印刷業といえば典型的な受注産業のひとつ。奈良県内に本社を構える伸光印刷では福留伸一社長(45)のかじ取りのもと、ハード・ソフト両面で先進的な仕組みを導入し、発展を遂げてきた。労働集約型産業の側面を持つ印刷会社の束ね方を語ってもらった。

デジタル化を推し進め広範にわたる媒体を制作

伸光印刷:福留社長(前列中央)

伸光印刷:福留社長(前列中央)

──印刷業を手がけられていますが、どのような印刷物を制作されていますか。

福留 折り込みチラシをはじめ、会社案内、製品カタログ、広報誌など幅広く作成しています。チラシが大半を占めていますが、冊子類も増えてきています。印刷だけでなく企画・デザイン、製本から折り込みチラシの手配までおこなっているのが当社の特徴です。

──メーンの取引先は?

福留 一般企業のお客さまがもっとも多いですね。5年前に印刷通販のホームページ「伸光印刷ネットショップ」を立ち上げ、オンデマンド印刷の注文を受け付けており、個人のお客さまから名刺やフォトブック、同人誌などの制作依頼をいただいたこともあります。あとはCDジャケット。最近ではCDは大量生産せず、枚数限定で発売されることがよくあり、小ロットから対応可能なオンデマンド印刷向きの商材といえます。ネットショップを開設したことで、お客さまのエリアが一気に全国に広がりました。

──社長就任以降、デジタル化に注力されているそうですが、具体的な取り組みを教えてください。

福留 今でこそ当たり前になっていますが、まずパソコンでデザインデータを作成するDTP(Desktop Publishing)を導入しました。工場の印刷機をパソコンで管理している色調に適合する機種に入れ替え、オフィス内のパソコンと接続しました。社内で色の基準を統一できたのが最大の効果です。以前は色合いの微調整を職人技に頼っていたところがありましたが、その必要がなくなりました。
 日々の売り上げや生産工程も業務システムで管理しています。工場でおこなう作業には番号がふられていて、従業員が作業開始時と終了時バーコードを読み取ると、日報に自動的に連動するようになっています。作業時間とコストに見合う適正な価格でお客さまに提案できるようになりましたね。

──社内SNSも活用されておられるとか。

福留 当社には営業、デザイナー、工場スタッフなどさまざまな職種の従業員がおり、部署間のコミュニケーションが滞りがちでした。そこで独自にグループウエアを開発し、業務スケジュールや社内の行事予定を公開して情報共有に役立てています。

──非常にシステマチックに運営されていますね。

福留 当社に入社する前、繊維メーカーでセールスエンジニアとして工場の管理システムの販売や、インストラクターを務めていました。印刷業はよく装置産業ととらえられがちですが、労働集約型産業でもあるというのが私の持論です。同業他社のなかには原価管理体制が確立されていない企業もあり、採算を度外視した価格のたたき合いになっているのが印刷業界の大きな問題点だと思いますね。粗利の見込める金額で見積もりを提示させていただき、たとえば「1年間ご契約していただければこの値段でどうですか」といった交渉に移らせていただくケースもあります。

──業務ごとの粗利を把握することが大事だというわけですね。ところで取引先の開拓はどのようにされていますか。

福留 待ちの姿勢ではじり貧に陥るだけですから、企画・デザインも含めてワンストップで請け負うことができる点を積極的にアピールしています。チラシやカタログにとどまらず、近ごろは会社のホームページを作成してほしいというご要望もよくいただくようになりました。完成後、ホームページの文面などはお客さまご自身で簡単に修正できるため、ご好評いただいています。

手元資金をリアルタイムで把握し設備投資をおこなう

──『FX2』を利用されていますが、導入されたのはいつですか。

福留 10年ほど前です。『FX2』を利用する以前は、3枚伝票に日々の取引を手書きで記入していました。毎月担当者から利益見込みについて報告を受けていましたが、正直ほんまかいなと(笑)。予測と実績のずれがしばしば生じていたんです。いまは『FX2』で業績管理しているので、そんなことはありませんが……。

──注視している指標を教えてください。

福留 月次の粗利とキャッシュフロー、自己資本比率などです。粗利は前年同期と比較し、自己資本比率は同業他社の数値をチェックしています。当社の業種コードは1511(オフセット印刷業)ですが、たいていBAST黒字平均値を上回っている状態ですね。課長職以上の社員が出席する月次の全体会議では、『FX2』の《変動損益計算書》の画面をスクリーンに映し全社業績を説明しています。

──キャッシュフローに注目されているのはなぜですか。

福留 当社では他社に先駆けて高性能の輪転機や製本機を導入しており、最新鋭の設備による高品質なサービスが成長の原動力になっています。その意味でもキャッシュフローをつねに確認し、設備投資のサイクルを回していくことが重要だととらえています。

