金融円滑化法が終焉して9カ月が経過。担保至上主義を捨て定性面を重視する金融機関の姿勢が、徐々に垣間見えるようになってきた。昨秋から次々と発売された、TKC全国会提携融資商品にも、その流れを明確に感じとることができる。

 中小企業経営力強化支援法(2012年8月施行)によって鳴り物入りで導入された「経営革新等支援機関」(認定支援機関)が、12月4日の第11弾認定で、19,788機関となった。この制度は、税務や金融、企業財務に関する専門的知識や支援にかかわる実務経験の高い個人、法人、中小企業支援機関などを、国が「経営革新等支援機関に認定すること」によって、中小企業に対して専門性の高い支援を行うためのもの。具体的には、経営改善計画の策定や、計画のモニタリング、フォローアップなどが認定支援機関のミッションとなる。

 その中心的役割を担うことを期待されるのが、金融機関と税理士。両者が連携し、計画の策定やモニタリングを行うことで、全国の中小零細企業に対応するためのマンパワーの不足を補うことができるし、計画遂行の正確性、信頼性も増す。結果として、中小企業の資金調達もしやすくなり、新たなビジネスチャンスが生じる可能性も高まるというわけだ。

 そんな「正の回転」を生み出す可能性を秘めた制度ではあるが、現在のところはいまだ"アイドリング"の状態を脱していない。というのも、金融機関とともに両翼となるべき税理士の参画がはかどっていないからだ。

「経営力強化保証」の現状

 たとえば、2012年10月にスタートした「経営力強化保証」の現状を見れば、そのことがよく分かる。この制度は、中小企業が金融機関や認定支援機関の力を借りながら経営改善を進める場合に保証料を減免(概ね▲0.2%)するというもので、保証割合は80%。保証限度額は2億8,000万円(無担保8,000万円、有担保2億円)。2013年9月末日まで1年間の保証承諾実績は1,113件(320億円)に上る。

 中小企業庁の事業環境部金融課、森本要課長補佐はいう。

 「100%保証制度は、リーマンショックなどの急激な景気後退期における当面の資金繰り改善や、資金調達の円滑化に寄与してきましたが、民間金融機関による親身な経営支援につながりにくい仕組みとも言えます。この経営力強化保証制度の目的は、金融支援と経営支援を一体的に推進していくことです。現状の活用件数が多いか少ないかの判断は難しいですが、きっちりとした経営策定とモニタリングのセットが条件という制度を前提とすれば、経営支援に力を入れている民間金融機関で活用が進みつつある数字といえるかもしれません」

 逆にいえば、計画策定とモニタリングを行うマンパワーが確保できれば、より多くの活用件数が見込めるということ。金融機関だけでは、中小零細の経営改善にまでとても手が回らないのが現実。数を稼ぐには連携する税理士などの認定支援機関の参画が必須条件である。しかし、森本氏はこう指摘する。

 「いまのところ、ほとんどの活用案件が認定支援機関としての金融機関のみによるものとなっており、税理士などが関わっている案件はごくわずかです。金融機関と専門家の連携による経営支援の推進は、今後の大きな課題のひとつでしょう」

 とはいえ、この制度はまだスタートしたばかり。金融機関以外の認定支援機関からは「何をしたら良いのか分からない」という声も聞こえてくる。認定支援機関としての能力を発揮する「場」がないし、金融機関にとっても、計画策定やモニタリングを一緒にやるには、それなりの信頼感が必要になってくる。ノウハウのないところに任せても、みずからの首を絞めるだけだからだ。

 そんななか、TKC全国会の会員税理士の毎月の「巡回監査」「月次決算」「電子申告」、それらの実践を証明する「記帳適時性証明書」(『戦略経営者』2014年1月号P10参照)、さらには「書面添付」(決算申告確認書)、経営計画の策定、中小企業会計要領準拠――など一連の活動が注目されている。そこには金融機関の信頼を担保する要素が満載されているからである。そして、昨秋来、その信頼性をベースにした新融資商品が続けざまに発売された。

