鹿児島県の北西部に位置する出水市に本社を置くグローリーは「多国籍個室居食家あかりや.COM」の業態で3店舗を展開する元気企業だ。従業員の士気向上には「ご褒美をかねた研修旅行も大事。沖縄や東京などいろいろな場所に連れて行きました」と話す坂元誉社長(40)。その独特の感性から繰り出される経営戦略に迫った。

オリジナルメニューで各店舗の個性を前面に

グローリー:坂元社長(右)

グローリー:坂元社長(右)

──居酒屋店を営まれているそうですが、お店の特徴は?

坂元 「多国籍個室居食家あかりや.COM」という店名からもわかるように、すべて「個室」であるところが大きな特徴です。個室なら、お子様連れでも周りに迷惑をかけずに済むため、ファミリーでいらっしゃるお客さまも多いですね。
 そして、各部屋ごとにテレビが設置されているのも特徴の一つ。テレビやDVDを鑑賞することができます。フットサルや草野球のチームの仲間が集まり、自分たちの試合を撮影したDVDを見ながらお酒を飲むといった使い方がなされています。

──現在、鹿児島県内に3店舗を展開されているそうですね。

坂元 出水店(出水市)、川内店(薩摩川内市)、宮之城店(さつま町)の3つがあります。いずれの店舗も平均単価は約3,000円といったところです。

──多店舗展開をうまく回すコツは何でしょう。

坂元 店長同士の競争意識を高めて、より高みを目指してもらうことでしょうか。具体的には、各店舗オリジナルのメニューで競わせるといったやり方でです。うちではグランドメニューは全店で統一するものの、それ以外は地域のお客さまの要望を取り入れるなどしながら店長が自由に決めて構わないとしています。たとえば「シメにラーメンがほしい」という要望があれば、メニューに加えることを考えるわけです。もちろん、おいしいかどうかや、適正な値付けであるか等を私が見極めたうえでの話ですが。
 とにかく人気メニューが誕生すれば、その分だけお店の売り上げが伸びる。それを知った他の店長が「負けてたまるか」と、もっと魅力的なメニューを考案する。そうした競争のなかで会社全体がレベルアップしていくと考えています。

──ファンを増やすために意識していることは何でしょうか。

坂元 当店の場合、従業員たちが自分の「個性」を生かした接客を心がけていかないと、なかなかお客さまの心に響かない。というのは、個室なので基本的にふすまを開けたときの一瞬しか接客のタイミングがないからです。瞬間的に顔をおぼえてもらって、次回の来店につなげるためには相当なインパクトが要る。だからロボットみたいな子はあまり好きじゃないですね。

──起業の経緯を教えてください。

坂元 飲食業界に足を踏み入れたのは17歳のときでした。最初は和食で、その後は洋食の料理人として修業を積みました。若いころから「いつかは自分の店を出したい」との気持ちがありましたね。当時はその気持ちがないと、自分の理想とする店舗作りはできないと思っていて、28歳ぐらいまでには……と密かに目標を立てていました。実際には、それより少し早い25歳のときに長崎・佐世保で「炭火焼き酒屋たんたん」の名前で店を出すことができました。その後、地元である出水市にもどり、3坪ほどの小さな焼き鳥屋を出店。それから2年後の2008年に「あかりや」を始めました。

さまざまなデータ解析し「財務経営力」を強化

──ここ数年の業績の推移はいかがですか。

坂元 おかげさまで増収増益を続けています。『FX2』を活用して自社の経営状態を毎月タイムリーに把握していることがこの好調の大きな要因の一つでしょう。期末に目標経常利益を達成するにはどのような「打ち手」があるか──などシステムから導き出されるデータを通じて考えながら経営できるのは大きいですね。

──『FX2』の導入は4年前だったと聞いています。

坂元 銀行から紹介された丸尾先生と税務顧問の契約を結んだのがきっかけでした。飲食業は毎日現金が入ってきては出ていく商売。手計算に頼っていたのでは、どうしても間違いが多くなります。最終的に帳簿のお金が合わないと、スタッフの責任にもなってしまう。それを避けるためにも、やはりちゃんとしたシステムが必要だと判断して『FX2』の導入に踏み切りました。実際に使ってみると経営に関するさまざまなデータが入手できて、いわゆる「財務経営力」の強化に役立ったと思っています。

──たとえばどのような点が……。

坂元 労働分配率(人件費÷限界利益)を意識しながら、ある一定の範囲内でアルバイトを増減するといったことが各店舗でやりやすくなりました。数字化されると、店長たちにも分かりやすいんですよ。「アルバイトをもう1人増やすためには、売り上げをどれだけ増やさなければならないか」といったことが頭の中でイメージしやすくなります。

──部門別管理は?

