宮前保育園を中心に山梨県内で保育、障害児施設を運営している宮前福祉会。今年89歳をむかえる浅原登美子名誉理事長みずから、TKCシステムへの入力を日々おこなっている。浅原氏と窪田嘉代子園長に『社会福祉法人会計データベース』を活用した組織運営について話をきいた。

きめ細かいサービスで子育て家庭をサポート

社会福祉法人宮前福祉会:浅原理事長(右から2人目)

社会福祉法人宮前福祉会:浅原理事長(右から2人目)

──手がけられている業務内容を教えてください。

浅原 山梨県内4カ所で保育施設と障害児施設を運営しています。保育施設には病院内で受託、運営している保育所も含まれます。

──どのようないきさつで組織を立ち上げられたのでしょうか。

浅原 先代理事長の浅原嘉蔵が甲府市内で認可外の乳児院を開設したのがはじまりです。創設者は長年にわたり警察署に勤務していました。刑事としてさまざまな事件を担当し、幼児期の保育や家庭環境が犯罪抑止のうえで重要であるということに気づき、退職後ふたりで乳児院を設立しました。その後、認可申請をへて現在の宮前保育園となり、社会福祉法人宮前福祉会として法人化を果たしました。

──宮前福祉会の特色を教えてください。

浅原 「子どものいる暮らし応援ステーション」をスローガンにかかげ、子どものいる暮らしを豊かにするさまざまな支援サービスを展開しています。中核施設の宮前保育園では閉園後の「延長保育」やお子さまの「一時預かり」、地域における子育て中の親子の交流を促進する「地域子育て支援拠点事業」などをおこなっています。
 夢があふれる空間で豊かなこころを育んでもらいたいと願い、保育園の建物は「赤毛のアン」をテーマに設計しました。総勢60人のスタッフで200名近くの園児を受け持っています。

──ISOの取得に力を入れられているようですが……。

浅原 品質マネジメントシステムである「ISO9001」を2001年に取得したのを皮切りに、「ISO14001(環境マネジメントシステム)」、「ISO10002(苦情対応マネジメントシステム)」の認証も受けました。
 10002を取得した教育機関はわれわれが初めてだったようで、反響が大きかったですね。ある保護者の方に対する苦情対応の反省から、内部体制を改善するべく09年に取得しました。それ以前にISOを取得したときのノウハウを活用できたため、それほど難しいとは感じませんでした。取得後は定期的に検査を受けています。

──フェイスブックも活用されているそうですね。

窪田 昨年4月に宮前保育園のページを立ち上げました。私たちはお子さまたちが成長していく様子を日々目の当たりにできますが、親御さんはその機会がなかなかないものです。言葉や文章では伝えきれない出来事も映像や画像ならひと目で理解してもらえるので、こまめにクラスの写真をアップしています。
 それとメリットとして感じているのは、リアルタイムで情報発信できる点ですね。午前中に撮影した写真を当日のお昼ごろには掲載するようにしているので、お子さまが帰ってきたあと、その日の出来事についてより実感をもって会話ができるのではと感じています。いまでは多くの親御さんに輪の中に加わっていただいています。

──どなたが経理業務を担当されていますか。

浅原 創設以来、私が一貫して会計業務を担当してきました。というのも以前、出身地の長野県で公務員として働いていたとき会計を担当していたこともあり、経理の仕事はもともと好きなんです。専業主婦として家の中にずっといるのがきらいな性分なものですから(笑)。およそ40年間、日々の取引伝票から総勘定元帳まで手書きでつけていました。5年前に窪田(宮前保育園)園長といっしょに会計ソフト会社主催のさまざまな説明会に参加し、もっとも気に入ったTKCの『社会福祉法人会計データベース』を利用することに決めました。

財務数値の見える化により現状をリアルタイムで把握

──システムの入力も浅原名誉理事長がおこなっているのですか。

浅原 ええ。長年手書きによる起票に慣れていましたが、入力方法をひと通り教えてもらったので、スムーズに移行できました。いまでもほぼ毎日入力しています。月間の仕訳数はおよそ500件ぐらいでしょうか。日ごろパソコンを使って電子メールをやりとりしたり、資料を作成したり、園内の情報掲示板もチェックしていましたので、システム化に対してとくに抵抗感はありませんでした。

──それはすごいですね。

浅原 私がいままで現役で仕事に取り組んでこられたのは、窪田園長の励ましと支えがあったからだと思っています。先日も80歳にしてエベレストに登るというニュースが報じられましたが「登山家の三浦雄一郎さんを見習いなさい」とよく言われるんです。職員の育成は園長に任せていますが、私たちが指示しなくても率先して行動してくれる人たちばかりです。