三菱東京UFJ銀行の「極め」

 先鞭をつけたのは三菱東京UFJ銀行のTKC会員税理士(認定支援機関)顧問先向けの融資商品『極め』だった。内容の詳細は本誌昨年10月号をご参照いただきたいが、あらためて掲げてみると(『戦略経営者』2014年1月号P5図表2)、その画期性がよく分かる。基本的には『継続MAS』を利用した中期経営計画と「記帳適時性証明書」(P10参照)の直近期の「◎」が6個以上、ならびにTKCシステムによる自計化などが申し込み条件となっており、さらに、「書面添付」「記帳適時性証明書」(『戦略経営者』2014年1月号P10参照)の「◎」が30個以上、中小会計要領準拠の三つが金利優遇条件となっている。最大金利優遇幅は0.9%で貸出期間は2~5年。総額は1,000億円で、信用保証協会の制度を活用する。経営力強化保証、一般保証のいずれにおいても利用可能だ。10月に発売スタート後、1カ月で100件を超える問い合わせがあったが、商社とメーカーの二つの案件がすでに成約をみているという。

 同行TKC事業室の土居誠室長はこう説明する。

 「1号、2号案件とも金利優遇条件をすべて満たしていたため、最優遇金利の1.3%から0.9%引いて、0.4%での新規融資となっています。いずれも今後の伸びが期待できる企業様で、低いレートで積極的な資金調達ができたと、喜んでいただいています」

 土居室長によると、両件とも、顧問税理士と経営者が、資金繰りを含め、密接なコミュニケーションを築いてきた先で、だからこそ、早めに顧問税理士が経営者に『極め』の存在を紹介し、タイミングよく活用ができたのだという。

 ともあれ、民間銀行が認定支援機関の経営支援スキームをベースに融資商品を発売するのは初めてのこと。土居室長はいう。

 「KFS(経営計画策定、自計化、書面添付)などのTKC全国会の活動自体に当行が共感できることがこの商品の核心だといえます。しかも、経営者が税理士先生方の理念にしっかり応えている。その経営姿勢は将来への信頼と期待にもつながります。われわれはその姿勢に対して支援していこうという考えなのです」

 とはいえ、『極め』活用への最大のハードルは中期経営計画の策定。他の条件はことごとく満たしていたとしても、ここだけがクリアできない企業も多いようだ。

 「逆にいえば、TKCの先生方と顧問先企業様には、この『極め』という商品を、中期経営計画をつくるきっかけづくりにしていただきたいという思いもあります」

 ことほどさように、同行は、この商品による大きな利益は期待できないと考えている。

 「いまの中小企業金融のあり方に一石を投じたいという思いです。その意味でも、この動きが地域金融機関に波及し、より大きな波となることを期待しています」

商工中金「TKC全国会提携融資」

 さて、三菱東京UFJ銀行が期待する第2波の動きはまず、政府系金融機関から出た。商工組合中央金庫(商工中金)の「TKC全国会提携融資(経営力強化)」である。同庫組織金融部の小山君一次長はいう。

 「10年前にTKC全国会との提携融資をつくりましたが、ここ数年は低調な動きで、われわれとしても不本意でした。そんななか、三菱東京UFJ銀行さんの『極め』の概要を見させていただいて、当金庫でも認定支援機関制度を活用した商品を作れないだろうかと考えました」

 メガバンクと違って、商工中金の主戦場は中小企業だけにその意気込みも大きい。活用するのは「経営力強化保証」のスキームで、一般保証では利用できない。とはいえ、金融機関である商工中金と認定支援機関であるTKC会員税理士が連携しながら、金融支援と経営支援を連動させる基本的構造は「極め」と同じである。

 内容的には図表3(『戦略経営者』2014年1月号P6)の通りである。対象となるのは記帳適時性証明書の内容(「◎」の数)が一定レベル(20個)以上(直近2期)で、経営改善計画書を提出していること。貸出金額は1,000~5,000万円。設備資金は7年、運転資金は5年以内の貸出期間。貸出利率は「書面添付」「『継続MAS』導入」「『FXシリーズ』などTKCの自計化ソフトを導入」「中小会計要領のチェックリスト」の4点に該当すればそれぞれ0.1%(最大0.4%)優遇される。