坂元 各店舗を部門に見立てて管理しています。店舗ごとの売上高、変動費、限界利益、固定費などの数字を店長たちに公開し、「仕入れ値はそう変わらないのにあの店は原価率がいい」などといった“気づき”を与えるようにしています。

イベントを企画・開催し来店客のテンションを上げる

──会社全体の限界利益率を向上させるための工夫はありますか。

高橋(専務・経理担当) 仕入れ先を厳選することくらいでしょうか。お客さまのサービスに直結することに関してはあまり経費削減の対象とはしないようにしています。お皿1枚かけていればすぐに買い直すし、経費が余計にかかることは承知のうえでさまざまなイベントを開催しています。先日は「ホラーイベント」と称して、店内にお化け屋敷をつくり、お客さまに楽しんでもらいました。

坂元 おもしろおかしくやって、お客さまのテンションを上げていくことも大切なんですよ。

──『継続MAS』を使って予実管理をされているそうですね。

坂元 丸尾先生といっしょに『継続MAS』で5カ年の経営計画を作ったうえで、それをもとに単年度計画(予算)を策定しています。さらにその単年度計画を月別に振り分けて、各店舗の毎月の予算とします。そしてさらに、各店長が昨年の実績やカレンダーの曜日を勘案しながら月次の予算を「日割り」の予算に作り替え、毎日の目標数値を決めます。「今日はイベントを開催するから、売り上げはいつもより高いだろう」と判断すれば、店長が自分の裁量でその日の予算を引き上げてもいい。こうした仕組みのなかで、予算と実績との比較を行っていきます。

──予算と実績とを比較して、その達成度合いを見ていくマネジメントのあり方をどう思われますか。

坂元 与えられた予算をクリアすれば、結果として自分たちの給料があがるとみんなには伝えてあります。従業員のやる気を引き出すうえでも有効なマネジメント手法だと思います。逆に、そうした計画がないと頑張りようがないし、「今日はいくら売らないといけないから、何かしよう」といった気持ちが湧いてこない。例えばビラ配りをしよう、本日限りのイベントをしよう、今日は飲み放題を実施しよう、などと意欲的な気持ちを出してもらうためにも必要といえます。

──業績検討会は行っていますか。

坂元 月に1回の店長会議がそれに当たります。各店舗を順番に回るかたちで行っていて、毎月の業績について話し合うだけでなく、反応のよかった料理のレシピを教え合ったり、仕入れ先の情報交換などもしています。

──社長自身、新メニューの考案や仕入れ先の開拓には相当力を注いでいるそうですね。

坂元  毎日2時間ぐらいはインターネットを活用して、魅力的な食材を探しています。意外と楽しいものですよ(笑)。それと、お店にあるメニュー(ブック・シート)作りはすべて自分でやるようにしています。パソコンを使って、文字のフォントなどに自分なりの工夫を凝らしながら納得のいくものを製作しています。お客さまを飽きさせないためにも頻繁にメニューの内容を変える必要があるため、1年間に3~5回ぐらいはリニューアルしています。これらを全部業者まかせにすると1回数十万円はかかる。でも自作ならずっと安くできます。

──今後の目標は?

坂元  店長を経験した社員を統括マネジャーにするとか、どんどん私の役割を委譲していきたい。それによって、従業員の給料を上げていければと思っています。とにかく「うちで働きたい」「うちを辞めたくない」と思ってもらえる会社にしていきたい。多店舗化を推進しているのは、店長という役職をどんどん増やして、みんなに楽しみを与えたいからでもあります。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 合同会社グローリー
設立 2009年5月
所在地 鹿児島県出水市本町6-13
TEL 0996-63-3535
売上高 約2億円
社員数 35名(アルバイト含む)
URL http://www.aka-riya.com/

CONSULTANT´S EYE
本気で本物のご支援をこの先もさせてもらいます!
所長税理士 丸尾徳文 丸尾徳文税理士事務所
鹿児島県出水市緑町10-3 TEL:0996-62-4940
http://www.tkcnf.com/marutinn-net/

 坂元社長とのお付き合いは、地元の金融機関様から「今は小さな店舗で事業をされていますが、計数管理をしっかりとされている社長さんなので、ぜひサポートしてほしい」と紹介されたことから始まりました。開業当初は5、6人ぐらいしか入れない3坪ほどの店舗のみでしたが、ここ3年ほどで出水店、薩摩川内店、宮之城店と鹿児島県内に3店舗(270席)を展開されています。

 ここまで短期間で事業を展開し、増収増益を続けてこられた要因には、経理を“経営の羅針盤”として活用する、業績管理体制がしっかりと構築されていることがあると思っています。

 毎月の巡回監査では、開業当初は多くの経理上のミスや間違いなどがあったものの、今では証憑書類は整理され、巡回監査における指摘事項はほとんどありません。自社の経理は自分たちできちんと行える経理体制(月次決算体制)が整備されています。

 また、カンと度胸と経験だけでは、これからの時代は乗り越えられないことを熟知されており、経営計画(予算)の策定には、各店舗の店長も参加して、坂元社長、高橋専務とともに行っています。策定した予算については、全従業員が見て意識できるようにし、その日の売上高が予算に達しない場合などは、従業員さんがお客さまへ「お飲み物はよろしいですか?」などといった声かけを行い、予算達成のために全社員が取り組む体制が整っています。

 坂元社長の経営理念は、「私たちは、法令や社会的規範を守り、地域社会の人々と共に生き、共に笑い、共に成長し、信頼される企業を目指します」であり、信頼される企業にするために日々まい進されています。正しい経理が経営の基本であることを信じ、信頼される企業を目指すグローリー様を今後も本物の「書面添付」、本当の「自計化」、本物の「継続MAS」を通じて、本気で本物のご支援をさせていただきます。

掲載:『戦略経営者』2013年3月号