東京都足立区で介護ビジネスを展開するケアサービスとも。海老根清剛社長(64)と海老根久美子取締役の夫婦二人三脚の経営で、訪問介護や複合型サービスの事業所を合計7つ展開するまでに会社を成長させた。そんな2人が業績管理に役立てているのが、TKCの『FX2』である。

訪問介護サービスなど7事業所を運営

株式会社ケアサービスとも:海老根社長(右から2人目)

株式会社ケアサービスとも
海老根社長(右から2人目)

──複数の介護サービスを提供しているそうですね。

海老根社長 当社の経営理念は、「在宅での生活を最後まで支えます」。この理念が示すように、利用者が病院ではなく、住み慣れた自宅や地域で最期まで過ごせるように介護面での支援をするのが、われわれの役割だと考えています。
 利用者の自宅に訪問して入浴、排せつ、食事等のお世話をする「訪問介護」や、点滴や胃ろうの管理などを行う「訪問看護」のサービスは、まさに自宅でのケアを念頭に置いたものです。

海老根取締役 さらに当社では、訪問・通い・宿泊を組み合わせた「小規模多機能型居宅介護」も手がけています。ふだんは自宅にいて訪問介護サービスを受けながらも、必要に応じて施設に通ったり、宿泊したりすることができるサービスです。
 そして、小規模多機能型居宅介護に訪問看護をプラスしたものが「複合型サービス」で、これについても行っています。実は、都内で初めて複合型サービスの指定を受けたのが私たちなんですよ。
 このほか「認知症対応型共同生活介護」(グループホーム)や、ケアマネージャーが介護プランを作成する「居宅介護支援」の事業もしています。

──現在の事業所の数は。

社長 ①居宅介護支援事務所とも②訪問介護ケアサービスとも③小規模多機能型居宅介護「ともの家」④同「あおいの家」⑤複合型サービス「良さんの家」⑥訪問看護ステーションとも⑦グループホームともの7事業所があります。いずれも足立区内にあり、あわせて約160名の利用者がいます。

──会社の強みを教えてください。

取締役 "医療"に強いところですね。現在、看護師が7名在籍しています。私自身看護師で、以前は地元の病院で婦長をしていました。その病院にいろいろ相談できたり、困ったときは助けてもらえます。
 また、看護師が介護の現場に医療的な視点で携わっていることは、ヘルパーさんのレベルアップにも寄与していると思っています。「もっとこうした対応をしてくれないと、利用者さんを守れない」といった見地から、食事の介助の仕方や誤嚥したときの対処法などをヘルパーさんにことあるごとに教えてくれているのです。

──複合型サービスをはじめたのは、そうした強みが生かせるから?

社長 ええ。「良さんの家」は、もともと小規模多機能型居宅介護の施設でした。それを、複合型サービスの制度が新設されたのをきっかけに、訪問看護のサービスも提供できる施設に移行しました。

取締役 厚労省が複合型サービスの制度を作ったのは、超高齢化社会を迎えたいま、もはや病院では高齢者の最期を看取ることが難しくなってきているからです。長期入院はベッドの数からしても無理だし、国が負担する医療費も増える。それを考慮して厚労省は、「病院ではなく、自宅・地域で看取ってもらう」という方向性に舵を切ったのです。うちは当初から、お年寄りの願いは自宅で最期を迎えることだと考え、それが実現できるように利用者のみなさんと模索してきた事業体です。複合サービスに近いことは以前からやっていました。

──いま職員の方は何人くらいいるのでしょうか。

社長 全体で約125名います。そのうち介護職員が約100名、あとは看護師、調理スタッフ、経理、送迎担当者などです。

──ヘルパーの就労意識をいかに高めていけるかが、重要な経営課題になりそうですね。

取締役 各事業所ごとに毎月、事例検討を中心にした勉強会を開催しているのは、まさにそのためです。困難な事例に直面したときにどんなふうに対応したかについて、いろいろ議論していきます。そうした中で、自分の仕事に対する「誇り」を持ってくれるようになれば、おのずと働く意欲が湧いてくるのです。ちなみに年末には「事例検討会コンテスト」を実施して、優秀な事例の発表者には賞品を出したりしています。これもまた、ヘルパーの士気向上につながっていると思っています。

