中小企業の現状突破術のひとつに挙げられる専門店化。世の中には実にいろんなタイプの専門店があるが、必ずしもうまくいっているとは限らない。現在のようなデフレ経済下で専門店として成功するにはどうすればいいのか。繁盛店を取材して、その秘訣を探った。

 マンガ、ペット、眼鏡、宝石、家具、箸、ラーメン……など、世の中には実にさまざまな「専門店」がある。しかし、単に何々専門店という看板さえ掲げれば、万事うまくいくほどビジネスは甘くない。

 もうかっている専門店とそうでない専門店の違いはいったい何なのか。

 ポイントは大別して二つある。一つは、例えば「羊羹なら虎屋」とか「車検だったら何々自動車」というふうに、そのカテゴリーのなかで、真っ先に名前を挙げてもらえるようになることだ。

 そのためにどうすればよいか。キーワードは「初心者にやさしい専門店」。専門店は確かにその分野の特定の人(マニア)を対象にする傾向があるが、最初からマニアックな人などいない。初めはみな素人であり、その人たちにその分野(専門店)の面白さをやさしくわかりやすく伝えて、興味をもってもらい“通”にさせることが肝心なのだ。

 例えば、A氏があるコーヒー専門店に初めて行ったとしよう。コーヒー豆にはキリマンジャロやケニア、モカ、マンデリン、ブルーマウンテンなどがあるが、それぞれ味や香りが微妙に違う。その違いを、店の経営者やスタッフが初心者(A氏)に興味を持ってもらえるようにわかりやすく説明すれば、「今回は強い酸味と甘い香りのキリマンジャロを飲んでみようか」ということになるかもしれない。

 要するに、初心者にわかりやすく伝える仕組みがなければ、その専門店でしか味わえないような商品にトライしてもらえないということ。トライしてもらえなければ、いくら専門店としてよそにない商品をそろえたとしても意味がないのだ。

 それは商品のうんちくなどを語るときも、専門用語だらけではダメだということ。例えば宝石店では値札に「PT」とか「WG」などと書いてあるが、これでは宝石初心者には何のことなのかよくわからない。「プラチナ」「ホワイトゴールド」と書いてあるほうが初心者にとって敷居の低い店と映る。このほんのちょっした顧客への気遣いや気配りを徹底的に行うことで、「何々だったら何々専門店」という印象を人々に抱かせることができるのである。

顧客の悩み事を解決する

 もう一つのポイントは、「この店がなければ困る」というような関係性を築くことである。

 以前、私がコンサルティングしたケースに地方のビジネスホテルB社がある。B社の周囲には大手チェーンホテルが林立し、価格競争では勝てない状況に追い込まれていた。

 そこで立て直しの切り札として着目したのが飲食部門(27席のレストラン)の強化だった。具体的には、それを機に「和タリアン」をコンセプトにして、Bホテルならではの和風パスタをウリにした。

 この店が今、絶好調で、リニューアル前に比べて売り上げを2倍以上に伸ばしているのだが、理由は単にパスタがおいしいからだけでなく、小さな子供を持つ母親から圧倒的な支持を得たことによる。この店がなければ困るような存在にしたわけだ。

 ではどうやって支持を得たのか。答えは、従来、ほとんど使われることのなかった2階の客室(畳部屋1室)を、小さな子供連れの母親たちに貸し切りで利用してもらえるようにしたことだ。畳部屋のため、子供を寝かせることができ、急に(子供が)泣き出しても周囲の顧客に迷惑をかけることもない。また、子供の食事は家から持ち込んでもよいことにしている。その結果、「こんなにくつろいで、楽しく食事ができるところは他にない」という評判が立ち、お母さんたちが幼稚園の会合やランチなどに、利用しだしたのである。

 それはつまり、和風パスタのユーザーのボリュームゾーンを20代・30代の女性であると捉え、さらにそのなかでもターゲットを「小さな子供のいる母親」に絞り込み、その彼女たちが飲食店を利用する際、何に困っているのかを考え、ひねり出した策が「客室(畳部屋)でゆっくり飲食できる場の提供だった」のである。

 これはビジネスホテルの飲食部門を繁盛店にしたというケースだが、通常の専門店でも同じこと。要は、ターゲットとする顧客が困っている問題を解決する方法を提供すれば、「代替のきかない専門店になれる」ということである。

プロフィール
たかはし・こうじ 1966年福島県生まれ。福島大学経済学部卒。有限会社高橋幸司の事務所取締役社長。中小企業診断士。1998年2月から商店専門コンサルティング、講演、執筆活動を開始。2013年は北は岩手県久慈市から、南は長崎県長崎市まで商店大好き店主の商売醍醐味満喫支援中。商店街舞台のグループコンサルティング「ウルトラD」も全国10カ所で展開中。

(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)

掲載:『戦略経営者』2013年9月号