐れて萎縮し、指示待ち人間ばかりになってしまいます」

 なおかつ「社長の発表する打ち手に良い意味での意外性があると効果的」だという。社員でも想像のできる内容では〝ありがたみ〟が薄れるため、一定のサプライズ感があると良い。

シミュレーションが有効

 プレゼンでは出席者にパワーポイントなどの資料を配布するのが一般的だが、あくまで補助的なものとして位置づける。発表は聴衆に直接語りかけるのを基本姿勢として口頭と資料、半々の割合で行う。プレゼンする予定が事前に決まっていれば資料を作成する時間を設けることもできるが、突然〝ご指名〟を受けることもあるだろう。そんなとき、ふだんからシミュレーションをしておくと慌てずに済む。考えを巡らしておきたいのは、自社の強みや製品の魅力、将来ビジョンなど。あらかじめ数点のポイントに絞ってまとめておけば、本番ではそれらを整理し、体系立てて話せばよい。伊藤氏は訴える。

「プレゼン能力はある日突然身につくわけではありません。日ごろシミュレーションし、考えた内容を披露する機会を率先して設けてください。発表の場をつくるのがプレゼン上達への近道です」

プロフィール
いとう・せいいちろう 1971年生まれ。学習院大学法学部卒業後、医療情報システムのコンサルティングに携わり、病院向けの競争入札、プロジェクト会議等で年間100回以上のプレゼンテーションを行う。2009年にプレゼンテーション講師として起業し、プレゼンのサポート、個別指導に取り組む。近著に『バスガイド流プレゼン術』(CCCメディアハウス)がある。

(本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2014年12月号