 そもそも商工中金は経営力強化保証制度の活用に熱心で、同制度立ち上げ時期である昨年度実績では全体の40%超を占めていた。とはいえ、当金庫の拠点は、少ないところでは県に一つしかないので限界がある。そんななか、6,300超(第10弾認定まで)が認定支援機関となっているTKC全国会と連携できれば、この認定支援機関制度の普及と中小企業の経営支援に弾みをつけることができるというわけだ。

 「中小企業は、しっかりとした経理セクションがないところもあり、融資の申し込みがあっても試算表がないなど足もとの実績が分からない場合もあります。ところがTKC会計人のもとで巡回監査という月次のモニタリングを行い、記帳適時性証明書(『戦略経営者』2014年1月号P10参照)を発行している先は、リアルタイムの経営状況がつかめるし信頼性もある。TKCの自計化ソフトは過去にさかのぼって改ざんができませんからなおさらです。われわれ金融機関にとっては非常にありがたいですね」

中京銀行の「太鼓判」

 「TKC会計人の理念と活動をきちんと受け止めている経営者の方々には、まさに"太鼓判"を押したい。そんな気持ちを商品名にしました」というのは中部地方を地盤とする第二地銀・中京銀行の小島教彰取締役営業統括部長。三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)の一員である同行だが、「とくに『極め』と連動したわけではない」という。

 ちなみに『極め』は8月に基本案がリリースされたが、「それを見た時に、とても良い仕組みだと感じ、マネをさせてもらいました(笑)。というのも、これは認定支援機関という存在をより有効に機能させるためにはどうすればよいかという議論に応える仕組みであり、われわれが手がければ地域経済の活性化に貢献できると考えたからです」と小島取締役。

 『太鼓判』は経営力強化保証、一般保証のいずれにも対応し、利率1.4~1.5%、最大優遇幅0.9%など、商品の基本概要は『極め』とほぼ同じだが、独自の内容もいくつか盛り込んでいる(『戦略経営者』2014年1月号P7図表4)。たとえば、上限を5,000万円と『極め』の3,000万円よりも高めに設定。付随するプロパー融資も三菱東京UFJの300万円(商品名『T,sコミット300』)を超える額の融資を独自審査の上で提供する用意をし、また、設備投資については最長7年(『極め』は5年)の貸出期間を設定することができる。たとえば、設備投資に7,000万円が必要な場合、上限を超える2,000万円をプロパーで融資するというケースも想定可能という。

 小島取締役はこう表現する。

 「ご承知のとおり、中小企業金融はこれまでのような担保至上主義ではたち行かない状況です。とくにわれわれ地域金融機関は企業の定性部分をより重視していかなければならない。その定性部分の大きなプラス材料として、巡回監査、月次決算、書面添付、適時性証明書、中小会計要領準拠などを通じたTKCの先生方とその顧問先の連携スタイルを評価していこうというのがわれわれの立場です。0.9%という最優遇金利幅の大きさを危惧する向きもありますが、この商品をきっかけにした新規取引先や新規融資の拡大により、採算ベースでのプラスも期待できると考えます」

 つまり、金融機関と認定支援機関としての税理士が、ともに企業を目利きしていく「場」として、中京銀行は『太鼓判』という商品を位置づけているのだという。その意味では『極め』や『TKC全国会提携融資』もまったく同じといえるだろう。

 さらに、師走に入って、トマト銀行(岡山県)が、トマトTKC提携ローン『絆』の取り扱いを開始したとのニュースが飛び込んできた。申し込み条件と金利優遇条件は上記民間2行とほぼ同様で、ベースの融資利率は1.5%。最優遇金利はマイナス0.6%となっている。このほかにも、数行の地域金融機関が、同様のTKC提携融資を検討中だという。

 どうやら、今回、金融機関で相次いでいる認定支援機関制度活用絡みのTKC提携商品の発売は、今後の中小企業金融のあり方を明示しているといえそうだ。

(本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2014年1月号