リーマンショックからこっち、中小企業の青息吐息が止まぬまま、いよいよ「金融円滑化法」が打ち切られた。昨年来、国の中小企業政策も「弱者救済」から「自立経営支援」へと大転換している。経営者は何を捨て、何を拾い、どう進むべきなのか。探ってみた。

 中小企業をめぐる環境が劇的に変わろうとしている。景気は上向きの気配が感じられるものの実感としては依然低空飛行。産業のグローバル化・空洞化も進展する一方だ。そんななか、注目の「中小企業金融円滑化法」(円滑化法)がこの3月末で終了した。転ばないよう支給された魔法の杖はもうない。国が昨年打ち出した「中小企業経営力強化支援法」にも強調されているように、中小企業経営者は自力で立ち上がり、自らの足で茨の道を歩き始めなければならない時代を迎えたのである。

三種の神器の効力に陰りが

 このような環境変化は、なにも円滑化法の終了だけに由来するものではない。いつの頃からか中小企業は「信用保証」「土地担保」「個人保証」という、いわば“三種の神器”に支えられ、依存するようになった。しかし、これら神器の効力がいま、弱まりつつあり、こちらの方が影響としては大きい。

 信用保証制度は急激な景気後退期における当面の倒産回避には一定の効果を上げた。とくにセーフティーネット保証など借入金の100%を保証する制度は、金融機関がリスクを負わないので、中小企業の資金調達を容易にした面は確かにある。

 しかし実際、この制度が中小企業のPLやキャッシュフローの改善につながったかというと「否」といわざるを得ない。経済産業省中小企業政策審議会の検討資料によると、保証先中小企業の借入金は平成10年には1社当たり441万円だったものが平成22年には525万円に、債務超過割合も27%から41%に増えている。これを見ると、結果として借金に苦しんでいた企業をより借金づけにしたにすぎない。また、代位弁済の増加で国の信用保険業務はかなり厳しい状況にあるとも伝えられており、今後、赤字を埋めるために、税金による補塡が続くようなら国民からの批判にさらされる可能性も高い。

 あくまで私見ではあるが、このままでは現在の信用保証制度の持続可能性は危ういといわざるを得ないだろう。

 「土地担保」制度も同様だ。少子高齢化が確実な日本にあっては、一部の都市圏を除いて土地価格の低落傾向は今後も続き、売るにしても買い手を見つけるのが大変な状況だ。先日も、ある会社の約1,000坪の工場敷地が売却価値ゼロと判定される現場にかかわった。建物の解体費用や土壌の汚染除去費用などが土地の時価を上回ってしまったのである。このようなケースはけっして珍しいものではなく、とくに地方の製造業には悩みの種となっている。それよりも何よりも、経営の厳しい企業の資産に、追加融資が可能なほどの担保余地が残っているとも思えない。つまり、土地担保による資金調達はすでに限界に来てしまっている企業も多いということだ。

 さらに3つ目の個人保証である。長らく、日本の中小企業の資金調達の要の一つだった個人保証。破産時における経営者の自殺などが増加し、近年では、金融機関は金融庁の指導もあり、第三者の連帯保証人はとらないことが慣行になりつつあるが、今般、国の法制審議会はより一歩踏み込んで、個人保証を原則廃止(経営者以外)する「民法改正案」を示した。これが国会を通過し、民法の改正によって個人保証が禁じられることになれば、モラル向上の点では喜べるが、一方で中小企業にとっては資金調達手段がひとつ減ることになる。

「決算書担保主義」への移行

 このように、「信用保証制度」「土地担保」「個人保証」が使えないとするならば、いったい中小企業はどのようにして資金調達を行えばよいのだろうか。

 結論から先にいうと、「決算書担保主義」が解決への糸口となる。

 そもそも、事業というのは「仕入れて」「売って」「利益を出す」のが基本である。普通に考えれば、これができなくなった事業はやめるしかない。利益が出せなければ事業の継続が不可能だからだ。ところが、前述の「三種の神器」を使えば、たとえ利益を出せない疲弊した事業でも企業として融資を受けて生きながらえることができる。それを世の経営者たちも「当たり前のこと」として受け入れてきたのだ。これは実はとても不自然な話である。

 では、「仕入れて」「売って」「利益を出す」サイクルが回っていれば、金融機関はお金を貸せるのかというと基本的には「諾」である。儲かっている、あるいは将来儲かることが分かっていれば貸さない理由がない。しかし、ひとつ重要な前提がある。このサイクルを証明できる経営資料が信頼できるものであるのかどうかだ。たとえば、この経営資料が古かったり分かりづらかったり、あるいはそのなかにうそがあったりすれば、金融機関は怖くて貸せない。つまり、金融機関に「貸す気」を起こさせるには、正確・迅速かつ信頼性のある決算書を作成することが絶対条件なのであり、これが前述した「決算書担保主義」の意味合いだ。決算書によって利益が出せると信頼するに足る根拠があれば、融資先がなかなか見つからず預貸率が低落傾向にある金融機関は喜んで貸すだろう。

 昨今、企業再生がらみで金融機関の方とお話をする機会が多いが、彼らが困っていることのひとつには再生を支援している企業の直近の月次試算表が出てこないという実態がある。年に1回、しかも信頼性に欠ける決算書を見せられただけでは金融機関側はいかんともしがたい。逆に言えば、これまで金融機関が担保至上主義だった理由は、中小企業の決算書に信頼がおけなかったからともいえるのである。

