もともと「倫理的」という意味を持つ、エシカル。貧困問題や環境問題といった、社会的課題の解決に役立ちたいという思いを体現する消費活動が活発になってきている。人びとの貢献意欲を刺激するには、どんな視点に立った販売促進手法が有効かをさぐってみた。

 社会貢献の要素を取り入れた、いわゆるエシカル商品を扱うお店が近ごろ増えてきました。たとえばエスニック衣料を販売しているチチカカ(『戦略経営者』2013年4月号24頁参照)。売り上げの一部が途上国の生産者に還元され、伝統文化保護に役立てられています。以前はごくひと握りのコアなファンのための店という印象が強かったのですが、今ではショッピングモールの中に次々と出店しています。

 こうしたフェアトレード商品が広く受け入れられるようになった背景のひとつとして、学校教育の影響が挙げられます。現在20代前半の世代は、学校でエコや社会貢献をテーマとした何らかの教育を受けていて、誰かの役に立ちたい、あるいは迷惑をかけたくないという思いを持っています。かつて消費の牽引役だった車があまり魅力的にうつらないのは無理もありません。車を運転することは地球温暖化の一因になるとみなしているからです。自動車メーカーもこの状況はまずいと気づいていて、車がいかに世のため、人のため役に立っているか「出前授業」と称して学校で教える時代になりました。

 バブル経済崩壊以降、流れとして競争社会から「つながり」を求める社会に変化していきました。1999年に「癒やし」という言葉が流行語になりましたが、誰かと競争し相手を打ち負かすのではなく、肩の力を抜いて周囲の人々と手をつなごうとする価値観が広がります。

 まわりや社会の役に立ちたいという思いが行動となって顕著に表れはじめたのは、3.11以降です。旅行会社が企画する「被災地支援ツアー」の多くは、あっという間に定員になるそうで、参加者のほとんどは20~30代の女性といいます。

拡散力のあるエシカル商品

 「誰かのために役に立ちたい」というツボを刺激するためにはどんな方法があるでしょうか。

 まず定期的に生産者や作り手の思いをつたえる“場”をもうけ、つながりを消費者に意識させることが有効です。

 以前取材したことがあるのですが、農家の販路拡大を支援している六本木農園では、毎月「農家Live」というイベントを開いています。生産者である農家の人たちがどんな思いを持って農作物を育てているかプレゼンをおこない、実際に食べてみて、感想を直接伝えたり、栽培の苦労を知ることができる場となっています。直営レストランはおしゃれな雰囲気のため、当初女性客が大半だったそうですが、最近は中年の男性客も増えていて、家庭菜園をはじめる人もけっこういるようです。

 つぎに商品やお店の情報を定期的に発信し、消費者の意識を喚起することも大事です。

 従来からの「マス型」広告の効果がまったくないとはいえませんが、消費者はただ情報をうのみにせず、本当に正しいのかネット上の口コミサイトやSNSで検索して確かめています。ネットショッピングやネットオークションなどさまざまな購入方法があるなか、「あの店でまた買いたい」と思わせるためには、つねに自社(お店)の存在をアピールしないと忘れ去られてしまいます。ホームページをつくらなくても、フェイスブックやツイッターで簡単に情報を発信できる時代になりました。メールマガジンも有効な手段といえます。

 いわゆるエシカル商品はソーシャルネットワーク(SNS)で拡散されやすいという特徴もあります。一般の商品の口コミ情報を露骨に広げるのはセールスと受け取られかねませんが、社会貢献につながる情報は広まるのが速い傾向があります。

 社長や店長ではなく、できれば店員が発信したほうが説得力がより増すでしょう。スタッフがお店の公式ブログ等で「こんなおすすめの新商品を店頭にならべてみました」と写真入りで発信するのです。ネット上であれ、店頭のPOPであれ、顔の見えるスタッフが勧めているという要素がものをいいます。

 とくに若い世代は先生の言うことはきかないけど、同級生が言うことならきくといった一面をもっています。読者モデルが人気なのもうなずけます。同じ目線で話せる人に対しては共感しますが、「これは社会に役立つ商品だから買いましょう」と指導されるかのようにすすめられると、拒否反応を示します。

 商品の見せ方にも工夫が必要です。店員によるメッセージカードを商品に添えたり、プレゼント用のラッピングをいろいろ用意したり、いくつかの商品をパッケージ化して売る方法もあります。景気が上向かず金銭的な余裕がないなか、誰もが買い物で失敗したくないという思いが強く、「共感できる人が勧める商品なら安心」という安心感を求めているのです。

巨大なつぶやき消費市場

 物欲が本当に弱くなってきているな──。最近、若い人たちにインタビューをしていると、そう感じることが少なくありません。たとえばアイパッドミニなど話題の新製品でも「興味はあるけど、今すぐ買わなくてもいい」というような考え方なのです。

 ところで「つぶやき消費」という言葉があるのをご存じでしょうか。SNSで感想をつぶやいて、まわりの反応を確かめる消費行動のことです。あるシンクタンクでは、市場規模は年間4,600億円にのぼると試算しています。人びとはまわりから「いいね!」とか「何それ?」とか共感されたり、つっこまれたりして誰かとつながるために消費したいと考えています。いま話題の伊勢神宮をはじめとするパワースポットめぐりや、B級グルメなどがその例です。

 社会貢献につながるエシカル商品も、つぶやき消費との親和性は高いといえます。先に述べたとおり「実はこんなところに寄付される」といったメッセージは拡散してもらいやすいからです。消費者は「賢い買い物をした」という実感を求めています。かつてのようにブランド志向の消費者ばかりではありません。この状況は中小企業にとってチャンスといえるでしょう。

プロフィール
うしくぼ めぐみ 日本大学芸術学部卒業後、大手出版社に入社。編集、PR担当を経験し独立。2005年1月より、財務省財政制度等審議会専門委員を務める。『男女1100人の「キズナ系親孝行、始めました。」』、『ただトモ夫婦のリアル』ほか著書多数。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2013年4月号