新卒採用に最初から尻込みしている中小企業は少なくない。いわく「大手企業と違ってウチなんかに興味をもってくれる学生はいないよ」、いわく「採用活動にかかる費用はバカにならないんでしょ」──。でも、新卒採用に取り組むことは会社を成長させる一つのきっかけになるし、やり方しだいでコストをかけずにできる。そのノウハウを人材コンサルタントの常見陽平氏に語ってもらった。

プロフィール
つねみ・ようへい●1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒。97年にリクルートに入社。とらばーゆ編集部などに在籍。05年、大手玩具メーカーに転職し、新卒採用を担当。その後、人材コンサルティング会社を経て、12年に独立。現在、人材コンサルタント、雇用・労働・キャリア関連の著述家として活動中。著書に『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)、『普通に働け』(イースト・プレス)、『「就社志向」の研究』(角川書店)などがある。
人材コンサルタント 常見陽平氏

常見陽平 氏

──著書(『なぜ、あの中小企業ばかりに優秀な人材が集まるのか?』)で、中小企業が新卒採用をする重要性を説かれています。

常見 新卒採用は単に「人材・戦力の確保」のために行うものではありません。新卒という新しい血を組織に迎え入れ、彼らを育てることによって、その上の世代も成長することができる。つまり、新人を採るという行為を通じて会社が成長できるのです。また、採用広報をするなかで「自社の強みは何か」「どこに顧客の評価が集まっているのか」など、自分たちが大事にするべきものが明確になるのもメリットの一つ。それを磨いていくことで会社はさらに進化していきます。

──とはいえ「大手さんとは違って、ウチに興味をもってくれる学生などいない」と考えている中小企業も少なくありません。

常見 大手企業に学生の人気が集まるのはある意味仕方ないでしょう。「安心・安定」を求めるなら、やはり大手志向になるからです。でも中小のなかにも、創業してから100年以上の歴史をもつ老舗がたくさんあるし、他社がまねできない独自の技術力をもつことで安定経営を続けている会社もある。いかに自分たちが大手企業にも負けない魅力をもっているかをうまく伝えることができれば、優秀な人材を採ることも不可能ではないのです。

──採用活動をうまく進めるためには何が必要ですか。

常見 簡単にいえば、「企業力×採用力」を高めることです。
 企業力とは、業界内でのシェア、独自の技術を持っているか、歴史があるかどうかなど、会社そのものの力のことを指します。これを高めるうえで欠かせないのが、自社の魅力を抽出(棚卸し)する作業です。顧客や取引先に直接たずねてみるのも有効な手だし、社史や社内報を読み込んで「自分たちがこれまで大事にしてきたものは何か」をあらためて整理することもお勧めです。そうやってナンバーワン、オンリーワンのポイントを見つけていくのです。

──曲がりなりにも事業を継続している会社であれば、必ず何らかの魅力をもっていそうですね。

常見 そうなんですよ。あの会社は絶対にムリって言わないとか、納期を確実に守るというのだって、立派な会社の強みなんです。
 いま学生は、卒業時点でひと学年毎年約55万人前後いて、就職活動するのはそのうちの約43万人と言われています。うまく自社の優れた点をPRしていけば、たとえちっぽけな会社であっても、そのうちの何人かが目を向けてくれる可能性は十分にあります。まずは自社の魅力を抽出する。どうしても見つからなければ、新たにつくり出してしまうくらいの気持ちがあってもよいでしょう。少しでも見栄えのするビルに引っ越すとか、オフィスをおしゃれにするとか、あるいは話題になりそうなユニーク社内制度をつくってしまうなど、そこまでやっている企業は多数あります。

──もう一つの「採用力」についてはどうですか。

常見 採用力とはたとえば、「会社説明会や面接にどれだけ多くの学生を集められるか」「自分たちが採用するべき優秀な人材かどうかきちんと見極めることができるか」「採りたいと思った学生を口説き落とせるか」のスキルと、そのための熱いマインドのことです。
 私見ですが、採用活動がうまくいっていない会社はおしなべて面接が下手。面接官がいかにも試験という感じでやっていたり、学生から上手に話を引き出せないでいます。確かに面接は"選ぶ場"ではあるのですが、同時に"口説く場"でもあります。「○○さん、ウチならこういう仕事ができますよ」といった具合に、学生を口説く絶好の機会でもあるのです。この視点は大事ですよ。