部門別管理を通じてきめ細かい経営判断をする

──「中小会計要領」に準拠した会計処理をしているそうですね。

社長 事業所の数が増えたことから、小口現金管理を各管理者に任せるようになりました。しかし、伝票を入力する際の勘定科目の選択のしかたで管理者ごとに多少のバラツキがあったことから、会計要領にのっとった統一基準を設けたんです。それをもとに、会計要領が求める「適時・正確な記帳」を実現させています。

岸田亜矢子・顧問税理士 もともと発生主義にもとづく「月次決算」を実施するなどしてきたので、中小会計要領の適用はすんなりと進みましたね。

──『FX2』を導入したのはいつ頃ですか。

社長 会社を設立した2005年からでした。システムを使った自計化のメリットとしては、貸借対照表や損益計算書などの最新情報をベースにした業績管理ができることや、資金繰りに敏感になれることなどがあります。現金残高や預金残高を確認することで、お金の流れを大まかに把握することができています。

──部門別管理はされていますか。

社長 7つある事業所をそれぞれ部門に見立てて管理しています。それによって、どの事業所が収入を伸ばしているか、利益をどれくらい出しているのか等が正確にわかります。
 いま会社全体としては、黒字を確保できています。しかしそれを継続していくためには、各事業所が本当に安定的に運営されているのかをきちんと把握していく必要があります。だからこそ、部門別管理が重要になってくるわけです。

──収入と支出の項目には、どんなものがありますか。

社長 収入としては、介護保険制度から当社に支払われる介護報酬と、利用者さんの1割負担分があります。支出については、事業所の家賃のほか、ヘルパーさんなどに支払うお給料などがあります。費用の50%超は人件費が占めています。

──労働分配率については意識していますか。

取締役 正直言うと、あまり厳密には意識はしていません。ただ、お給料に関しては業界標準を超えているはずです。

社長 TKC経営指標「BAST」で同業他社比較しても、それは明らかです。人件費はヘルパーさんの働く意欲に直結します。いくら利益を増やしたいからといって賃金を低く設定してしまうと、サービスの品質を落としかねない。長い目でみるとあまり得策ではないのです。

──新たな働き手の確保という課題についてはどうでしょうか。

社長 介護職はやはり3Kのイメージがあるため、なかなか人が集まりにくいところがあります。そうした状況を踏まえ、最近は新卒採用にも目を向けています。介護福祉関係の専門学校にアプローチするほか、ハローワークが実施する地元の高校生向けの企業説明会に参加したりもしています。

金融機関から融資を受け新たな設備投資を行う

──業績を検討する会議を毎月おこなっているとか?

社長 各事業所の責任者を集めて「管理者会議」をしています。でも月に1回、わずか2時間の会議では、単なる業績報告で終わってしまうことから、最近は新たに「経営連絡会」という名前でミーティングをするようになりました。たとえば、特養老人ホームが足立区では再来年くらいまで増えるという経営環境をふまえて、そこに利用者が流れていった場合、その穴埋めをどうしていくかなど、テーマを絞って具体的な議論を交わしています。

──業績管理をしていて良かったと思うことはありますか。

社長 資金繰りや返済計画の精度が高まったことを、金融機関がきちんと評価してくれていることでしょうか。

岸田税理士 以前は「じゃあ、貸します」くらいの感じで金融機関はお金を貸してくれていましたが、最近は「ぜひ使ってください。他から融資を受けないでください」といった勢い(笑)。先日も、新しくサービス付きの高齢者住宅を建築するという計画を持っていったところ、十分な融資を受けることができました。

──今後の展開を聞かせください。

社長 その高齢者住宅の建設計画に加え、近い将来、ガン患者を対象にしたホスピス(終末期ケアを行う施設)を新たにはじめることも構想しています。これからは2人に1人がガンになるとも言われています。そうした人たちを支える地域ネットワークをどう作っていくか。カナダのトロント市など、海外の先行事例を勉強しながら、自分たちならではの新しいサービスを作り出したいと考えています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社ケアサービスとも
代表者 海老根清剛
設立 2005年4月
所在地 東京都足立区南花畑4-35-8
TEL 03-5851-8177
売上高 約5億円
職員数 約125名
URL http://www.caretomo.net/
顧問税理士 岸田亜矢子
岸田税務会計事務所
東京都足立区西新井栄町3-18-10-201
TEL:03-3886-1201
URL:http://www.tkcnf.com/kishida/

掲載:『戦略経営者』2014年9月号