国内生産による品質にこだわった衣料を企画、製造するマルチョウ。ファストファッション全盛のなか、綿密な数値管理と提案力を武器に、大手セレクトショップと高級百貨店ブランドの販路を確立している。「数字はうそをつかない」と話す長谷川直樹社長に粗利重視の経営戦略をきいた。

取引先と一体となり“こだわりの1着”をつくる

マルチョウ:長谷川社長(右)

マルチョウ:長谷川社長(右)

──衣料品を製造されているそうですね。

社長 若者向けのカジュアル衣料を手がけていて、主力製品は生地が伸び縮みするカットソーといわれる洋服です。岩手県と栃木県にある自社工場のほか、国内各地の協力工場で製造しています。製品の特徴は社名の由来にもなっていますが「丸編み製法」による品質の高さ。取扱店のなかには大手有名セレクトショップも数多くあります。

──商品開発もされているのでしょうか。

社長 ええ。設計、企画段階から携わっています。アパレル各社とともに、展示会の出展商品を開発する機会も増えてきました。受注生産型のいわば受け身のものづくりではなく、お客さまと一緒に作りあげていく企画提案力を当社には期待されていると感じています。

──提案力の源泉は何ですか。

社長 新たに導入した、ファッションデザイン専用のCADシステムの効果が大きいですね。以前はサンプル製品をイラストで描いていましたが、よりリアルなグラフィック画像でお客さまに提案できるようになりました。たとえば洋服のボーダー柄の太さや間隔、配色の組み合わせを確認できるので、お客さまのニーズにきめ細かく対応できます。これによって提案力の向上が図れたと同時に、見本ロスをかなり削減できているのではないでしょうか。ただ、導入費用がそれなりにかかり使いこなすのもなかなか難しいので、同業他社にはそう簡単にまねできない当社ならではの強みだと思っています。

──操作をマスターした専任の社員がおられるわけですね。

社長 当社ではパタンナーという職種を設けています。パタンナーは注文をいただくと、CADシステムで型紙をつくり、製品のファーストサンプルを仕上げます。営業担当者が取引先に提示し、OKがいただければあらためて量産用の型紙データをつくり、製造工場に送信するという流れです。
 工場では立体裁断機で自動裁断していくので、パタンナーは間違いの許されない重要な業務を担っています。われわれが手がけている製品は、企画、製造、営業それぞれを担当する社員が一気通貫となって、はじめて成立するんです。

──ファッション業界は流行の移り変わりが激しいと思いますが、市場ニーズを探るためどのような活動をされていますか。

長谷川剛専務 ファッションの先端をいく有名セレクトショップとの取引が多いこともあり、マーケットのニーズが集まりやすい環境にあると思います。街なかのお店にどんな商品が並んでいるか調べまわったり、素材メーカーと情報交換することもあります。

社長 近年ではむしろアパレルブランド側が、われわれに情報を求めていると思われ、その意味で当社の提案を受け入れていただく土台ができているのかもしれません。

──季節によって売り上げが変動するのでは……。

社長 春夏もののファッション衣料が中心のため、例年1月から8月にかけてがもっとも忙しいですね。秋冬向けの長袖カットソーやパーカーなども、お盆前までに生産し納品も終えていますから。ただクールビズやウオームビズが広まり、カジュアル衣料が求められるシーンは年間を通して今後ますます増えていくのではないでしょうか。秋、冬に売り上げが落ちるため、月次で業績をしっかり把握し、綿密な計画を立てることが非常に重要だと感じています。

ブランド別粗利管理を徹底し週次で的確な打ち手を施す

──長年『FX2』をご利用されているそうですね。

社長 顧問税理士の中原先生が独立開業されるまえ、監査担当者として訪問されていたころから利用していますので、18年目になります。売り上げが右肩上がりだったころは、会社の数字をあまり重視していませんでした。バブルがはじけた時期に、当時お世話になっていた故・木内太郎(税理士)先生が主宰されていた経営者塾に1年間参加し、財務データの重要性がわかったんです。

──『FX2』から出力される帳表で活用しているものはありますか。

社長 〈勘定科目別残高一覧表〉を参考にしてスプレッドシートで「ブランド別売上高一覧表」を作成しています。一覧表を見れば力を入れるべきブランドがひと目で判断できるので方針を立てるのに役立っています。当社で注目している数値は売上高ではなく、あくまで粗利率と粗利額。〈変動損益計算書〉の考え方を非常に大事にしています。
 毎週開催している営業会議では、直近のブランド別粗利率を確認しながら目標を達成する方法について社員と議論しています。たとえば「あなたはこの目標年間受注額を掲げているけど、粗利率は当社の基準を下回っている。粗利額で攻めていくんですね」といったやりとりをするわけです。営業マンは1人あたり7ブランドほどを担当していますが、具体的な数字をもとに報告することを徹底させています。