──中小企業については、むしろ面接は口説く場だと考えたほうがいいかもしれませんね。

常見 ええ、とにかく自分たちの「熱」を伝えて積極的に口説いていくことが肝要です。

お金をかけないテクニック

──いまの学生の就活スケジュールはどんな感じですか。

常見 大学3年生の12月からスタートする学生の就職活動は以下のような流れで進みます。リクナビやマイナビに代表される就職ナビにエントリー→合同会社説明会や学校内で開催される会社説明会に参加→2月、3月くらいから大手企業にエントリーシートを提出→水面下での面接を経て、4月、5月あたりから大手が内定を出しはじめる。大手から内定をとれなかった人たちを狙って、このタイミングで採用活動をはじめる中堅・中小企業も多いようです。

──新卒採用には人件費以外に、どんなコスト(外部費用)が必要になりますか。

常見 大手と同じようなことをしようとしたら、就職ナビサイトへの出稿など採用の告知に必要な採用広告費をはじめ、就職情報会社が主催する合同会社説明会などに参画するためのイベント費用、パンフレットなど採用ツールの制作費、『SPI3』などの適性検査費用……等々の費用が掛かります。これらをひと通りやるには、100万円以上は必要です。
 しかし知恵を使えば、この費用を大きく減らすこともできます。たとえば大学の合同会社説明会や、自治体が主催するUターン合同説明会に参加するのなら、ほぼお金をかけずに学生たちと出会うことができるのです。京都府では、地元の大学生と中小企業のマッチングを図るため、合同会社説明会の開催のほか、求人ウェブサイトの開設を無料で支援しています。大阪府でもそれに近いことをやっています。こうしたお得な施策をうまく活用してみてはどうでしょうか。
 なお、これらの情報は、各自治体のホームページに掲載されていることもありますが、会社宛てに郵便物やファックスで案内が届くケースも多いので見落とさないようにしてください。

──経営資源の乏しい中小企業にしてみれば「お金をかけずにできる」というのはいいですね。

常見 ただ、明らかに売り手市場で募集をかけても応募が少ないだろうと考えられるときや、大量の従業員を採用する場合については、ある程度お金を費やさないと成果を得ることは難しいといえます。こうした際には、リクナビやマイナビ等の就職情報会社(ベンダー)に採用活動をトータルで支援してもらうのも一考です。
 このとき注意したいのは、営業担当者によってまるで対応が異なるという点です。極端な話、丁寧に考えてくれる営業さんと、いい加減な営業さんがいるのです。丁寧に考えてくれるほうは「業種分類はここにしたほうが検索されやすい」とか「いまのトレンドからすれば『システム開発』よりも『経営に関われる』という部分を強調したほうがいい」などといった有益なアドバイスを黙っていてもくれます。しかしいい加減なほうについては、そもそもあまり会社に来てくれない。そんな人にあたってしまった場合は、彼らを自分の部下のように育成するという発想をもって、とことん使い倒していくべきです。「最近の就活トレンドはどうなっているか」「求人状況はどうなっているか」といった問いかけを常にすることで担当者の取り組み姿勢はだいぶ変わってきます。

見栄えのいい学生には要注意

──面接をうまく行うための具体的なポイントをもう少し詳しく教えてください。

常見 面接においては、学生が自己PRで言ったことに対してきちんと事実を確認していくことがとにかく重要です。たとえば「アルバイトを頑張った」という学生に対してなら、どう頑張ったのか、なぜ頑張ったのか、と質問していくとよいでしょう。こうした聞き方をすれば、相手もしゃべりやすいし、その学生が一つの物事にきちんと取り組める人材であるかどうかの判断もできる。つまり「何をやったか」よりも、「どうやったか」を聞いていくのが面接の基本なのです。
 最近は「ボランティアに行きました」「短期留学しました」という自己PRをする学生もいますが、よく聞いてみると学校が用意したプログラムだったりすることもあります。やはり「何をやったか」を聞いているだけでは、その人の本質を知ることはできません。

