アベノミクスによる効果で、ようやくデフレ脱却が果たされるのではと期待されています。こうしたなか今年も社員のモラールアップを狙って賃上げを考えていますが、中小企業の相場を教えてください。(機械部品加工業)
昨年12月に発足した安倍内閣は、デフレ脱却・経済再生を最優先課題と位置づけ、金融政策や財政政策で矢継ぎ早に具体的なアクションを起こしています。いわゆる「アベノミクス」が実行に移されているわけですが、その一環として、企業に対して異例の賃上げ要請も行われています。
こうした流れのなかで、昨年秋ごろには定昇見直しにまで言及していた経団連はやや態度を軟化させています。ベアの実施も含め、大手流通企業で賃上げの動きも出てきています。
しかし、全体としてみれば賃上げに対する企業の慎重姿勢は変わっていません。企業の人件費負担の度合いを示す労働分配率(粗付加価値に占める人件費の割合)は2012年10~12月期で65.66%と、適正水準とみられる65%をやや上回る水準にあり、必ずしも積極的に賃上げを行っていけるだけの収益状況にあるとはいえません。こうした点が企業の賃上げ慎重スタンスの背景にあるわけです。
もっとも、今後を展望すれば、円安の定着や緊急経済対策の効果で景気が回復に向かうことが予想されるもとで、労働分配率も低下に向かうでしょう。それにより、企業には賃金を支払う余地は出てくるでしょう。こうした先行きを展望したうえで、企業の中には賃金を増やすところも出てくると思われます。
ただし、それはボーナス・一時金が基本でしょう。月例給の引き上げに踏み切る企業は少数派とみられます。月例給を増やせば社会保険料や退職金も連動して増えるため、よほど企業の中長期的な成長への自信がなければ、そこまで踏み切ることは難しいからです。
このようにみれば、13年の大手企業の賃上げ率は昨年(厚生労働省ベースで1.78%、経団連大手企業ベースで1.81%)と同程度の1.8%弱と見込まれます。
以上を踏まえ、中小企業の賃上げ環境を展望してみましょう。アベノミクスの恩恵は中小企業にも及び、徐々に経営環境は好転するとみられます。もっとも、労働分配率の動きをみると、大企業に比べて改善が遅れており、大企業以上に春闘賃上げ率は慎重スタンスを示す企業が多くなると見込まれます。経団連中小企業ベースでは昨年の賃上げ率は1.55%、額にして約3,880円でしたので、このベースでいえば、13年の賃上げは率で1.6%弱、額で3,900円程度になると予想されます。
ここで留意すべきは、2014年度入り後に消費税率が引き上げられることから、現在始まりつつある景気回復がいったん大幅に減速を余儀なくされることが予想されることです。この点を踏まえれば、2013年度についての春闘賃上げ率に対する慎重姿勢は当然といえるかもしれません。
しかし、その後、より中長期を展望すれば、これまでの人件費削減が比較的やりやすい環境が変わっていく可能性があります。政権がデフレ脱却に向けて本腰を入れ始めており、日銀短観によれば中小企業・非製造業全体では人員不足になっています。こうした延長線で考えれば、徐々に賃金に対して上昇圧力がかかっていく可能性を否定できません。
その意味で、中小企業にとっても、将来的な賃上げを見越して、事業構造の転換や新規事業に早めに着手していくことが求められているといえるでしょう。