中原徹顧問税理士 マルチョウ様では「資金管理表」や「銀行別預貸率表」など、さまざまな経営分析資料を独自に作成されています。

木内健次副監査担当 社長の話された経営者塾は後継者塾として現在も続けています。専務と常務のお二人に毎月出席していただき、財務データの見方などもご説明しています。

──月次監査で話し合う内容を教えてください。

社長 中原先生に前月の取引をひと通り監査していただいたあと、専務、常務もまじえ、現状の数字の確認をおこなっています。

中原税理士 ベースである日々の経理業務がしっかりされているので、『FX2』の入力データに関しては修正する項目がほとんどないほど完璧な状態です。

社長 実はいっとき他の会計ソフトに移行した時期もありましたが、出力されるデータがあまりにも想定していたものと違っていたので、2カ月ほどで利用をやめました。『FX2』で確認できるデータは非常に大切ですが、あくまで過去の数字です。過去よりも、将来を予測し計画をいかに立てるかのほうがより重要だと思っています。

金融機関担当者も参加する業績検討会が定着化

──目標はどのように立てられているのでしょうか。

社長 『継続MAS』で短期、中期の経営計画をつくっています。一つひとつの費用科目ごとの増減を予測し、月次で数字を落とし込んでつくるのです。当社は5月決算ですが、申告月である6月には当期の利益計画ができあがります。短期で立てた目標は『FX2』に予算として登録しています。

──計画の進捗を確認する場は?

社長 中原先生から四半期業績検討会の開催を提案していただき、2年がたったところです。最近では金融機関の担当者にも出席してもらっています。『FX2』の数字はさかのぼって修正できないので、対外的な信用力が非常に高いと感じています。逆に言うと、誤り等を訂正できないというこわさもありますが……。完成した経営計画書は毎年銀行に提出しており、当社は数字に関しては非常にオープンな会社です。

──社長はさまざまなITツールを使いこなされているとか。

社長 モバイルパソコン、タブレット、スマートフォンをいつも持ち歩いていて、経理担当者から送られてくる業績データを日々チェックしています。自宅にいるときや移動中、『社長メニュー(ASP版)』をひらき、最新業績をリアルタイムで確認するのにも活用しています。とにかく思いたったら、すぐに会社の数字を見ることができないと気がすまない性格なんです。

──今後の抱負をお聞かせ下さい。

社長 当社は来年創業60年の節目を迎えます。販売店とダイレクトで取引するルートの開拓を模索しつつ、ファッションに興味を持つ人びとを引きつける高品質な衣料をこれからもつくっていきたい。消費者のみなさんに心がはずむような1日を過ごせる洋服を提供していくのが目標です。今後もそれをよろこびとするODM企業でありたいですね。目指しているのは100年企業です。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社マルチョウ
設立 1954年6月
所在地 東京都墨田区石原1-6-5
TEL 03-3626-3900
売上高 9億3,000万円
社員数 15名

CONSULTANT´S EYE
業績検討会と後継者塾を通し経営全体をサポートします
主幹 木内健次  税理士法人TKネットワーク
東京都葛飾区西新小岩4-42-12 磯間ビル601号 TEL:03-6662-8650

 マルチョウ様とのお付き合いは、私の父の代から続いており、かれこれ20年近くになります。マルチョウ様は高品質な製品づくりをモットーにかかげ、メード・イン・ジャパンに誇りをもって取り組まれているアパレルメーカーであり、有名ブランドの商品も数多く手がけられています。

 長谷川社長は、社内のIT化・合理化にいち早く着手し、財務管理に対する考え方も厳格であり、関与当初から『FX2』を積極的に活用いただいています。決算後2カ月以内には、当事業年度の戦略を十分練られたうえで予算を作成し、『FX2』上でつねに予実対比をされています。そこで当事務所では、業績検討会の開催を提案し、四半期ごとに実施していただいています。検討会は専務、常務のほか、営業、経理責任者にくわえ金融機関担当者も出席し、会社の業績をオープンにし、情報共有をはかる場となりました。

 またマルチョウ様では、『FX2』、『継続MAS』の各種帳表をもとに「ブランド別限界利益推移表」をはじめ、さまざまな経営分析資料を独自に作成されています。社員に経営方針を明らかにするとともに、数値面からのアプローチを徹底させるうえで役立っています。最近では、モバイルパソコンによる『社長メニュー(ASP版)』の活用により、いつでもどこからでも業績を確認できる環境を整えさせていただきました。「過去数値は終わったもの。予算化した未来数値をいかに実現するかが重要」という社長の持論に多少なりとも貢献できたのではと考えています。

 今後は詳細なブランド別管理を『FX2』でいかにわかりやすくデータとして確認いただけるかが課題だととらえています。当事務所では、関与先企業における事業承継を見すえ「後継者塾」を定期的に開催しており、専務と常務のお二人も毎回参加されています。これからもマルチョウ様の経営全般をサポートし、信頼にこたえられるよう全力を注いでいく所存です。

掲載:『戦略経営者』2013年4月号