金融円滑化法の終了により、企業倒産の増加が懸念される昨今。そこで中小企業経営者に財務経営力を身につけさせ、実現性の高い抜本的な「経営改善計画書」策定支援の担い手として注目を集めているのが「認定経営革新等支援機関」だ。そんな認定支援機関を活用した経営改善の進め方を探ってみた。

 「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、そもそもどういうものなのかを教えてください。

 認定支援機関とは、2012年8月に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、同法に基づき中小企業の経営力強化を支援する担い手として、主務大臣に申請し認定された個人または法人のことです。
 主な認定基準は(1)税務、金融および企業の財務に関する専門的知識を有していること(2)支援に関わる実務経験を一定程度有していること(3)長期かつ継続的に支援業務を実施するための体制を有していることです。これまでに税理士や税理士法人、弁護士、公認会計士、中小企業診断士、金融機関など6,740機関が認定されています(13年3月21日現在)。
 この認定支援機関が創設された背景には、国の中小企業政策が変わってきたことがあります。具体的には、中小企業が内外の厳しい企業間競争を勝ち抜いていくためには「戦略的経営力」を強化することが必要だと考え、そのための方策として「財務経営力」など4つをあげています。
 財務経営力とは、一言でいえば経営者自らが「数字」(会計)に明るくなり、PDCAサイクルを回して“強い会社”になっていくことを指します。そして、この財務経営力を経営者に身につけさせる方法として国が考えたのが「中小会計要領」(12年2月公表)と認定支援機関でした。つまり、中小企業の経営実態に即した会計基準として中小会計要領を作り、これに基づいて正確な決算書を作成する“経営力”を身につけさせる指南役として認定支援機関を設けたということでしょう。
 会計基準が中小企業の実態に即したもの(中小会計要領)でなければ、常に正確な経営状況をつかむことができず、計画を立てても砂上の楼閣となってしまいます。

 認定支援機関は、今年3月末で終了した「中小企業金融円滑化法」の出口戦略の一つとして作られたともいわれているようですが……。

 そういう側面もあります。金融円滑化法は、09年12月に中小・零細企業の資金繰り対策として施行されましたが、その後、2回延長されて今年3月末で終了しました。
 以前は、金融機関に返済条件の変更(リスケ)を申請すると貸出条件緩和債権として不良資産とみなされ、自己査定の債務者区分が下がるおそれがありましたが、金融円滑化法に基づき条件変更を行った場合は、「実施日から1年以内に経営改善計画書を提出すれば貸出条件緩和債権に当たらない」としたわけです。その結果、12年9月までにリスケを申請した件数は約370万件、利用企業数は30~40万社と推定されています。
 このうちどれくらいが計画通りに業績が改善されて息を吹き返したのか、あるいは再建途上なのかはわかりませんが、新聞などの報道によれば、金融庁は事業再生や転業が必要な会社は5万~6万社とみているようです。もし同法終了にあたり、何ら対策を講じなければ、多くの中小企業が窮地に立たされ、倒産が急増し地域経済に深刻な打撃を与えることが考えられます。そこでその影響をおさえ、“リスケ企業”の再生をサポートする装置として、認定支援機関を設けたということではないでしょうか。
 実際、金融庁は「その日」(期限切れ)に備えて地ならしを行ってきました。例えば10年12月、最初に金融円滑化法を1年間延長すると公表したとき、金融機関に対してリスケ企業にコンサルティング機能を十分に発揮するようにと言っています。そのための方法として、DES(デット・エクイティー・スワップ)やDDS(デット・デット・スワップ)等の活用を促すとともに、コンサルティング機能の発揮状況を通常の金融検査の中で実施するとしました。
 しかしながら、金融機関のコンサルティング機能は思うようにうまくいってないのが現状です。理由は、対象企業数が多いことや、金融機関に事業再生のノウハウを持つ人材が不足していることによります。そこで、それを補うため、中小企業のホームドクター的な役割を果たしている税理士などに協力してもらうスキーム(認定支援機関)を考えたのでしょう。
 とはいえ、どんな名医でも治せない病気があるように、認定支援機関に事業再生をお願いすればすべてうまくいくわけではありません。事業再生成功の分かれ目は「営業利益」を出せるかどうかにあります。本業で営業利益を出すことができないような会社に、いくら認定支援機関がサポートしても難しいと思います。