中屋 福留社長は《変動損益計算書》の仕組みを理解されたうえで、キャッシュフローに気を配られています。借り入れの返済原資をしっかり念頭に置かれたうえで設備投資されているので、われわれも安心感を持っています。

福留 わりと行き当たりばったりだったりもしますが……(笑)。でも巡回監査時に松田さんに《変動損益計算書》の計算ロジックを教えていただき、自分で計算してみて検証できたのは勉強になりました。

松田達夫・監査担当 月次監査で福留社長にお目にかかるときは、《変動損益計算書》の仕入高、水道光熱費といった費用科目の推移をくわしく説明することが多いですね。経理担当の方には毎月800枚ほどの伝票を正確に入力していただいています。

──設備投資にはまとまった資金が必要になりますが、対金融機関という点で『FX2』の評価はいかがでしょう。

福留 金融機関がとりわけ重点的に確認するのは、キャッシュフローと自己資本比率のふたつです。中屋会計事務所さんの指導により日々正確に記帳できているので、決算数値は信用されていると実感しています。お付き合いさせていただいている金融機関から比較的低金利で借り入れができ、非常に助かっています。

──日ごろ、中屋会計様からどのような支援を受けられていますか。

福留 事務所で定期的に主催されている経営セミナーに参加してさまざまなことを学んでいます。直近では経営力強化支援法に基づく補助金の活用方法や、相続・贈与税改正に関する知識を得ることができました。《変動損益計算書》を活用した業績判断、つまり費用を変動費と固定費に分けて考える習慣を身につけられたのが一番大きいです。当社にとって『FX2』はいわばレントゲン。会社全体の健康状態をTKCシステムで診断し、各現場は業務システムや日報で分析するという流れです。気づきはレントゲンを通して得られるわけですから、『FX2』なしではやっていけないでしょう。

──抱負をお聞かせください。

福留 時代の変化に合わせ組織を変革させながらお客さまのニーズに応えていきたいと考えています。具体的には営業、企画・デザインに分かれている部門を統合し、社員が一体となってきめ細かい提案ができる体制を整えたい。また利用中の業務システムの作り替えを行っている最中で、10月には完成する見込みです。あらゆる業種の企業において有効なシステムなので、活用を提案していきたいと思っています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 伸光印刷
設立 1974年11月
所在地 奈良県北葛城郡広陵町笠259-4(営業本部・工場)
TEL 0745-55-4800
売上高 5億円
社員数 35名
URL http://www.shinko-print.co.jp

CONSULTANT´S EYE
業務のデジタル化で業績見通しがクリアに
監査担当 松田達夫 中屋税理士事務所
大阪府大阪市阿倍野区松崎町3-13-3高橋ビル TEL:06-6624-2785
http://www.tkcnf.com/nakayazeirishi/

 伸光印刷様とは、先代社長と当事務所の先代所長税理士が地元青年会議所の活動を通して知り合い、2代にわたるお付き合いをさせていただいており、40年近くになります。

 初代社長がお亡くなりになり、平成9年、当時28歳という若さで福留伸一社長は代表に就任。相当なプレッシャーがあったことと推察しますが、倉敷紡績(クラボウ)勤務時代に培われたコンピューターシステムの知識を生かし、他社に先んじて工場、企画・デザイン業務のデジタル化を次々と実現させてきました。急激な転換だったため、ひと頃は心配しましたが、コンピューター化という時代の波に乗り、会社をここまで成長させてこられました。

 社長就任からほどなくして『FX2』が提供され、活用を提案させていただきました。その後『PX2』(戦略給与情報システム)も導入いただくなど、自計化には早期から取り組まれています。現在では販売・工程管理、さらには原価・在庫管理まで業務システムでおこない、データの一部を『FX2』に取り込み、タイムリーな業績管理体制を構築されるなど、システム化の取り組みにおいては関与先企業様のなかでは随一といえるほどです。当事務所で推進している書面添付、電子申告・納税にもいち早く取り組んでいただいています。

 伸光印刷様では業界で1、2を争うほど早期に導入された設備が多く、つねに他社より一歩先を行かれています。的確な設備投資判断のベースとなっているのが、日々の緻密な業績管理です。売上高をはじめとした科目を取引先別に残高管理し、全体会議では従業員に計数意識を植え付けることを目指されています。福留社長には経営の見通しを明らかにするツールとして『FX2』をフル活用していただいています。

 福留社長はめまぐるしい環境変化を察知し、いっそう会社を発展させていくものと期待しています。今後もその一助となるべく、全力でご支援していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2013年10月号