──システム化による効果のほどはいかがでしょう。

浅原 入力したデータが正確に集計されるので助かっています。手書きで経理をおこなっていたときは、何度も電卓で検算して計算結果に誤りがないか確認したり、手間がかかっていました。でも今は入力さえ間違えなければ、ボタンを押すだけで見たい資料が即座に画面に出てきます。わからない点は深沢会計さんに質問すれば教えていただけますし、安心して操作できるところがいいですね。

窪田 一般的に社会福祉事業は景気動向にあまり左右されないと言われますが、受託事業である病院内保育施設は、契約金や利用料などの収入が急激に下がることもあります。そのあたりの動きを数字で追えるようになり、気づきを得られるところが役立っています。

深沢税理士 宮前福祉会様ではTKCシステムをフル活用されており、証憑書類を貼るのもシステムから出力された用紙を使われています。

──ふだん活用されている機能について教えてください。

浅原 「収支予算残高の確認」画面をひらき、科目ごとの予算執行率をよくチェックしています。とくに重点的に確認しているのは電気代や水道光熱費で、気付かないうちに前月にくらべてアップしていたということがよくあるからです。ISO14001を取得しているため、無駄な費用を削るうえでも有効だと感じています。
 毎年3月、5月、11月に開催している理事会では、『事業活動計算書』や『資金収支計算書』を出席者に配布しています。ただすべての施設でTKCシステムを利用しているわけではなかったので、各拠点から上がってきたデータを本部で集計しなおし、スプレッドシートで独自の資料を作成していました。この作業がけっこう負担になっていて、転記ミスの不安もありました。

──『FX4クラウド』(社会福祉法人会計用)に移行されるとうかがっています。

窪田 クラウド化により、4月からは施設ごとに伝票を分散入力できるようになります。決算に際しての集計作業の省力化につながるだけでなく、データのバックアップもTKCデータセンター(TISC)でおこなえると聞いていますので、いっそう安心して利用できます。クラウド型のシステムでなければ、ほかのシステムへの移行を検討していたかもしれません。深沢会計さんともインターネット回線を通して、随時同じ画面を見ながら相談できるのは心強いですね。

──今後の構想をお聞かせ下さい。

浅原 いままでは会計処理を1台のパソコンでおこなっていたため、特定の職員しか財務データを見る機会はありませんでした。今後は各拠点から伝票入力でき、現場の職員が資金の入出金の動きや、予算の執行状況を把握できるようになります。財務情報を理解するスキルを3年間ぐらいかけて育成していきたいと思っています。最終的に現場の管理職スタッフが予算書の中身を理解し、組織を運営できるようになるのが目標です。お子さま一人ひとりの人生を考え、大人になられたときに「宮前に通っていてよかった」と感じてもらえるような施設を運営していくのが使命だと思っています。

※取材日は3月28日 (本誌・小林淳一)

会社概要
名称 社会福祉法人宮前福祉会
設立 1968年9月
所在地 山梨県甲府市岩窪町379
TEL 055-252-7777
職員数 120名
URL http://www.kidskiss.jp

CONSULTANT´S EYE
『クラウド』化により安心感を高める
税理士 深沢邦秀  深沢邦秀税理士事務所
山梨県甲府市朝気1-1-30 TEL:055-235-5533
http://humanoffice.net/

 宮前福祉会様とのお付き合いは、今年で10年になります。これまで監事をつとめさせていただき、この春から会計顧問もお引き受けすることになりました。

 浅原登美子名誉理事長は、42年前に今は亡きご主人とおふたりで、保育園と知的障害をもつ子供たちの施設を開設されました。ご主人の前職は刑事だったそうです。日々、事件の捜査にあたるなかで幼児教育の大切さを身をもって感じられたことが、施設を立ち上げるきっかけになったという話をききました。浅原名誉理事長は、初代理事長であるご主人のあとを引き継がれ、理事長職と保育園部門の経理を一手にこなされてきました。

 長年にわたり手書きで経理業務をおこなわれていましたが、10年前にTKC自計化システム『社会福祉法人会計データベース』を導入されました。以来現在にいたるまで、おひとりで宮前保育園関連の4つの事業所の経理業務を担当されています。振り返れば喜寿をこえてからのパソコン会計業務への挑戦であり、頭が下がる思いです。今では電子メールのやりとりなど、ふだんからパソコンをフル活用されていて、領収証等も『社会福祉法人会計データベース』から出力した証憑書貼付用紙に貼り付けて管理されています。

 昨年11月、浅原先生は理事長職を退かれ、名誉理事長に就任されました。いまでも毎日早朝に出勤し、終日勤務されています。今年89歳を迎えられますが、“現役”として働きつづける浅原先生の姿は、皆様にきっと勇気を与えてくれるものと思います。

 4月から新会計基準に準拠した『FX4クラウド社会福祉法人会計用』に移行していただきます。これまで障害者施設の経理業務は、市販のソフトで処理されていましたが『クラウド』版の利用により、各地の施設から伝票入力できるようになります。スムーズに運用をしていただけるよう、事務所スタッフ全員でお手伝いさせていただきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2013年6月号