財務・事業リストラを軸にした「実抜計画」

 中小企業の事業再生を支援する担い手として、政府は(1)認定支援機関(2)全国の中小企業再生支援協議会(3)地域経済活性化支援機構(今年3月18日発足)の3つを考えているようですが、それぞれの役割と支援対象を教えてください。

 まず地域経済活性化支援機構についていえば、日本航空などの支援を行った「企業再生支援機構」(09年10月発足)を衣替えしたもので、個別企業と地域の複数企業(例えば温泉地の旅館業等)の再生が支援対象とみられます。ただし、新聞報道によれば、中山製鋼所(東証1部)の再生支援を決定したようで、比較的規模の大きいところも、その対象に入っているようです。
 一方、中小企業再生支援協議会は全国の商工会議所などに拠点を置き、専門家を常駐させて窮境にある中小企業の無料相談や事業再生計画の作成支援を行っているところですが、今年3月協議会内に「経営改善支援センター」を新設しました(関連記事『戦略経営者』2013年5月号20頁参照)。
 同センターは、政府が12年度補正予算で立ち上げた「認定支援機関による経営改善計画策定支援事業」(405億円)の窓口業務に当たります。その内容は、中小企業と認定支援機関が連名で、経営改善支援センターに同事業の利用を申請すると、総額300万円を上限に、その3分の2の費用が支援されるというものです(関連記事『戦略経営者』2013年5月号12頁参照)。

 認定支援機関が策定支援して同センターに提出する経営改善計画書と、従来、リスケ企業が金融機関に提出していた経営改善計画書とでは何が違うのでしょうか。

 これまでリスケ企業が提出していた経営改善計画書がどの程度のレベルのものだったかは、一概にはいえませんが、事業再生や転業が必要とみられる会社(5万~6万社)のものは「実現性の高い抜本的な経営改善計画書(実抜計画)ではなかった」といってよいでしょう。実抜計画なら「復活」を果たしていたでしょうからね。
 企業再生の手法にはいろいろありますが、大別すると、(1)財務リストラ(2)事業リストラ(3)業務リストラの3つがあり、(1)と(2)は外科的治療、(3)は内科的治療のことです(『戦略経営者』2013年5月号10頁図表1参照)。おそらくこれまでリスケ企業が金融機関に提出していた経営改善計画書というのは、(3)の業務リストラに軸足を置いたものが多かったのではないかとみられます。
 業務リストラとは、売上原価の低減や販管費の削減などを行うことですが、これだけでは復活できずに事業再生や転業を求められている企業が5万~6万社もあるということでしょう。そうした企業はたいがい債務超過[負債(債務)が資産(財産)を上回ること]のため、もはや外科的治療を行わなければ助からないわけです。
 認定支援機関が主に支援対象としているところは、そうした企業と考えられるため、同センターに提出する経営改善計画書は業務リストラに加え、財務リストラと事業リストラも盛り込んだ実抜計画でなければダメでしょう。図表2(『戦略経営者』2013年5月号11頁参照)でいえば、認定支援機関の支援先はファーストステップのリスケだけでなく、セカンドステップの(法的整理以外の)私的整理(中小企業再生支援協議会や地域経済活性化支援機構等で再生支援を行うこと)までを対象にしているということです。

 財務リストラと事業リストラについて説明してください。

 財務リストラとは、端的にいえば過剰債務を減らすこと。その手法として、不動産や株式、ゴルフ会員権などの売却、DES・DDS等の活用による債務の圧縮、ファンドからのエクイティー導入などがあげられます。最近、地域金融機関の間で中小企業向け再生ファンドが設立される動きが顕著になっていますが、これもその一環にほかなりません。
 一方、事業リストラとは、事業の選択と集中、M&A(企業の合併や買収)、第二会社方式などを行うことです。財務リストラ、事業リストラとも貸借対照表(B/S)にポイントを置き、経営改善を行って債務超過の解消と有利子負債の償還を果たすのが狙いです。