「認定支援機関」の役割とは

 そこで、経営者の方々に訴えたいのは、まず、顧問税理士と連携して迅速な月次決算体制をつくること。これがすべてのスタートだ。そして、中小会計要領(『戦略経営者』2013年4月号20~21頁参照)に準拠して分かりやすい正確な決算書を作成することである。中小会計要領に準拠すれば、減価償却費や引当金の適正な計上がなされ、第三者が経営の中身を正しく見ることができる。そのため、経営改善計画を策定する際にも、当初に行われるデューデリジェンス(DD:資産査定)の手間が少なくてすむ。かつて私がかかわった再生支援では、たとえば帳簿上は9,000万円の債務超過だったが、DDの結果、1億3,000万に修正されたことがある。その差、4,000万円のほとんどが減価償却費の未計上によるものだった。中小会計要領に準拠し、月次のモニタリングが行われていれば、このような差は出なかったはずである。

※デューデリジェンス
一般に投資家が自らの投資対象の適格性を把握するために行う調査活動全般のことを指す。事業・財務・法務面から将来性・現状・課題などを洗い出す方法論は、最近では企業再生や経営改善計画の策定の際にもさかんに援用されるようになっている。

 さて、中小企業が再生するための大前提は、要するに、正しい決算書に基づいた実現可能性の高い経営改善計画をつくり、最低でも目標売上高・経常利益の8割をクリアするようにモニタリングしていくことである。この流れをつくりさえすれば生き残ることができる。とはいえ、円滑化法に基づく条件変更を受けた企業だけを見ても、昨年9月末で40~60万社と膨大な数に上り、そのなかで5万社が整理・廃業に追い込まれるのではと、一部では予想されている。これらを含め、改善が必要なすべての企業群に対して、支援する機関が金融機関だけというのでは圧倒的なマンパワー不足である。そこで、そのマンパワー不足を補うために「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関)という制度(『戦略経営者』2013年4月号12~15頁参照)が設けられた。

 認定支援機関の詳しい役割については後欄にゆずることにして、少なくとも経営者と、専門的な知識を持つ税理士等の認定支援機関が協力して経営改善計画をつくり、モニタリング、目標達成へとつなげていくことで事態を打開しようという国の思惑が明確に見てとれる。対象となるのは円滑化法の適用を受けた企業に限らない。緊急経済対策で2万社を対象に、この活動に405億円もの予算をつけていることからも国の本気度を推し量ることができる。

返済原資を稼ぎ出せるか

 再生可能な企業とは、要するに営業キャッシュフローを出せる企業のことである。言い換えると、金融機関への返済原資があるかどうかが再生を左右するということだ。営業活動によって返済原資をひねり出すことができれば、金融機関もそれに合わせた再生手法を検討することができる。逆に、営業キャッシュフローが出せない企業は会計の原則からいえば自主廃業か破綻処理を選択すべきであるし、そのような苦渋の決断も今後増えてくるだろう。

 とするならば、社長の最大の役割は、営業キャッシュフローを稼ぎ出すことである。月次決算体制、正確な決算書に加えて、営業キャッシュフローの創出、この3つがそろってはじめて再生のテーブルに上がることができ、リスケ、債権放棄、資本性借り入れなどといった具体的再生手段に踏み込めるのである。

 結局のところ会社の浮沈を決定づけるのは経営者の自覚である。「仕入れて」「売って」「利益を出す」という商売の本来の姿をもう一度取り戻すことだ。そんなに難しいことではない。立派な歴史を持つ会社の社長さんたちがなかなか経営改善へのきっかけをつかめない理由は、何がまともな経営なのかが分からなくなっているからだと思う。

 一例を挙げよう。

 とある経営改善中の中小メーカーに話を聞いてみると何と驚くべきことに、昭和40年代からずっと製造している商品が同じであった。当然のことながら競争力を失い、10年前くらいから預金を食いつぶしながら会社を継続してきたが、いよいよ限界が来てしまった。なぜ利益が出なくなった10年前に数字をきちんと分析し、手を打たなかったのか。新製品を開発したり、マーケットを変更したり、あるいは海外進出をするなど、やり方はあったはずである。

 現在、業績不振に陥り、再生に取り組む中小企業のなかでかなりの割合の会社が、この手のプロセスを踏んでいる。つまり、冒頭で述べたように「信用保証」「土地担保」「個人保証」に依存して、利益が出ないにもかかわらず事業をずるずると継続してきたのである。また、そのことに気づかせ、アドバイスする人がいなかったことも共通している。

 ことほどさように、中小企業の不振の原因は意外なほど単純なケースが多い。経営者はそれに気づき、早期に対策を打たなければならない。認定支援機関の本来の役割も、経営者に気づかせ、自立させることにある。もうお気づきだろうが、国は「弱い企業を助ける」というスタンスから「がんばる企業を応援する」スタンスに大きく舵を切っている。中小企業の経営の自立が成就するかどうかは、経営者自身の意識改革がカギを握っているのである。

プロフィール
まつざき・けんたろう 税理士・公認会計士 松﨑堅太朗事務所所長。1996年10月中央監査法人東京事務所入所。97年3月学習院大学経済学部卒業。99年7月公認会計士松﨑堅太朗事務所設立。2000年8月TKC全国会入会。07年1月に湯澤文弘税理士事務所を承継し、税理士・公認会計士 松﨑堅太朗事務所に名称変更。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2013年4月号