中小企業は高額なテレビCMなど夢のまた夢。が、いまの時代、ネットをうまく活用すれば低予算でコスパ抜群の「動画マーケティング」が可能になる。

 今ほど動画が身近になった時代は、これまでなかっただろう。ホームビデオが一般家庭に普及しているし、スマホやデジカメにも動画撮影の機能が付いている。そして何より、撮影した動画をインターネット上に流せる「ユーチューブ(YouTube)」をはじめとした動画投稿サイトの存在が大きい。素人が作った動画でも、気軽にネットを通じて世界に発信できるようになったのだ。

 こうした動画をマーケティングに活用する企業の動きも盛んになってきている。たとえば自社紹介の動画や、商品の使い方を説明した動画を流すことで、販売促進を図るのだ。

 ひと昔前までは、動画による販促というと、テレビCMくらいしかなかった。しかし中小企業がテレビCMを流すのは、多額の費用がかかることから、そう簡単にはできなかった。しかし今は違う。その気になれば、低予算で動画CMをネット上に発信することが可能なのだ。

 動画の長所はいくつもある。「百聞は一見にしかず」ではないが、文章だけの広告にくらべて、圧倒的に情報量が多いことがまず挙げられる。視覚的に物事を伝えられるため、ユーザーの理解度が高まるし、「音」を効果的に使うことで相手の感情を揺さぶることも可能だ。ユーザーへの「認知」を高めたり、「興味喚起」をするという点では、動画は格好のツールになろう。

目的とターゲットを明確に

 さて、ホームビデオなどを使って自分たちで動画広告を作り、それをYouTubeや自社サイトに載せるといった場合、なにがポイントになるのだろうか。

 「まず、動画作成の目的を明確にしておくことが必要です。視聴回数を増やすことが目的なのか、認知度アップが目的なのか、自社サイトへの誘導が目的なのかを最初にはっきりさせておいたほうがよいでしょう。また、コンテンツとターゲットにかい離があったのでは、その目的を達成することは難しくなるので、『誰をターゲットにするか』をしっかり見定めておくことも大事です」と、動画制作会社LOCUSの瀧良太社長はいう。

 当然のことだが、動画を作れば、それだけでお客が増えるわけではない。ちゃんと目的に見合ったものを作ってはじめて、期待する効果が得られるということを覚えておいてもらいたい。

 実は、視聴者の多くが、最初の5秒でその動画を見るか見ないかの意思決定をしているという話もある。だから最初の5秒が勝負となるわけだが、そこでサービス内容やメリットを簡潔に伝えたり、「じらし効果」を駆使して「続きをみたい」欲求を抱かせたり、ターゲットユーザーがどんな人であるかを最初に明言してしまうのもよいだろう。

 動画全体の長さについては、一般的には目安として30秒~2分くらいまでの映像尺が適切といわれている。だが誰に何をどう伝えるかによって、短いほうがいい場合もあるし、長いほうがいい場合もあるので、ケースバイケースで判断すればよい。ただ、必要以上に長いものは視聴者に飽きられてしまうため、注意が必要だ。

音楽などの権利侵害に注意

 自社で動画広告を制作する際、ぜひ気をつけてもらいたいのが、著作権や肖像権などの「権利侵害」だ。好きな歌手の曲を勝手に動画のBGMに使ったり、他人が作った画像や動画を無断で使ったりするのはNGである。BGMについては、使用料を支払ったうえで著作権フリーの音源(素材)を提供するサイトなどを利用したほうがよい。また、街中で人物を撮影する場合などは、「動画広告撮影中」などと看板を立てるなどして、使用目的を説明しておいたほうがよいかもしれない。

 ここまで自社で動画広告を作成する場合について述べてきたが、もちろん動画制作をプロに任せてしまうのも有効な選択肢である。テレビ系制作会社、個人系動画制作会社、Web制作会社、広告代理店などが動画づくりの良きパートナーになってくれるはずだ。最近、注目されている6秒動画の「Vine」に投稿するレベルならともかく、YouTubeのインストリーム広告「TrueView」などを利用するのであれば、プロに任せたほうが無難といえよう。

 繰り返すようだが、販促活動に多額の費用をかけられない中小企業にとって、動画マーケティングは大きな武器になる。積極的な活用を検討してみてはどうだろうか。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年11月号