金融機関と"協議"する際のポイントは何か

 どういう形で認定支援機関に事業再生支援の依頼がくるのでしょうか。

 中小企業から直接事業再生の依頼がくるケースもあれば、金融機関経由などでくるケースも考えられます。一般的に返済猶予期間は平均6カ月といわれており、その期限がきたときにリスケ企業と金融機関は次の条件変更をめぐって話し合うことになります。今までは金融円滑化法によって延長(返済猶予)がほぼ認められていましたが、今後は認められないケースや早急な事業再生などを求められるケースも出てくるということです。こうした事態に立たされたとき、認定支援機関に事業再生(経営改善計画書策定)の支援依頼がくるのではないかとみられます。

 認定支援機関が策定支援する経営改善計画書のなかには、「デューデリジェンス(DD:対象企業の資産価値や収益力などの調査・分析を行うこと)も含まれているといわれていますが。

 そうだと思います。DDには主に事業、財務、法務の3つがありますが、なかでも事業DDと財務DDは事業再生計画を作成するうえで必要不可欠なものといえます。
 例えば、ある会社の決算書をみると、表面的には資産超過で内部留保があるようでも、実は減価償却費不足であったり売掛金の焦げ付きがあったりして債務超過だったということがあります。つまり、いい加減なバランスシートに基づき再生計画を立てれば砂上の楼閣になってしまうということ。だから支援対象先が債務超過なのかそうでないのか、もし債務超過であるとすれば、どれくらい超過しているのかを正確につかんだうえで実抜計画を作成しなければ意味がありません。このように帳簿価格と時価との乖離などを調査するのが財務DDです。それに対し、事業DDとは、当該企業の製造力・販売力、本業の将来性などを調査・分析することをいいます。

 このようにして計画が作成されると、中小企業経営者は認定支援機関と一緒に金融機関との協議に入るのでしょうか。

 基本的にはそうです。支援対象先の企業規模にもよりますが、取引金融機関が4、5行などの場合は「バンクミーティング」が行われ、2~3行程度の場合は各行を回って協議することになります。バンクミーティングとは取引金融機関を一堂に集めた会議のことですが、そのポイントは各行へ同時に同一情報を開示して債務超過を解消することができる経営改善計画になっているか、あるいは有利子負債の償還が本当にできる計画になっているかです。
 例えば支援対象企業の有利子負債が1億5,000万円(5年返済)、年間フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)が1,000万円だったとします。この場合、5年で有利子負債を返済することはできないため、DDSを使って債務の圧縮をはかることが、一つの解決策として考えられます。つまり、(1)例えば5,000万円をメーンバンクにDDSしてもらう(2)残り1億円については返済期間を10年に延ばしてもらい償還(3)その償還が終わった後でDDS分を返済するわけです(関連記事『戦略経営者』2013年5月号21頁参照)。
 このように過剰債務で事業継続が困難になっているような場合、メーンバンクに対してはいくらDDSしてもらうか、他の金融機関に対しては返済期間をどの程度延ばしてもらうかなどについて話し合い、そのうえで各行から「合意」を取り付けます。協議は経営者が主体的に行い、認定支援機関はその補佐役として参加します。合意が得られれば、その内容を盛り込んだ形のものに一部改めたりして、経営改善計画書(実抜計画)を作り、それを経営者と連名で、経営改善支援センターに「同事業」の利用を申請すれば補助金が支給されるというわけです。
 しかし、認定支援機関の支援はこれで終わりではなく、その後の進捗状況を定期的にモニタリングして、その結果を経営改善支援センターに報告することになっています。それは、経営改善計画として立てた「全社および部門別予算」などが目標通りに推移しているかどうかを月次ないし隔月ベースでチェックするというものです。こうした経営の仕組み(PDCAサイクル)に改めて、収益力を高めていくことが事業再生に通じる道だと思います。

(インタビュー・構成/本誌・岩﨑敏夫)

掲載:『戦略経営者』2013年5月号