──面接で「こんな学生には気をつけろ」というのはありますか。

常見 一言でいうと、見栄えのいい学生ですね。まだ採用担当者になって日が浅い人だったりすると、ちょっとしたことが格好良く見えてしまう。たとえば「体育会系」がそう。体育会系出身というだけで格好良く思えるかもしれませんが、単なる構成員なのか、リーダーなのかでやってきたことは全然違うし、ひとくちにリーダーといっても横暴に引っ張っていくだけのタイプなのか、誰かにおんぶに抱っこ型なのかでもまた違う。このあたりを丁寧に確認していくべきです。

──体育会系という肩書きだけで評価せずに、もっと深掘りしていくべきだと……。

常見 ええ。同じ理由で「有名大学だから」という"ラベル"で判断するのも要注意です。AO入試や帰国子女枠など、近年は大学への入り方が多様化していて、同じ有名大学の学生といっても意外と振れ幅があるのです。

──ここまでお話しいただいたこと以外にも、採用活動全般を成功させるポイントがあればお聞かせください。

常見 採用活動は毎年おこなうものなので「感覚値」だけでなく、しっかり振り返ることも大事です。少ない枚数でも構わないから「報告書」のたぐいを今後のために作成しておくとよいでしょう。そのなかに「今年求めていた人物はこうだった」「選考プロジェクトはこうだった」「応募数がこう推移した」「採用できた学生はこうだった」「逃げられた学生がこうだった」などを記しておくと来年以降の参考になります。そこから、たとえば「地元企業ということで学生たちが集まってきたものの、『Iターンねらい』には最終的に逃げられた」などの傾向が浮かび上がれば、たとえ採用担当者が代わったとしても、その情報を引き継いで改善していくことができます。

採用がうまい会社の共通項

──中小企業のなかにも、新卒採用で優秀な人材を集めているところがあります。それらの会社に見られる共通項とは?

常見 「採用に『魂』をかけている人が社内に一人はいる」ということが挙げられます。京都を中心にコーヒーショップを多店舗展開する小川珈琲(コーヒーの製造・喫茶店)の場合は、ある若い担当者がそうでした。これからの展開を考えると大卒が必要との認識で採用活動をはじめたのが1990年ごろ。当初は学生からは見向きもされず、社内からは「高卒でいいんじゃないか」との声もあったといいます。でも担当者は諦めずに、関西圏の大学にこまめに足を運んで合同会社説明会に参加したりする一方で、社内の説得にあたりました。やがていろんな人を巻き込みながら全社プロジェクトとして活動をするようになり、いつしか学生からも「幹部候補生を目指すことができる会社」として認識されるようになり、優れた人材が集まってきています。
 このほか、北海道のフュージョンというマーケティング会社は経営者の知恵と工夫で、およそ地方のベンチャー企業としては似つかわしくないほどの優秀な人材を集めています。学生ビジネスコンテストに協賛して知名度が上がっていますし、インターンシップに力を入れています。そして社長が口説いていく。このやり方で優秀な学生をつぎつぎに採用して目下、会社は成長軌道に乗っています。

──いまの世相を反映してか、若い人たちは「就社志向」が強いといいます。中小企業の経営者はそれをうまくくみ取ってあげることも大切ですね。

常見 社会が不安定になったためか、どこかに「居場所」を求めている若者が増えているんです。中小企業には「家族的な温かさ」をもっているところが多い。人とのつながりを求めている若者にとって、中小企業はとてもいい居場所になる可能性はあります。「だから絶対にあなたの会社に入りたいと思っている人もいる」と声を大にして言いたいですね。

──最後に、読者である中小企業経営者に一言メッセージを。

常見 新卒採用に取り組むことは、会社を変えるきっかけとなります。まずは空回りでもいいから、「熱」を放つことからはじめてください。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2014年2月号